漢字1文字の一般公募で1年の世相を表す「今年の漢字」、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るった2020年は「密」が第1位に選ばれた。とりわけ「3密」という言葉は「流行語大賞」にも選ばれた。関西の街の受け止めは?

「コロナ感染予防としての3密回避。逆に密になりすぎていた日常を見直す機会にもなりました。『密』を避けるために行動範囲が規制されましたが、逆にオンライン飲み会で、普段会えない遠方の友人や親戚と『密』に関わりを持つことができました」《30代男性・神戸市中央区》
「私が1文字を選ぶなら、コロナ禍の『禍』。誰もこんな情勢になるなんて。本当に禍(わざわ)いの年だなと思って」《20代女性・大阪市北区》
「今年は『密』しかないな、と思ってました。これからウイルスとどう付き合うかが大事ですし、新しい生活様式のもと、この『密』には注目していかなければ、と思いますよ。距離は空いてしまいますが、他人を思いやることこそが『密』なのかなぁ。私たち女性にとっては、気の知れた友人が楽しく集まってお話ししたりできなかったのは辛かったですね! それに町内の地蔵盆に運動会、祇園祭(山鉾巡行)もなくて本当に寂しかったです。今年ほど世界中の幸せや安穏を考えた年はなかったです」《40代女性・京都市上京区》
「人と会うのは、どうしても『密』になりますよね。飲食も伴いますから。早く人と触れ合える『密』な時代が来ないかなあ、と期待します」《50代男性・川西市》


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主催する公益財団法人・日本漢字能力検定協会(漢検)によると、2020年は20万8,025票(※昨年・2019年は21万6,325票)の応募があり、『密』が2万8,401票(13.65%)を集めて1位に。主な理由として、新型コロナウイルス感染症が日本を含め世界的に流行し、1年を通して日々の活動が制約され、多くの方々が 『密』という漢字1字を意識し続けた。コロナ感染防止策として、「換気が悪く」、「人が密に集まって過ごすような空間」、「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」を避けることが政府から要請され、自治体からは『NO!3密(密閉・密集・密接)』という言葉が発信された。

その反面、避けるための新しい生活様式が提唱され、在宅勤務でのリモート会議、オンライン飲み会や遠方の友人・親類などと映像を通してバーチャルに会う機会が生まれた。物理的距離があるなかでも『密』に人との関わりを持つことができる、と感じた人も多かった。日本学術会議の一部会員の任命拒否といった政治判断が内『密』に行われたことや芸能界での『密』会報道なども最多応募の背景にあったとみている。
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日本漢字能力検定協会・専務理事、山崎信夫さんは次のように分析する。

「予想通りでしたが、禍・疫かなあとも思っていました。『密』というのは、皆さんが早く新型コロナが収束して、本当は密接になりたいという気持ちの裏返しなんだと思います。切なる新型コロナ終息への思いといいますかね。政界についても、もっとオープンに物事を進めてほしい、という批判の現れもありますよ」

「上位10位までがコロナ関連ですが、こうしたなか『鬼』『滅』が入ったのは興味深いですね。やはりアニメ「鬼滅の刃(きめつのやいば)」の影響は大きいです。例えば主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、鬼にされた妹・禰󠄀豆子(ねずこ)へ刀を向けた鬼殺隊に土下座をして殺さないよう懇願するものの、『生殺与奪の権(他人に対して「生かす」か「殺す」かを選択できる権利)を他人に握らせるな』と諫められるシーンがあり、鬼と戦うよう促されるストーリーがありますが、何か得体の知れないものに対して果敢に挑戦して断ち切ろうとする世界観に興味をそそられるのだと察しますね。
漢字の応募で、毎年出てくるものがあります。『災』がそう。ただ今年は上位20位の中で、『鬼』『滅』以外に今までになかった文字が11もあったんです。『家』(巣ごもりとしての)、『粛』(自粛・つつしむ)といったように。選ぶ漢字の傾向が激変した年ですよ。忘れられない2020年です」

※2位は「禍 *」、3位は「病 *」と、いずれも新型コロナ関連。4位以下は「新」「変」「家 *」「滅 *」「菌」「鬼 *」「疫 *」となった。「鬼滅の刃」のヒットも影響した。11位以下は「粛 *」「染」「耐」「感 *」「命」「離 *」などの順(*印は新出)。

12月14日に京都・清水寺で森清範・貫主によって揮毫(きごう)された『密』の文字は、京都・祇園の漢字ミュージアムで開催中の「今年の漢字展」(〜2021年1月31日)に移設され、歴代の1文字とともに正面入口に展示されている。なお『密』の文字は2021年、常設で展示予定。


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来年こそは対面で『密』に人と関わり合えるように。そんな願いも込めて、大晦日まで4回にわたり『密』に思うことを特集する。