新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活様式が大きく変わった2020年が終わり、新たな年を迎える。元日の楽しみの1つに「初日の出」があるが、2021年の幕開けは外出自粛、ステイホームのなかで過ごす、「特別な年越し」「特別な年明け」となりそうだ。そこで第5管区海上保安本部(神戸市)海洋情報部・監理課専門官の和志武尚弥(わしたけ・ひさや)さんに、初日の出にまつわるさまざまなお話を聞いた。

豊後水道から愛媛県の方向に朝日を望む(※2020年4月17日・5時50分 高見昌弘さん撮影)
豊後水道から愛媛県方向に日の出を望む(2020年4月17日・午前5時50分撮影 高見昌弘さん提供)

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 例年と違い、密を作らないために、実際に初日の出を見る機会がないかもしれません。しかし皆さんにとって太陽の動きというのは普段、日常生活の中に溶け込んでしまい、あまり意識することはないだけに、新しい年を迎えるにあたり、ご自宅から空を見上げて、こういった天体の動きに思いをはせてみるのもいいのではないでしょうか。そこで初日の出にまつわる様々なお話をしましょう。

 ところで「日の出、日の入り」は気象庁が調査して発表していると思っている方が多いのではないでしょうか。実は、海上保安庁が情報を提供しており、船の安全な航海のため、毎日の天体の位置を知らせるほか、日の出や日の入りの時間を載せた「天測暦(てんそくれき)」という暦を出しています。

2021年(令和3)年天測略暦・天測暦・潮汐表
2021年(令和3)年天測略暦・天測暦・潮汐表〈※画像提供 第5管区海上保安本部〉

■なぜ海上保安庁で日の出や日の入りなど天体の情報を提供しているのか?

 現在では太平洋の真ん中などで船が自分のいる位置を知る方法として、GPSが普及していますね。約500年前の大航海時代からほんの数十年前までは、星や太陽、月を測ることによって船の位置を決めていました。皆さんも、太陽の方向や高度などから方位や大体の時刻を確認したりしたことがあるのではないでしょうか。

 天文学、いわゆる天体を知ることは、航海者にとって欠かすことのできない知識だったんですね。このため天体の情報が必要となり、明治初期から海軍が航海者のために「天測暦」、漢字では「天を測るこよみ」と書きますが、これを刊行してきました。そして、第二次大戦後に海軍が解体された際、海上保安庁がこの事業を引き継いだのです。

「天測暦」には、太陽や月、金星や木星といった惑星などの毎日の天体の位置や日の出、日の入り、月の出や月の入りなどの情報が掲載されています。このほか日食や月食の情報、サンフランシスコやシドニー、上海など世界の大きな港の日出、日の入時刻なども掲載されています。世界をまたにかけて航海する船舶と天体の情報とは、切っても切れない関係にあるのです。

 この天体を利用して航海する手法は、現在でもGPSが故障して使えなくなった時の予備として必要な知識、技術とされています。

天体を利用して公開する方法はGPSが故障した時の予備として必要〈※画像提供 帆船「みらいへ」〉
天体を利用する航海はGPSが故障した時の予備として必要〈※画像提供 帆船「みらいへ」〉
天測暦(神戸港の日の出・日の入り時刻)〈※画像提供 第5管区海上保安本部〉
天測暦(神戸港の日の出・日の入り時刻)〈※画像提供 第5管区海上保安本部〉

■「日の出」の定義は厳密に

「日の出」とは太陽の上の端が地平線や水平線に接する瞬間のことを言います。反対に日の入りは、太陽が沈みきった瞬間になります。日の出直前の空が薄明るくなってきた頃は、薄明や黎明、曙、暁などと呼ばれています。

 日本では冬場のこの時期、日の出は南東方向の地方が早く、西に行くにつれて少しずつ遅れていきます。東経がほぼ同じ京都と和歌山県の潮岬を比べてみると、南にある潮岬の方が約4分早く日の出を迎えます。同じ兵庫県でも南部・瀬戸内の姫路市と北部・日本海側の豊岡市の城崎では約2分、日の出の時刻が違ってきます。一方、夏場は反対に、北東方向の地方が早く日の出を迎えます。

 また、山の上や高層住宅のように標高の高いところでは、地上より早く日の出を迎えます。標高が50メートル高くなると約1分、200メートル高くなると約2分ほど早くなり、1000メートルくらいまでは200メートル高くなるごとにほぼ1分ずつ日の出が早まっていきます。たとえば、地上50メートルほどの建物、15〜16階くらいの部屋で約1分、標高160メートルの神戸の諏訪山公園展望台では約2分、東京・スカイツリーの450メートル展望デッキでは約3分、地上より日の出が早くなります。

 このように場所によって日の出の時刻が変わるのは、私たちの住んでいるこの地球が平面ではなく丸いということと、地球の北極と南極を結んだ直線、地軸または自転軸とも言うんですが、これが太陽の周りを回っている地球の公転面に対して傾いているために起こります。

 それから、皆さんも朝の通勤や通学で毎日の日の出の時刻が変化しているのにお気づきかと思いますが、日の出の時刻は、年明けのころが一年で最も遅い時期となります。

コンパスローズ〈※画像提供 第5管区海上保安本部〉
コンパスローズ〈※画像提供 第5管区海上保安本部〉

■冬至が一番日の出が遅いかと思っている方も多いが……。

 それは違います。二十四節季の1つ、「冬至」(※2020年は12月21日)は北極と南極を結んだ線・地軸が太陽に対して最も傾きが大きくなるので、日の出から日の入までの昼間の時間、これが1年で最も短い日となります。

 実は日の入の時刻は冬至の前、12月上旬が一番早くて、今は少しずつ日の入が遅くなってきているんです。逆に日の出は冬至のあともしばらく遅くなり、年が明けた1月の上旬に最も遅くなります。これらは、太陽と地球の位置関係や動く速度など様々な要因で起こります。

帆船みらいへ 六分儀
「六分儀(ろくぶんぎ)」は天測航法のために天体と地平線との間の角度を測定する〈※画像提供 帆船「みらいへ」〉

■2021年、初日の出の時刻は?

 2021年の初日の出が全国で最も早く見られるのは日本の一番東の端にある、本州からおよそ1,800キロ離れた東京・小笠原諸島の1つ、南鳥島で、午前5時27分に日の出を迎えます。また本州では富士山山頂の午前6時42分が一番早い時刻となります。

 逆に全国で最も遅い初日の出となるのは、日本の一番西の端にある沖縄・与那国島で、午前7時32分です。日本で一番早い南鳥島と最も遅い与那国島とを比べると、何と2時間近い差になります。

 近畿周辺の各地の初日の出時刻は、奈良が午前6時54分と最も早く、比叡山山頂で午前6時59分、生駒山で午前7時0分、六甲山山頂も午前7時0分となっています。

 近畿の平地で一番早いのは、南紀和歌山の新宮から潮岬にかけてで、午前7時ちょうどになります。このほか京都で午前7時5分、大阪も午前7時5分、神戸は午前7時6分、姫路では7時8分です。

コンパス〈※画像提供 ヨット「サザンクロス号」中路康行氏所有・大阪北港マリーナ〉
コンパス〈※画像提供 ヨット「サザンクロス号」中路康行氏所有・大阪北港マリーナ〉

■初日の出のベスト・ショットを撮りたい方にとっては、外出自粛のなか少しさびしい元日となりそうだが……。

 そうですね。ただ一般的な知識として知っていただいて、ご自宅で思いをはせるのもいいんじゃないでしょうか。関西では真北を0度として時計回りに118度、だいたい南東方向より少し東側から太陽が昇ります。方位磁石のコンパスで方位を調べる方も多いと思いますが、実は磁石が示す北と、地図で示す真北には少しずれがあります。磁針方位、と言うのですが、神戸近辺では磁石が示す方位は真北から8度ほど西にずれていますので、方位磁石で方位を確かめられた場合は、ちょっとだけ右を向くといいでしょう。

 密にならない空間を選んで初日の出を見に出かける際は、足場や周囲の交通の状況などを明るい時に確かめていただき、来るべき2021年こそは新型コロナウイルスの収束を願って、心も体も安全に「ご来光」をお迎えください。

帆船「みらいへ」から見る日の出〈※画像提供 帆船「みらいへ」〉
帆船「みらいへ」から見る日の出〈※画像提供 帆船「みらいへ」〉

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■水平線から浮かび上がる朝陽に生きる勇気を……海の男が託す夢

 帆船やヨットによるセイルトレーニングを中心に、地域交流イベントなどで精力的に活動する伊丹市の会社員・高見昌弘さんは、ラジトピに初日の出の画像を寄せた。そして「やはり希望が湧くのは水平線から日の出。生きる勇気をもらうのは燃えるような太陽。朝の来ない夜はない。このコロナ禍が一日も早く明けて欲しい」と来るべき年に希望を託した。

◇各地の初日の出の時刻については、第5管区海上保安本部・海の相談室のホームページで紹介。パソコンやスマートフォンでは「第5管区海上保安本部 海の相談室」で検索できる。このほか海水温や潮汐、海の流れほか航海安全のための情報など、様々な海の情報提供を行っている。