漢字1文字の一般公募で1年の世相を表す「今年の漢字」、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るった2020年は「密」が第1位に選ばれた。芦屋市でNPO法人「さんぴぃす」理事長を務め、兵庫県立大学非常勤講師として「キャリアデザイン」を通して女性の起業支援やなども行っている河口 紅(かわぐち・くれない)さんが思う『密』とは?

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河口 紅さん  NPO法人「さんぴぃす」代表 女性のリ・チャレンジ支援にも取り組む
河口 紅さん  NPO法人「さんぴぃす」代表 女性のリ・チャレンジ支援にも取り組む

「密の無いクリアな社会」「密を避ける」というと真っ先に頭に浮かぶのが新型コロナウイルス感染防止だが、私が考える「密の無いクリアな社会」とは、物理的な人と人との距離のことではなく、これからの世界が求める新たな社会像のこと。社会の変化に伴いこれから求められるコミュニケーションのスキルも大きく変わるので、社会の変化に適応できるようにアップデート(更新・変化)を続けられる人でないと生き抜いていけない社会でもあると思う。

 これまでの男性主導の社会では、重要なことが決められるときは特定の人間が密会し、密談により決まってきた。どのように決められたのか、それにかかわった人は誰なのかといったことは問題にならず「成果」のみが問われた社会だ。しかし、これからは成果が問われるのはあたりまえだが、それに加えてプロセスがクリアであることが求められる。貧富の差なども関係なく誰もが感染する可能性のある新型コロナウイルスは、ある意味平等であるように、これまでの既得権や特権は無意味となり、誰もが平等にクリアであることが求められる時代が生まれる。

河口 紅さん「密会に密談…以前の男性社会ではごく当たり前だった」
河口 紅さん「密会に密談…以前の男性社会ではごく当たり前だった」

 ビジネスでOMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインが融合した社会の意)が進む以上、対人関係も同じように対面での存在感が小さくなり、オンラインの接点が多くなる社会が訪れようとしている。コロナ禍において一層拍車がかかり、オンラインでのつながりを持たない、純粋に対面だけの関係は、さらに頻度が少なくなるだろう。

 例えば、私は主にFacebook(フェイスブック)を活用して自分のビジネスについてや日々の活動、思い、どんなイベントに参加したかなどを記録し発信している。Facebookは原則として実名と実写真をプロフィールに使用しければならないツールなので、自分をあまり脚色せず等身大に近い発信を心掛けている。

 だから、今日初めて会った人でも、私のFacebookを見れば私が『鬼滅の刃』の「我妻善逸」推しであるとか、仕事では女性の起業家支援に乗り出しているとか、すぐにわかってもらえるので、雑談するにも話題は事欠かないと思う。

 これまでは対人関係のベースとなる信頼性の構築に「時間をかける」ことが重要とされてきたが、SNSでつながっていれば、私というプロファイルを知るにはおそらく10分もかからない。昔のような「長いお付き合いですから」という言葉に代表されるようなアプローチよりも、これからはオンラインでつながるといったコミュニケーションが求められる。ドラマ『半沢直樹』で半沢が部下に「飲みに行こうか」と誘うと「どうしてですか?」と聞き返されて言葉に詰まるシーンがあったが、今はリアルで会い、お互いの理解を深めるためにはまずオンラインでつながっている必要があることを示しているシーンだったように思う。

河口 紅さん「オンラインで誠実に生きていくことが重要な時代に」
河口 紅さん「オンラインで誠実に生きていくことが重要な時代に」

 これからの社会で実際に対面する機会が少なくなる以上、私たちはオンラインで誠実に生きていくことが重要になると思う。そこには権力や肩書に特権は無く、不適切な発言をすれば誰でも容赦なく炎上する、いわば平等で「密」の無い社会である。それは、日本文化が得意としてきた「あいまいさ」が許される寛容な社会ではなく、契約や論理性が重視される厳しい社会かもしれない。しかし、その中を生き残るためのキーワードは「女性性(女性らしく、という意味)」である。これまでの男性社会においては「人に助けを求める」のは恥ずかしいとされてきたが、むしろ今は人に助けてもらえることが大事であると発想を切り替えるのが重要だと思う。

 例えば昔は事業を始めるために資金が無ければ、自分で何とかしなければならなかったかもしれないが、今は目的が明確であり使われ方が公正であればクラウドファンディングという手段で人に助けを求め、少額ずつ資金を調達することができる。なぜ助けてほしいかを正しく伝えられるコミュニケーションは「共感」という「女性性」だ。このほか「与える」よりも「受け取る」、「議論」よりも「雑談」、「おせっかい」、なども「女性性」だろう。これらの特性はこれまでは女性のことを揶揄するときに使われていた言葉だ。しかし今はこの特性を持てない経営者は吹きすさぶ嵐の中をたった一人で戦い続けなければいけないだろう。

 これから私たちの前に広がる社会は既得権が幅を利かせる密閉した未来ではなく、クリアで解放された未来だと私は信じたい。

2020年「今年の漢字®」第1位「密」清水寺にて《主催・写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会》
2020年「今年の漢字®」第1位「密」清水寺にて《主催・写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会》

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2019年6月出版「リクルートのすごいまちづくり」(世論社)地域創生の参考書として
2019年6月出版「リクルートのすごいまちづくり」(世論社)地域創生の参考書として

◇河口 紅(かわぐち・くれない)
NPO法人さんぴぃす(芦屋市)理事長/株式会社教育情報マネジメント執行役員/兵庫県立大学非常勤講師「キャリアデザイン」
関西大学卒業後、(株)リクルートに入社。入社3年目から営業リーダーとしてチームを全国1位に導いた。退職後は2003年にNPO法人さんぴぃすを設立、起業。現在は「日本の子どもたちに世界一の教育環境を!」をテーマに2つの教育系NPO法人を経営。また母親としての女性のリ・チャレンジ支援に取り組んでいる。Facebook社#起業女子プロジェクト兵庫県担当トレーナーとして各地でWEBマーケティングセミナーなどを開催、女性起業家のネットワークづくりも手掛ける。