京都に生まれ、大正・昭和期の美術界をけん引した日本画家、堂本印象の特別展が明石市立文化博物館で開かれている。学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク。作品の見どころを同館の島村桂子学芸員に解説してもらう。

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 明石市立文化博物館で開催中の冬季特別展「生誕130周年記念 堂本印象展」では、京都に生まれ、大正・昭和期に活躍した日本画家・堂本印象の初期から晩年に至るまでの画業を紹介しています。堂本印象は常に新たな表現を追い求め、画風が次々と変化した画家で、その探求心には驚かされます。

 堂本印象の作品の中でも、最も有名と言ってもいい作品が《木華開耶媛(このはなさくやひめ)》です。横幅2メートルを超える大作で、桜やたんぽぽ、すみれなどの花々が咲きほこる中で、一人の美しい女性が静かにこちらを見つめています。

《木華開耶媛》1929年京都府立堂本印象美術館蔵
《木華開耶媛》1929年 京都府立堂本印象美術館蔵

 こちらの作品を見て、まず目に入ってくるのが、桜の花の美しさという方もいらっしゃるかもしれません。桜の花びらの一枚一枚の淡い色使いは優しく、葉は金泥も用いられて彩色されています。

《木華開耶媛》(部分)
《木華開耶媛》(部分①)

 地面の植物も細かく見ていくときりがないほど一つひとつの植物が細かく描かれています。

《木華開耶媛》(部分)
《木華開耶媛》(部分②)

 木華開耶媛の顔はほんのり赤く色づき、目、眉、髪それぞれで多彩な筆遣いが見られます。顔だけでなく、指先や足先までしなやかで女性らしいラインで表現され、見るものを魅了します。白く光り輝くような衣の流麗な線や透けて見える肌の表現も、木華開耶媛の美しさを際立たせています。

《木華開耶媛》(部分③)
《木華開耶媛》(部分③)

 木華開耶媛は、日本神話で天孫瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に求婚された山の神の娘です。この求婚を喜んだ山の神は、「天孫の命が石ごとく永遠であれ、木の花が栄えるように栄えてあれ」と磐長姫(いわながひめ)と木華開耶媛の姉妹を奉ります。つまり、石と例えられた磐長姫と花に例えられた木華開耶媛ということです。しかし、磐長姫は醜くい外見だったために、天孫は木華開耶媛だけをめとります。その結果、永遠の命を得ることができず、人の命は限りあるものになったと語られます。

 堂本印象は制作当時、雑誌取材で「我々に近寄り難い神々ではなく、親しく、かつ懐かしい神様として解釈し、人間味豊かに制作した」と答えています。木華開耶媛のモデルは末妹の菊子と言われており、実在の人物をモデルにしたことも「人間味豊か」な神を描くことを意識したためでしょう。モデルの一瞬のしぐさや表情を捉え、高い技術で描き出しました。繊細で華麗でありながらも、私たちがこの作品に惹きつけられるのは、どこか親しみを持てるような絵であることが一つの理由かもしれません。

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 明石市立文化博物館で開催中の、冬季特別展「生誕130周年記念 堂本印象展」。入館料は、大人1000円、大高生700円、中学生以下無料。会期は1月31日まで。開館時間は午前9時30分から午後6時30分(入館は午後6時まで)。混雑緩和のため、オンラインによる事前予約制を導入している。詳細は同館ホームページで。