JR福知山線脱線事故から16年を前に、遺族や有識者が、鉄道や航空などの重大事故で企業の刑事責任を問う「組織罰」の必要性を訴えるブックレット(冊子)「組織罰はなぜ必要か〜事故のない安心・安全な社会を創るために」を出版する。

「組織罰はなぜ必要か〜事故のない安心・安全な社会を創るために(現代人文社・発行)」A5判88ページ
「組織罰はなぜ必要か〜事故のない安心・安全な社会を創るために(現代人文社・発行)」A5判88ページ

 ライフラインの安全神話が崩れた平成時代、福知山線脱線事故から約6年後の2011年3月11日、東日本大震災で起きた東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元会長ら3人について、1審の東京地裁は2019年9月19日、いずれも無罪を言い渡した(求刑・ 禁錮5年 )。

1審・東京地裁では東電元会長ら3人に無罪が言い渡された<2019年9月19日 ※写真・福島原発告訴団提供>
1審・東京地裁では東電元会長ら3人に無罪が言い渡された<2019年9月19日 ※写真・福島原発告訴団提供>

 東京地裁は、最大の争点だった東日本大震災での巨大津波を東電の幹部らが予見できたか否かについて、「予見可能性を認めることはできない」と判断した。 検察官役の指定弁護士は判決を不服として即日控訴したが、2審の審理はまだ始まっていない。 東電・福島第1原発事故の強制起訴裁判に関わる2人の女性がラジオ関西の取材に応じた。

福島原発事故の厳正な捜査と起訴を求める告訴団<2013年5月31日 ※写真・福島原発告訴団提供>
福島原発事故の厳正な捜査と起訴を求める告訴団<2013年5月31日 ※写真・福島原発告訴団提供>

〜地脇美和さん(福島原発刑事訴訟支援団事務局長)は「真実を知りたい」その一心で 東電に対する刑事責任を問い続ける〜

 福島第1原発・刑事裁判は、旧経営陣が多額の費用負担などを理由に、東京電力の社内で確認されていた津波対策の方針を先送りし、何の対策も行わず、原発事故を引き起こすに至った経過を明らかにしました。しかし、2019年9月の東京地裁判決は「全員無罪」。「原発には絶対的安全性は求められていなかった」と原子力行政に忖度し、被害者を踏みにじり、再び傷つけるものでした。そこには悲惨な原発事故を二度と起こさないという反省はなく、誰の責任も問われない血も涙もない不当判決でした。
企業など組織が起こした事故の被害者、遺族は苦しみ、悲しみの渦中から、なぜ事故が起きたのか、真相を知りたいと切に思います。そして被害を繰り返させないために、事故の責任を厳しく追求し、安全のシステム構築を心から求めます。無責任社会を変え、かけがえのない命を大切にする社会をつくるため、「組織罰」はとても重要です。

1審・東京地裁では東電元会長ら3人に無罪が言い渡された<2019年9月19日 ※写真・福島原発告訴団提供>
1審・東京地裁では東電元会長ら3人に無罪が言い渡された<2019年9月19日 ※写真・福島原発告訴団提供>

〜福島県富岡町から会津若松市へ避難した古川好子さん 1審・東京地裁の公判(判決含む38回)のうち35回を傍聴した〜

 原発事故によって多くの人々がそれまでの暮らしを失い、心身ともに深傷つきました。避難を強いられ私たちは「被害者」と呼ばれ、東京電力は法廷ではいちおう、自らを「加害者」と名乗ります。それでも刑事裁判の被告は旧経営陣の3人です。その3人は公判で傍聴席の私たちに背を向けたまま裁判官に謝罪し頭を下げました。私はこの「形だけの謝罪」を何より腹立たしく思っています。そして自らに事故の責任はないと言い切ったことに震えるほどの怒りを覚えます。裁判官が3人に無罪を言い渡した瞬間にこぼれた悔し涙を忘れることはこの先もありません。
ただ公判を傍聴して企業の決定は一人や二人の個人の考えで決まるようなものではないと感じたのも事実です。ならば企業の決定の責任は企業自体にあるべきです。そのことが司法の場でもきちんと示されるよう「私どもが加害者でございます」という東京電力の言葉が真に被害者の心に届くよう「組織罰」が必要だと強く思います。

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遺族・当事者の思いは「無責任社会を変え、かけがえのない命を大切にする社会をつくる」
遺族・当事者の思いは「無責任社会を変え、かけがえのない命を大切にする社会をつくる」

 JR福知山線脱線事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に対する刑事裁判では、被告の1人が「道義的責任はあるが、刑事責任はない」と述べたことから遺族らは憤った。現行の日本の法体系では重大事故に対する企業の刑事責任を問う法律がない。日本で「安全・安心」を確固たるものとする法改正への道のりは長い。