猛暑到来。ラジトピでは『冷菓涼爛((ひゃっかりょうらん)』見た目にも涼しさ爛漫、夏の関西(京都・大阪・神戸)の和菓子を取り上げる。

祇園祭「後祭」山鉾建て(鯉山・室町六角 2021年7月20日)
祇園祭「後祭」山鉾建て(鯉山・室町六角 2021年7月20日)

 新型コロナウイルス感染防止のため、祇園祭のハイライト「山鉾巡行」が2年連続で取りやめとなった京都。巡行と神輿(みこし)渡御は昨年同様中止されるが、前祭と後祭(あとまつり)の計33基の山鉾のうち、17基で山鉾建てがあった。

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■昭和のハイカラ、令和にレトロ

 コロナ禍で外出もはばかられ、「おうちで過ごす気持ちの余裕が出てきはったのと違いますか」と話すのは、烏丸通の東、高倉六角の老舗「大極殿本舗」の女将、芝田泰代さん。大極殿の夏の名物は「レースかん」と呼ばれる、レモンの輪切りも鮮やか、爽やかな酸味の透き通る羊羹(例年5月〜9月発売)。

「レースかん」(大極殿本舗 Instagram)1日に100本近くが店頭に並ぶ
「レースかん」(大極殿本舗 Instagram)1日に100本近くが店頭に並ぶ

 まだレモンが珍しかった昭和初期に、三代目・芝田治三郎氏が創作した。「当時、”レース編み”を見た三代目が”インスピレーション”で考えましてん。ハイカラですやろ。今ではレース編みはレトロですけどね」。

 泰代さんは「レースかんは、アクが抜けた糸寒天を炊いて、その餡を箱に流してレモンの輪切りを並べる、それだけなんです。ごく自然な作り方ですわ(クチナシの実で淡く色付けするだけ)。でも、よそさんにはできない技ですよ」と自信を語る。 竹の風合いが涼しげな“すだれ”で巻かれ、ほんのりレモン色の紙と、「レースかん」と手書きで書かれた短冊が銀色の細い紐でくくられている。包装を解くと、甘酸っぱいレモンの香りに包まれ、蜜がしたたり落ちる。 輪切りのレモンの果肉や果皮の繊細な模様がレース編みのように華やかで、透明感のある錦玉羹(きんぎょくかん)が光に反射して輝く。

1865(慶応元)年建造、築150年以上の京町家〜京都市指定歴史意匠建造物<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
1865(慶応元)年建造、築150年以上の京町家〜京都市指定歴史意匠建造物<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
「古都の印象菓」インスピレーションを大切に136年
「古都の印象菓」インスピレーションを大切に136年

 創業は1885(明治18)年。山城屋の名で創業した。以来、常に先取の気持ちを持って様々な和菓子を生み出した。 大極殿本舗は、京の町にカステラを広めた店とも言われている。長崎で長崎でカステラ製造技術を学んだ二代目・岩次郎氏が1895年に京都でカステラを焼き、販売した。その後昭和初期には京都電灯(現在の関西電力の前身)と共同でカステラを焼く電気釜を開発し、さらにカステラを庶民にも親しみやすい菓子にしたのだ。

 代々、平安神宮への思い入れが強く、大正時代に献上菓として白あん風味の「大極殿」を発売。大極殿は平安神宮の外拝殿(国の重要文化財)。応天門にちなみ、黄身あんの「應天」も店頭に並ぶ。そして太平洋戦争後、平安神宮ゆかり”の大極殿として、屋号がそのまま正式に「大極殿本舗」となった。

「昔の看板、大理石ですねん 木では色が変わりますやろ」足を踏み入れるとすぐに目に入る<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
「昔の看板、大理石ですねん 木では色が変わりますやろ」足を踏み入れるとすぐに目に入る<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
京に広めた「春庭良(かすていら)」大和言葉の装いは”インスピレーション”<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
京に広めた「春庭良(かすていら)」大和言葉の装いは”インスピレーション”<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>

 「レースかん」が生まれた昭和初期、レモン自体はすでに日本で流通していたが、家庭に入り込み、人々が日常的に食することはなかった。1925(大正14)年、小説家・梶井基次郎が世に出した代表的作品「檸檬(レモン)」には京都・寺町二条で果物を扱う「八百卯」や三条通麩屋町の書店「丸善」が登場するが、京都でもレモンについて、せいぜいその印象でしかなかったと話す。

涼しげなすだれ巻き 丹精込めて作る「レースかん」高級感漂う
涼しげなすだれ巻き 丹精込めて作る「レースかん」高級感漂う

 ただ泰代さんは、「バナナほど高価なものではおへんよ。いまは本当にお安くって」と笑う。「大正・昭和から戦後の高度経済成長期、日本人は、欲しいもの・食したいものを『少し上等なものとして、少しだけ目の上に置いて楽しむ』ところがあったのと違いますか。今は何でも少し手を伸ばせば届きますけどね」。

■行きつ・戻りつ、京で時代を刻む

 泰代さんは、去年亡くなった夫、四代目・賀邦(よしくに)氏と約束していた。「まず広告宣伝をしない、そして歴史風情のある六角の店はほとんどリフォームをしない」。広告宣伝はブームにはなるが、すぐに消費者の興味が移ろぐ。これまで、さほど特別なことはしているつもりはなく、実績を重ねて口コミが広がり、逆に日本中で商品の真似をされるぐらいの方が、広告よりインパクトがあるというのだ。

女将・芝田泰代さん「京都はいつも"行きつ、戻りつ"」の気持ちで
女将・芝田泰代さん「京都はいつも"行きつ、戻りつ"」の気持ちで

 たとえば喫茶メニューの「琥珀流し」。絶妙な寒天の柔らかさに季節によってバリエーションをつけた蜜がかかる(7月はペパーミントと赤紫蘇)。

「琥珀流し」4月は『桜』 ガラスの器の底に小豆を敷いて(大極殿本舗 Instagram)
「琥珀流し」4月は『桜』 ガラスの器の底に小豆を敷いて(大極殿本舗 Instagram)

 「これも今、食感の良さで密かなブームになっている”ふわとろ”の先駆けやと思てます。トロっとしている、とろける、柔らかいものが皆さんお好きですね」

琥珀流し 7月『赤紫蘇(しそ)』 ソーダ水を添えて 京都・大原の赤紫蘇は香り高く、色鮮やか<高倉通四条上ル・大極殿本店 併設の甘味処「栖園」>
琥珀流し 7月『赤紫蘇(しそ)』 ソーダ水を添えて 京都・大原の赤紫蘇は香り高く、色鮮やか<高倉通四条上ル・大極殿本店 併設の甘味処「栖園」>
六角店にも甘味処「栖園」を併設 7月の琥珀流しは『ペパーミント』わらび餅やぜんざいもある
六角店にも甘味処「栖園」を併設 7月の琥珀流しは『ペパーミント』わらび餅やぜんざいもある

 泰代さんは「すでにあるものを大事にしつつ、ないものを新たに受け入れるのが京都なんです。こうやって1200年もの間、歴史を刻んだんだと思います。京都で何百年も続いているのは、むしろ基礎を大事にしながら、新たに良いものを取り入れているだけやと思ってます。そのほうが楽なんです。それで失敗したら、あかんかったらもとに戻る。特別な工夫を無理やり絞り出すんじゃなくて、『行きつ・戻りつ』少しづつ歩む。これが大切です」との信条に行きついた。そのうえで「レースかん」は単にインスピレーション、「レース編みとレモン」の掛け合わせは、悩みに悩んで特別なことを考えたわけではなく、目についたものどうしの結びつきに過ぎなかったのだという。

寒天に浮かぶ輪切りのレモン「レースかん」(大極殿本舗 Instagram)
寒天に浮かぶ輪切りのレモン「レースかん」(大極殿本舗 Instagram)

■和菓子が表現する「季節感」

 和菓子は季節感が命。「あんまり暑うなると、かき氷やアイスクリームに目と舌に移りますから、味覚の趣向も変わりますけど、『レースかん』はよう売れます。ただ夏にはカステラは売れません。見た目と食感、秋から冬はあんこなど味が濃くてお茶に合うもの、例えば栗羊羹やつぶあんの羊羹が好まれますから、逆に『レースかん』は売れません。これが季節感。夏は夏、冬は冬です。うちらは季節で商いやってます。1年はこの繰り返しなんですよ」

季節に応じたものを楽しめるのが和菓子の魅力<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
季節に応じたものを楽しめるのが和菓子の魅力<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>

 泰代さんは続ける。「季節に応じたものを、お客さまの生活に取り入れていただけるのが和菓子の魅力。その結果が”お進物”なんです。ただ、進物として受けるだろうと先に考えると、見掛け倒しになることが多いですからいけません。ご家庭の”おやつ”にしていただけるものが売れて、それをよそさんにお持ちいただく、これが1つの評価と違いますやろか」

築150年超の町家の面影を残して「六角の店は”なぶらず”に(京言葉で触らず=リニューアルせずに)」<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
築150年超の町家の面影を残して「六角の店は”なぶらず”に(京言葉で触らず=リニューアルせずに)」<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
1865(慶応元)年建築 もとは店主の住居だった<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
1865(慶応元)年建築 もとは店主の住居だった<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>

 こうした思いから、「うちが京都の烏丸近辺(六角通高倉東入ルと高倉通四条上ル)しか店を出さないのは、味を落とさず、はじめに好(す)いていただいたままの味を守りたいからなんです。常に目が届くように、お菓子に独り歩きはさせません」泰代さんは、この先もこの精神は守り通したいという。

2019年6月、高倉通の本店をリニューアル 奥に甘味処「栖園(せいえん)」<高倉通四条上ル・大極殿高倉本店>
2019年6月、高倉通の本店をリニューアル 奥に甘味処「栖園(せいえん)」<高倉通四条上ル・大極殿高倉本店>
高倉本店の奥にも甘味処「栖園(せいえん)」金魚も涼しげに泳ぐ
高倉本店の奥にも甘味処「栖園(せいえん)」金魚も涼しげに泳ぐ

 世間はコロナの影響で「巣ごもり」と呼ばれる、自宅で過ごす時間が増えた。泰代さんは、地元の会合などで茶菓子を出す機会がめっきり減ったという。ただ「お取り寄せ」が増えたのは、自宅で過ごす時間が多くなったのが影響したのではないかとみている。しかし本心は店での対面販売で、お客さんの表情や動きを見て商品を渡したいという。

「お客さんの表情や動きを見て」”お取り寄せ”では得られない空間<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
「お客さんの表情や動きを見て」”お取り寄せ”では得られない空間<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>

 「たとえばお饅頭を1個買い、2個買いされるお客様と接するときは緊張しますよ。ただ、お進物だけ、お箱で買われる時は心配なんです。もちろん”お風味(サンプル品)”はお付けしますが」泰代さんは、足を運んでくれるお客さんに見て納得してもらうのが一番嬉しいという。

■1150年以上続く「祇園祭」、疫病退散の本来の姿に

今年(2021年)の鉾建ては技術継承が目的(北観音山・新町通六角下ル 2021年7月20日)
今年(2021年)の鉾建ては技術継承が目的(北観音山・新町通六角下ル 2021年7月20日)

 24日は、本来なら祇園祭のハイライトともいえる「後祭(あとまつり)」山鉾巡行。コロナの影響で巡行は2年連続で取りやめに。

祇園祭は7月31日に八坂神社境内の疫(えき)神社「夏越祭」茅の輪くぐりで締めくくる
祇園祭は7月31日に八坂神社境内の疫(えき)神社「夏越祭」茅の輪くぐりで締めくくる
7月24日の後祭、「山鉾巡行」・「花笠巡行」は中止 夕方、神輿渡御に代わる「御神霊渡御祭(神霊を四条御旅所から八坂神社へ移す)」と、夜の「還幸祭」に代わる祭典は執り行われる(※写真は「鯉山」の鉾建て 2021年7月20日)
7月24日の後祭、「山鉾巡行」・「花笠巡行」は中止 夕方、神輿渡御に代わる「御神霊渡御祭(神霊を四条御旅所から八坂神社へ移す)」と、夜の「還幸祭」に代わる祭典は執り行われる(※写真は「鯉山」の鉾建て 2021年7月20日)

 京都で生まれ育った泰代さんからすれば、さぞかし寂しいかと思いきや「もともと後祭(2014年に復活。1965年以来のこと)は、祇園祭が終わりを迎える、何とも言えない風情がありました。でも一昨年までは観光メインで大変な人だかり。錦市場や四条通、烏丸かいわいも、まるで乗っ取られたようで、地元の人らが肩身が狭くなりました。去年も今年も、神事は粛々と執り行われていますし、疫病を祓う本来の姿を取り戻して、なおかつ技術の継承のために鉾立てはやってはりますから、それはそれでいいんやないかと思います。そうやって少しずつ賑わいを取り戻せたら」。ここにも『行きつ戻りつ』、少しづつ歩む、その精神が息づく。

店内から暖簾越しに六角通を望む 季節によって暖簾の意匠も変わる 夏は「朝顔」<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
店内から暖簾越しに六角通を望む 季節によって暖簾の意匠も変わる 夏は「朝顔」<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
天龍寺御用達庭師が作庭した坪庭に泳ぐ金魚<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>
天龍寺御用達庭師が作庭した坪庭に泳ぐ金魚<六角通高倉東入ル・大極殿六角店>