東京・池袋で2019年4月、暴走した乗用車にはねられた母子ら11人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われ、禁錮5年の実刑が確定した旧通産省工業技術院・元院長の男(90)が12日、 東京・霞が関の東京地検に出頭、拘置所へ収容された。男は今後、受刑者として健康状態を改めて確認するなど所要の手続きを経て刑務所に収容される。

東京地裁は禁錮7年の求刑に対し、禁錮5年とした
東京地裁は禁錮7年の求刑に対し、禁錮5年とした

 身柄を拘束されず(逮捕されず)に在宅のまま起訴された男は、東京地裁で開かれた公判で自身の過失を否定し、無罪を主張していたが、9月15日、犯罪加害者家族の支援をしているNPO理事長と面会し「被害者や遺族の方に申し訳ない。罪を償いたい。収監を受け入れる」と控訴しない意向を示していた。

東京地裁は2021年9月3日、男に禁錮5年の実刑判決を言い渡した
東京地裁は2021年9月3日、男に禁錮5年の実刑判決を言い渡した
男は10月12日午後、東京地検へ出頭した
男は10月12日午後、東京地検へ出頭した

 刑事訴訟法には、健康を著しく害する場合や、年齢が70歳以上の場合、検察官の裁量で刑の執行を停止できる規定がある。ただ、実際に停止されたケースは極めてまれで、収監されても禁錮刑のため、懲役刑と違い刑務所での労務作業は科されない。

 関西でも交通事故で最愛の家族を失った遺族が一連の推移を注視していた。3回にわたり、遺族や弁護士に「運転免許」と「司法判断」のあり方を聞く。

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◆大阪・ミナミのアメリカ村で2015年、3人が死傷した飲酒暴走事故で、看護師の河本恵果さん(当時24)を失った母親、友紀さんは「被告の男の発言などを見聞きすると、遺族の立場としては生涯を刑務所で服役すべき」という思いを抑え、次のように答えた。

大阪市内で会見する河本友紀さん(左)<2020年2月26日撮影>
大阪市内で会見する河本友紀さん(左)<2020年2月26日撮影>

「今の日本の刑事裁判は命を絶たれた被害者より、加害者の更生ばかりが優先され、情状の酌量を認めるといったハードルが低い判決に偏りがちだと指摘される中、今回の東京地裁の判決は亡くなられた松永真菜さん(当時31)、莉子ちゃん(当時3)、そして遺族である夫・拓也さんに寄り添ったものだったと思う」

大阪・アメリカ村 飲酒暴走事故現場<2015年5月11日 ※画像・関係者提供 一部を加工しています>
大阪・アメリカ村 飲酒暴走事故現場<2015年5月11日 ※画像・関係者提供 一部を加工しています>

 友紀さんは続ける。「東京地裁の判決で、裁判長は”アクセルとブレーキの踏み間違い”を認定して、罪を認めようとしない被告の態度を深刻にとらえ、『過失は明白。判決に納得できるなら被害者遺族に真摯に謝っていただきたい、(罪を)認めて謝罪するところから実践していただきたい』という厳しい説諭をした。遺族はこの裁判長の言葉に救われたのではないだろうか。
 亡くなった方々に対する血の通った判決、日本の刑事裁判も捨てたものじゃない、しっかりと判断していると思った」と話す。

河本恵果さん(遺族提供)
河本恵果さん(遺族提供)

 恵果さんが犠牲になった事件では、危険運転致死傷などの罪で起訴された女について大阪地裁は「アクセルとブレーキの踏み間違い」と認定、「遺族の、被告人に対する処罰感情は峻烈(しゅんれつ)である」と指摘も「さほど悪質な飲酒運転事件ではない」として過失運転致死傷罪を適用、2017年10月の控訴審で大阪高裁は懲役3年6か月とした1審判決を支持、実刑判決が確定した。

◆兵庫県尼崎市で2007年、3人が死亡した飲酒運転事故で、タクシー運転手・岩田浩一さん(当時48)を亡くした妻、瞳さんは交通死亡事故に関して厳罰化が進む中でも、相次ぐ悲劇の報道に接するたび、心が痛むという。

「男が、判決で『自らの過失を認めた上で、遺族に真摯に謝罪を』と言われ、裁判所の認定に納得できたのであれば、しっかりと罪と向き合い、収監に応じてほしい」と話した。また高齢ドライバーの免許返納制度にも触れ、「高齢なのに、家族はどうして車の運転をやめさせなかったのかと思うと、非常にもどかしい」とも話す。

 この事故をめぐっては、危険運転致死罪に問われた元建設作業員の男に対し、神戸地裁尼崎支部が2007年12月、当時の交通事故をめぐる判決としては最も重い懲役23年を言い渡し、確定した。

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■「私の勘違いによる過失、ブレーキとアクセルを間違えた 反省するため刑に服して…」男は12日、支援者を通じてコメントを発表した。

池袋暴走事故現場に建てられた慰霊碑 未来への「つぼみ」を表現(東京都豊島区東池袋4丁目)
池袋暴走事故現場に建てられた慰霊碑 未来への「つぼみ」を表現(東京都豊島区東池袋4丁目)

 先日の裁判の判決に従い、東京地方検察庁から呼び出しがあり、本日(10月12日)、収監されることになりました。
 このたびの刑事裁判では、事故当時の私には踏み間違いの記憶がなかったため、被害者とそのご親族の方々に心苦しくも無罪を主張させていただきましたが、提出された証拠および判決文を読み、暴走は私の勘違いによる過失でブレーキとアクセルを間違えた結果だったのだと理解し、控訴はしないことにいたしました。亡くなられた松永真菜様・莉子様のご家族ご親族様と、おけがをされた被害者の方々には深くおわび申し上げます。私の過失を反省するため刑に服してまいりたいと思っております。また、この事故で多くの方々にご迷惑をおかけしましたことをおわびいたします。

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池袋暴走事故現場に建てられた慰霊碑に記されたメッセージ(東京都豊島区東池袋4丁目)
池袋暴走事故現場に建てられた慰霊碑に記されたメッセージ(東京都豊島区東池袋4丁目)

 次回(10月14日)は2012年に京都府亀岡市で起きた暴走事故で妊娠7か月の長女(当時26)を亡くした父・中江美則さんに聞く。