兵庫県丹波篠山市の兵庫陶芸美術館で特別展「ザ・フィンランドデザイン展−自然が宿るライフスタイル」が開かれている。学芸員のマルテル坂本牧子さんによるリモート・ミュージアム・トークを紹介する。

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 兵庫陶芸美術館で9月11日(土)に開幕した特別展「ザ・フィンランドデザイン展−自然が宿るライフスタイル」が、いよいよ残り会期わずかとなりました。本展は、緊急事態宣言下で始まり、感染対策を取りながら開館してまいりましたが、おかげさまで週末を中心に多くのお客様でにぎわい、ご好評をいただいております。

 今回は、若い方やご家族、お子様連れのお客様がとても多く、初めて当館を訪れたという方々も少なくありません。実は本展は、これまで陶芸に特化した展覧会を中心に実施してきた当館にとって、新たな試みとなる展覧会でした。陶芸も含まれる「工芸」という分野が、広い意味で、「生活」と「芸術」を結びつけるものであるという観点から、もう少し視野を広げて、陶芸だけでなく幅広い美術工芸品をご紹介することで、もっと多くのお客様に当館を知っていただきたい。さらには、当館の位置するこの「丹波焼の里」の素晴らしい環境をぜひ、ご体感いただきたい、との思いから企画に至りました。

 本展は、フィンランドが、1930年代から1970年代にかけて、自然の素材やモチーフを活かした美しいデザインを取り入れることで、モダンでありながら、自然に寄り添った独自のライフスタイルを確立し、デザイン国家として国際的な評価を得るに至った変遷をご紹介しています。その原動力となったのは、今も世界的に知られるフィンランドの建築家、デザイナー、芸術家たちの活躍でした。

 1930年代、首都ヘルシンキの人口が急激に増加し、新しい住宅の需要が高まると、国際的な機能主義の流れもあり、コンパクトでも機能的かつ快適な空間を求められました。家具や生活用品にも機能的でシンプルなデザインが取り入れられますが、建築家のアルヴァ・アアルト(1898-1976)が考案した挽き曲げ技法による木製家具は、自然の素材やモティーフを活かしたモダンデザインの先駆的な仕事でした。

アルヴァ・アアルトが設計し、白樺の合板を曲げて作った椅子の数々。中央の黒い椅子は、結核療養患者のために設計され、座った時に呼吸がしやすいよう工夫がされている。(左・中央:アルヴァ・アアルト財団蔵、右:フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵)

 また、アルヴァの妻であるアイノ・アアルト(1894-1949)がデザインしたプレスガラスによる《ボルゲブリック》シリーズをはじめ、カイ・フランク(1911-1989)がデザインした陶磁器の《BAキルタ》シリーズなどに代表される機能主義のテーブルウェアは、使いやすさから収納方法に至るまで、徹底的に機能を追求することはもちろんのこと、量産しやすいフォルムや装飾を工夫してデザインされ、フィンランドの家庭で長きにわたり愛され続けています。

1932年、アイノ・アアルトがデザインした《ボルゲブリック》シリーズ。スウェーデン語で「波紋」を意味する。線模様は、制作過程で入る気泡を目立たなくするという効果もあった。(すべてコレクション・カッコネン蔵)
1951年、カイ・フランクがアラビア製陶所のためにデザインしたテーブルウェア《BAキルタ》シリーズ。個々のアイテムを自由に組み合わせ、あらゆるニーズに対応出来るよう工夫されている。(すべてヘルシンキ市立博物館蔵)

 1950年代、機能主義を離れて独自のスタイルを確立していったフィンランドのデザイナーたちが、ミラノ・トリエンナーレで次々と受賞を重ね、タピオ・ヴィルッカラ(1915-1985)、ティモ・サルパネヴァ(1926-2006)、トイニ・ムオナ(1904-1987)、ドラ・ユング(1906-1980)らによるガラスや陶磁器、テキスタイルが大きな脚光を浴びました。フィンランドの自然に触発された美しい曲線や、有機的なフォルムは、新しいデザインのイメージを印象づけるものでした。

タピオ・ヴィルッカラ 《杏茸》 1946年 彫刻を手掛け、素材と空間に対して優れた感覚を持っていたヴィルッカラは、特にガラスを得意とし、フィンランドの自然とモダニズムの融合を体現したかのような、有機的でモダンなフォルムを取り入れた。(コレクション・カッコネン蔵)
ティモ・サルパネヴァ 《蘭》 1953年 吹きガラスによる美しいフォルムの花瓶。1954年にアメリカの雑誌『ハウスビューティフル』によって、世界でもっとも美しいオブジェクトに選ばれた。(コレクション・カッコネン蔵)
トイニ・ムオナ 《プレート》 1940-1950年代 作家としてのキャリア全てをアラビア製陶所で過ごした。自然の気配やリズム、ダイナミズムを土や釉薬の質感、色彩、独特のフォルムで表現し、「オーガニック・モダニズム」と呼ばれた。(コレクション・カッコネン蔵)
フィンランドで最も重要なテキスタイルデザイナーの一人ドラ・ユングがデザインしたテキスタイルの数々。ユングは織機を自分で開発するほど、模様の細かい再現性にこだわった。(左:タンペレ市立歴史博物館蔵、中央・右:フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵)

 第二次世界大戦後、家庭でのテキスタイルの需要が高まるにつれ、フィンレイソン社を始めとする主要なテキスタイル工場が、デザイナーや芸術家たちとの協働する機会が増えていきます。そんな中、1951年に創設されたマリメッコ社は、「自然体の女性」をコンセプトに掲げ、優れた若いデザイナーを積極的に採用して、これまでにないカラフルで大胆なテキスタイルの表現を打ち出し、フィンランドのテキスタイル業界に新風を吹き込みました。その後、巧みな広告戦略もあり、マリメッコ社は世界中で愛されるフィンランドを代表するテキスタイルメーカーとなりました。

マリメッコ社のドレス。「自然体の女性」をコンセプトに掲げていたマリメッコ社は、ウエストを解放し、女性がゆったりとリラックスして活動できるデザインを提案した。明るく大胆な模様もトレードマークに。(中央・右:フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵)

 そして、1960年代、近代的な消費社会を迎えたフィンランドでは、平等と民主主義が浸透し、個人主義の観念が強くなっていきます。独自のスタイルが求められるようになっていき、その大きな役割を担っていくのが、ファッションや広告でした。そして、フィンランドは世界屈指の社会福祉国家へと成長し、2018年より四年連続で「世界幸福度ランキング」第1位に選ばれるなど、若手や女性たちの活躍が目覚ましい社会を創り上げました。

エントランス抜き抜け7mから垂らしているフィンレイソン社のテキスタイル。本展で唯一の撮影スポット。本写真は二階の渡り廊下より。

 秋の深まる丹波篠山の山々に囲まれた兵庫陶芸美術館で、厳しくも豊かな自然と、美しく洗練されたデザインとともに暮らし、その創意工夫に満ちたフィンランドの人々のライフスタイルに触れ、私たちの暮らしのヒントを見つけていただければ幸いです。
(兵庫陶芸美術館学芸員・マルテル坂本牧子)

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◆ザ・フィンランドデザイン展−自然が宿るライフスタイル−
会場 兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4)
会期 〜2021年11月28日(日)まで
開館時間 10:00〜18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日 月曜
観覧料 一般1000円、大学生800円、高校生以下無料
電話 079-597-3961(代表)、FAX 079-597-3967