◆鉄アナ・羽川英樹「行ってきました!」vol.56

 和歌山電鐵はJRとの共同使用駅「和歌山」から紀の川市の「貴志」までの14.3キロを32分で結んでいます。2006年に万年赤字だった南海・貴志川線のあとを岡山電気軌道が引き継ぎ、和歌山電鐵と名を改めて15年が経過しました。その間に三毛猫・たま駅長は動物駅長のさきがけとなり、海外メディアでも報じられるなどネコブームもけん引してきました。また次々とユニークで楽しい列車を登場させ、乗客数を着実に増やしてきたのです。

「和歌山」駅の9番線を出発した2両編成・ワンマンの「貴志」行。通常は30分おきの運行です。

 まずは観光車両デザインの第一人者・水戸岡鋭治氏が手がけた和歌山電鐵を走るユニークな車両たちをご紹介しましょう。

たま電車

「たま電車」は2009年に登場し、車体や車内には101匹のたまが描かれています。車内も子どもたちが大喜びの夢空間がひろがり、動物関係の絵本も本棚に数多くそろっています。またベビーサークルや駅長たまが乗車したときのケージなども完備されているんです。

たま電車

「おかでんチャギントン電車」は、親会社の岡山電気軌道で走る人気車両をPRするためにつくられた電車。チャギントンはイギリスで制作されたテレビアニメで、トーマスに次ぐ鉄道人気キャラです。南海電鉄時代から受け継ぐ2270系の車体にラッピングしたもので、人気のウイルソンとブルースターが連結されています。その他にも「動物愛護電車」や和歌山名産の梅(南高梅)をモチーフにした「うめ星電車(UMEBOSHI DENSHA)」なども走っています。

おかでんチャギントン電車
うめ星電車(UMEBOSHI DENSHA)

「和歌山」から2つ目の駅「日前宮(にちぜんぐう)」は天照大御神を祭る紀州・和歌山の一の宮。広い境内に日前(ひのくま)神宮と国懸(くにかかす)神宮という2つの神宮があり、これらを総称して日前宮と呼ばれています。そして近くには関西最強の高濃度炭酸泉をもつ「花山温泉・薬師の湯」があります。お湯は茶褐色で湯舟にもびっしり湯の花がこびりついており、26℃の源泉と熱いお湯を交互に入るのが効果的だとか。ここは各地からマニアもやってくる温泉の聖地なんです。

日前宮

 電鐵本社がある「伊太祈曽(いだきそ)」は唯一の有人駅です。また駅に併設する車庫・検査場は登録有形文化財に指定されています。近くにある伊太祁曽神社は、樹木の神様として知られており、もともとこの路線は日前宮・伊太祁曽神社・竈山神社の三社参りのために敷設された鉄道なんです。

伊太祈曽駅

 このあと和歌山市から紀の川市に入り、春は桜、秋は紅葉が美しい「大池遊園」に向かいます。ここは周囲4キロの池を中心にした美しい閑静な公園。園内にある大池カフェ「ST.ZEPHYR(セントゼファー)」はピザが評判のカフェレストランで、眺望抜群のテラス席もおすすめです。

大池遊園

 終点「貴志」は駅舎がネコの顔をイメージしたもので、桧皮葺(ひわだぶき)を使用したというユニークなインスタ映えする設計になっています。この駅は現在、たま2世・通称「ニタマ」がウルトラ駅長兼執行役員を務め、2015年に亡くなった初代たま駅長はホームに建立された「たま神社」から名誉永久駅長としていつも見守っています。

貴志駅
ウルトラ駅長兼執行役員の「ニタマ」

 車窓にさして変化があるわけでもない、終点・貴志に多くの見所があるわけでもない。なのに、みんなこの電車に乗るために、そして、ネコ駅長に会うために、各地からやってくるんです。「日本一心豊かなローカル線になりたい」のスローガンは、全国の赤字に悩むローカル線に何かのヒントを与えてくれているようです。

 そして9月に引退した「おもちゃ電車」に変わって、12月4日からは新たに「たまミュージアム号」がお目見えの予定ですが、はたしてどんな車両なのか、デビューが楽しみなところです。(羽川英樹)