あなたは車を運転する時、ハンドルのどの位置を握っていますか? 自動車教習所で、アナログ時計でいう「10時10分」の位置で持つように教えられ、その教えを守っている、という方も多いのではないでしょうか。しかし、調べてみると、全米自動車協会では「9時15分」、または「8時20分」の位置で握ることを推奨しているようなのです。昔と比べると、ハンドルの操作にそこまで大きな力が必要なくなったことなどが、位置が下がった理由に挙げられるそうですが、では、日本の教習所では今、どのように教えているのでしょうか。ネヤガワドライビングスクール(大阪府寝屋川市)に勤め、指導員歴は18年という、佐藤さんに聞きました。

 佐藤さんによると「もとから10時10分を持つように教えるようなマニュアルはなく、今はハンドルを持つ位置について教えることはありません」とのこと。指導員には、教習生に正しい運転方法を教えるためのマニュアルがあるそうなのですが、ハンドルを持つ位置について言及している箇所はないとか。「指導員の中で『10時10分がわかりやすく教えやすい』という理由で広まっていったのでは」と、佐藤さんは推測します。今は、「とっさの状況でも緊急回避できる位置で持つ」、「運転姿勢に合わせて運転しやすい位置で持つ」などと教えているとのことで、いつの間にか位置を指定して教えることがなくなっていったそうです。

「今の教習生は、運転することに関して『なぜそうする必要があるのか?』という理由を知って、理解を深める傾向にあります。それから、親世代が当たり前に車を運転している世代なのもあってか、ハンドルを持つ位置を最初から知っていることがほとんどです」(佐藤さん)

 ハンドルの持つ位置を指導しない理由には、教習生の学習の傾向や車の普及などとも関係しているようです。また、ネヤガワドライビングスクールでは現在、AT限定の免許を取得する人が全体の7割を占めます。MT車を運転する際は、左手をシフトレバーへ移すことでハンドルから手が離れる機会が多く、ハンドルを持つ位置を意識させる必要があったそうですが、その機会が減ったことも背景にあるとみられます。

 他に、教習所で教える内容で、今と昔で変わったことはあるのか尋ねました。佐藤さんは、「叱る指導が一切なくなった」ことを挙げます。例えば、筆者が15年ほど前に教習に通っていた時は、指導員から叱られたり嫌味を言われたりしたもので、三重県にある「一切叱らず褒めちぎる教習所」が話題になったりしましたが、今では教習所全体の傾向として「褒める指導」に切り替わってきているそうです。理由としては、「叱られた時の印象より、褒められた時の印象の方が強く残る」という認識が広まり、実際に叱るよりも運転技術の向上に効果があることがわかったことが挙げられます。さらに、「今の教習生は車に興味がない人が多い」ということも理由にあるそうで、「従来の厳しくする指導では、免許の取得を途中で諦めてしまう可能性もある」と、佐藤さんは語ります。

 昨今、「若者の車離れ」と言われていますが、この傾向は教習所もひしひしと感じているといいます。自動車免許の取得理由は「就職に必要」「親に言われたから」などが多く、「楽しむために車を運転したい」と強く感じている教習生はごく少数になってきたそう。そこで、まずは車に興味を持って運転を楽しんでもらう必要があり、叱る指導はなくなっていった、ということなのでしょう。ここ2年ほどで二輪車免許の教習は数か月の待ちが出るほど人気があるなか、自動車免許を取る人は、少子高齢化の影響もあり減っていく一方……。自動車の性能や乗る人々の変化に合わせ、今後も、自動車教習所が変化を迫られる可能性があるかもしれません。

(取材・文=宮田智也 / 放送作家)