兵庫県明石市で「市民夏まつり・花火大会」の見物客11人が死亡、247人が重軽傷を負ったJR朝霧駅の歩道橋事故から21年となった7月21日夜、遺族らが現場を訪れて犠牲者を追悼した。

■「再発防止のための第一歩、ここから」

 事故現場となった歩道橋に設けられた慰霊碑「想(おもい)の像」の前に遺族らが花を手向け、黙とうした。

 当時2歳だった次男・智仁ちゃんを亡くした神戸市垂水区の下村誠治さん(64)は「毎年この日は、事故当日の壮絶な光景に引き戻される。ここに来て子どもに謝る気持ちは変わらない。現場には、残してきた私の思いがある。とても息苦しい場所だが、再発防止のためにどう歩むかを考え、あすからの一歩を踏み出す誓いの場でもある」と前を向く。
 そして、「防げたのに防げなかった事故はいまだに起きている。(2022年4月の)北海道・知床遊覧船沈没事故についても、その6年前(2016年)に起きた軽井沢スキーバス転落事故を踏まえて、安全管理体制をもっと早く確立できていたらと思う。尊い命を失ってからでは遅い。安心・安全を重視する社会構造に変えて行かなければ」と話した。
 国土交通省・公共交通事故被害者等支援アドバイザーを務める下村さんは、知床遊覧船沈没事故の乗客の家族らの相談にも乗っている。

■「言われなき誹謗・中傷」と向き合って

 事故発生後、再発防止と真相解明を求める下村さんには”いわれなき批判や中傷”が相次いだ。「なぜ、子どもを花火大会へ連れて行った?親としてどうなのか」。遺族らが過ごした21年間に、インターネットとの共存が始まった。
 「ネットは便利なツールだが、こうした誹謗中傷にさらされる。実名を出して声を上げればなおさら。そんな社会ではいけない」と力を込める。
 知床遊覧船沈没事故でも「海が荒れているのに、どうして遊覧船に乗ったのか」と責めるコメントがインターネット上に複数書き込まれた。「国は安全対策の整備と並行して、こうした誹謗中傷から被害者を守る対策も取ってほしい。私たちの立場で言えば、花火大会そのものを非難しているのではない。むしろ幼い子が親に連れられて楽しめる花火大会を再開させてほしいぐらい。問題は警備体制に代表される安全対策だったのだから」と話す。

■「市民の命守るため、どれだけ真摯に…」

 明石市の泉 房穂市長も、市の幹部とともに献花に訪れた。当時、一般市民として歩道橋の真下に居合わせた泉市長は、あの惨状が忘れられないという。
 特に今年(2022年)の7月21日は、歩道橋事故の記録や手記が記された「明石歩道橋事故 再発防止を願って〜隠された真相 諦めなかった遺族たちと弁護団の闘いの記録」の発売日。さっそく読んだ泉市長は「ご遺族の思いや寄り添ってきた弁護士の努力がひしひしと伝わり、改めて再発防止への思いを強くした」と話した。
 泉市長は、歩道橋事故と同じ年に起きた大蔵海岸砂浜陥没事故とともに、この責任がどこにあるのかを問い続けている。そのうえで「油断や慢心が大事故につながる。行政が市民の命を守るためどれだけ真摯に向き合えるか」を明石市の課題に挙げている。

 JR福知山線脱線事故で長女を失った藤崎光子さん(82)も、3年ぶりに事故現場に訪れた。藤崎さんはこのほど出版された本を手に「歩道橋事故の強制起訴が第1号、脱線事故が第2号。刑事裁判の時期も重なり、我が事のように思う。悲しい事故がこれ以上繰り返されないよう、私たちも発信して行かなければならない」と誓った。

 7月21日を「市民安全の日」と定めている明石市は、追悼式に先立ち下村さんを講師に招き、事故現場の大蔵海岸で研修を実施。事故を知らない世代とされる入庁1年目の職員47人が、風化の防止と安全意識の継承に向けて学んだ。

【明石歩道橋事故】
2001年7月21日午後8時45〜50分ごろ、兵庫県明石市の花火大会会場の大蔵海岸と最寄りのJR朝霧駅を結ぶ歩道橋で発生。殺到した見物客が折り重なるように転倒し(群集雪崩)、0〜9歳の子どもと高齢者計11人が死亡、247人が負傷した。