大阪・あべのハルカスの大阪芸術大学スカイキャンパスで、9月25日まで開催中の『中村佑介20周年展』を紹介する2回シリーズの第1回。まずは、中村氏の“20年の画業”と“オリジナリティ”を軸に届ける。

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 大阪・あべのハルカス(大阪市阿倍野区)の大阪芸術大学スカイキャンパスで、23日、「中村佑介20周年展 20th Anniversary Yusuke Nakamura Exhibition」が始まった。兵庫県宝塚市出身のイラストレーター・中村佑介氏の画業20周年を記念したもので、ファンはもちろん、誰もが一度はどこかで目にした経験があるであろう作品が一堂にそろう。

◆原画の「大いなる価値」
 会場入り口で迎えてくれるのは、今展のアイコン。ベースのモチーフは、中村氏と20年の歩みを共にしてきたロックバンド、「アジカン」ことASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム『ソルファ』のCDジャケットだ。

 歩みを進めたところには、渡辺敬二(CRAFT WAT!)氏の手による同ジャケットイラストのフィギュア、その先に、1枚目のミニアルバム『崩壊アンプリファー』(2003年)から最新作「プラネットフォークス」までのジャケットと原画が、左右に分かれてズラリ。そのさまは圧巻だ。

 デッサンが多数並ぶなか、とくに『崩壊アンプリファー』の着色された原画に注目してみたい。中村氏にとって「はじめてのローカルでないイラスト仕事」(今展グッズのトレーディングカードより)。塗料で白く塗り込められた少女の顔(まるでパックをしているかのよう)や、耳からでた煙、背景などに残る筆致は生々しく、パソコンでの作業も増えたという現在の製作活動とはひと味違う世界を垣間見ることができる。

 原画について、中村氏はこれまで「イラストレーターの仕事は、印刷されたパッケージなど、消費者が直接目にするものが完成形。原画には、皆さんが思ってくれているほど値打ちを感じていない」と明かしてきた。しかし、今展で改めて原画を目の当たりにした時、胸をよぎるのは「完成に至る前にどのような揺らぎがあったのか」と、中村氏の頭の中を探る楽しみ。それは、ミロのヴィーナスの両腕を想像するロマンにも似て、背景に在る創意工夫や物語に心が躍らされる。その点で、中村作品の原画は、会場を訪れる者にとって間違いなく「大いなる価値がある」と実感するし、原画と出会える展覧会はやはり貴重な機会だと言える。

◆“リアリティ”こそ“オリジナリティ”
 会場をさらに進むと、東川篤哉氏の小説『謎解きはディナーのあとで』(小学館)や、『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)、中村氏がキャラクター設定を担当したアニメで、7月28日に映画情報が公開された『四畳半タイムマシンブルース』を含む森見登美彦作品、教科書『高校生の音楽』 (教育芸術社)をはじめとする書籍、くわえて、さだまさし、「ゲントウキ」(兵庫県姫路市出身)ら音楽アーティスト関係の作品が次々と登場。

 他にも、グラニフなどのアパレル、「ストリートファイター」や「サマーウォーズ」、サンリオの「リトルツインスターズ(キキララ)」、そして「ゴジラ」などとのさまざまなコラボ作品、さらには『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)出演者や一般の人を含む似顔絵にデビュー前の作品まで、ありとあらゆる中村氏のシゴトが展示されている。

 どの作品も、隅から隅まで驚くほど細やか。見れば見るほど発見に満ちていることに、今さらながら驚く。繊細なまなざしと、底知れぬ探求心が生む“リアリティ”は、中村作品の“オリジナリティ”だ。

 中村氏は、依頼を受けたテーマについて、とにかく見聞きし、調べ尽くすという。そのため、製作過程で長い時間が掛かるのは、描き始めてからよりも描き始める前なのだそう。関係のある内容を複数、具体性を伴う形で作品に落とし込む。

 例えば、人や事柄がテーマなら、ゆかりある土地やモチーフ、食べ物や生きもの。鳥や動物を登場させる際は、図鑑を用いて、羽・毛並み、筋肉のつき方まで研究。物なら、型の特徴、些細な印などまで見落とさないという具合。今展では、随所で作品の製作過程も紹介されている。中村氏がとことん貫く“追求する姿勢”を間近に感じられるはずだ。

 そのことを踏まえ、今展で興味深いのは、詳細な案内やキャプションが各イラストには付けられていないこと。それはまるで、作品の細やかさに反比例するかのよう。観る側に委ねられている、あるいはイラストそのもの世界に没頭できると言えるが、観る者自ら中村氏の情報発信に手を伸ばしてこそ完結する展覧会とも捉えられるのがおもしろい。

※『中村佑介20周年展』@大阪・あべのハルカス(2)につづく