アスベスト(石綿)による健康被害を受けて死亡した兵庫県三木市の男性の遺族が、労災認定された際のアスベスト関連文書を労働基準監督署に廃棄されたのは不当だとして、15日、国を相手に約300万円の損害賠償を求め神戸地裁に提訴した。アスベストに関わる文書の廃棄は全国の労基署などで相次いでいる。遺族の代理人弁護士によると、文書の廃棄をめぐって法廷で争うのは初めてとみられる。

 訴状によると、1989〜1998年にかけて兵庫県内で鉄工所を経営していた男性は、現場で溶接作業をした際に、他の業者が切断した建材などから飛散したアスベストを吸ったとされる。男性はこの影響で中皮腫を発症し、2003年に54歳で死亡した。2008年、遺族の申し立てを受けて労災認定された。
 2021年に遺族が文書開示を求め、労災認定する際に作成した記録の開示を受けたところ、兵庫労働局からは説明はなかったが、弁護側の調査で誤廃棄が判明したという。
 2022年3月、遺族は神戸市の建材メーカーを相手に損害賠償請求訴訟を大阪地裁に起こしたが、建材メーカーの特定ができなくなる恐れがある。
 こうしたことから、遺族は永久保存とされている労災記録の廃棄や、開示の際に誤廃棄を説明しなかったことは違法だと主張している。

 アスベスト被害をめぐって国と建材メーカーの賠償責任を認めた2021年5月の最高裁判決を受け、作業員らが訴訟を起こさなくても、国から同水準の給付金を受け取れるよう整備されたが、建材メーカーはこの仕組みに加わっておらず、作業員らは個々に訴訟を起こさなければならない。
 現在、全国で約200人が建材メーカーの賠償責任を問う訴訟を起こしているが、厚生労働省が2015年に発表したアスベスト関連の文書廃棄は約6万4千件とされる。代理人弁護士は「廃棄の影響が各地の訴訟に広がる恐れがある。アスベストによる労災記録の重要性が深く認知され、国は厳重な取り扱いを徹底するよう求めたい」と訴える。

 遺族は「父のアスベスト被害について弁護団に相談し、はじめて労災記録が廃棄された重大性を認識した。記録が廃棄されて連絡を受けていても、私のようにその重大性に気づいていない方は、他にもおられるのではないか。アスベスト被害者・遺族に対し、国が追い打ちをかけるように廃棄してはいけない記録まで廃棄するのは許せない」と話す。
 厚生労働省は「訴状が届いた場合、関係各所と対応を相談する」とコメントした。