女性を取り巻く問題に鋭く切り込み、次々を話題作を生み出すヒットメーカー・田房永子さんによる『いつになったらキレイになるの? 私のぐるぐる美容道』が発売となりました。

加齢による外見の急激な変化に悩み、鏡を見ることもできなかった作者が、自分の姿を受け入れるようになるまでを記録したエッセイ漫画です。

自分の外見が好きになれない女性にも、鏡や電車の窓にうつった自分の姿を見てドキッとしたことのある女性にも、是非読んでいただきたい一冊。

本記事では、第3話を紹介。後半では、作者の田房永子さんに、新刊『いつになったらキレイになるの?』について、お話を聞きました。

◆一番きつかった体験は…
――美容や外見について描かれていますが、このテーマを描くきっかけは?

田房永子(以下、田房):この本を描くために取材で行ってたわけではなく、ただ本当に必死な感じで断食道場やエステに行っていました。その話を編集さんにしているうちに、これを描きましょうということになりました。

――「ESSE」での連載中、どんな反響がありましたか?

田房:私がいろいろやっているのを見ていただいて、50代60代の方からも「私も昔こんな風に悩んでいた」という感想を頂いたりしたそうです。

――様々な経験をされていますが、一番きつかった体験は何でしたか?

田房:エステです。エステティシャンが、すっごく優しくて「すてきなお体ですね〜!」ってニコニコしながら2時間くらいかけて私の全身の脂肪を手で揉みまくってくれるんですよ。その間ずっと「運動も食事制限もしなくていいんです! 私が揉んで脂肪落としてあげますからね! おまかせあれ!」みたいな感じで。

なのに、紙パンツ脱いで着替えて帰り支度し終わったら、エステティシャンが眉をしかめて深刻な表情で部屋に入ってきたんです。「田房さんの足のセルライトは真皮まで侵食していて、2〜3回のエステじゃ取れません。週2回、40回コースに通っていただかないと…」って回数券の営業が始まりました。断ったら「え!? どうするんですか…!? そんな脚でいいんですか!?」って。
ひどくないですか(笑)そんなこと言わない方が絶対いいのに。

◆「あ、私の足の色、かわいいじゃん」って思う時があります(笑)
――ひどすぎて笑ってしまう(笑)。作中に「なんだかまるで『正しい体型』というものがあって、『これに近づく努力をしないと死にますよ!』と言われてるみたい」というコマがありましたが、日常的にそういう息苦しさを感じてる女性は多いのではと思いました。
エステで嫌なことを言われてパニックになった自分の気持ちに寄り添うシーンは、非常に田房さんらしい丁寧な描写で、印象的です。本の完成前と後でどんな変化がありましたか?

田房:鏡や写真が以前より平気になりました。見れなくてつらかったし不便だったので、これは本当によかったなあって最近思います。でも自分一人で鏡見てる時と、街のガラスとかに映る自分の姿ってぜんぜん違うんでギョッとするのは常にあります(笑)。でも一人の時に自分の顔を見て「悪くないんじゃない」ってたまにでも思えることで無数の「ギョッ」を乗り越えていけるものなんだなって知りました。

あと、お風呂からあがって足を拭(ふ)いていて「あ、私の足の色、かわいいじゃん」って思う時があります(笑)。セルライトついたまんまだけど、色はいいなって。以前なら、セルライトあるから何もかもダメ、って考え方だったんですよね。でも今は、誰かの足の色と比べてるわけじゃなくて、パっと目に入って「かわいい」と思った自分の感覚をそのまま受け取れるようになった、って感じです。

自分に対する変化と連動してるのか、人がおめかししているとうれしくなって「すてき!」とか「かわいいね」とか口に出して言っちゃうようにもなりました。

◆イカダで漂流していた自分が「YOU島」にたどり着けました
――書下ろしエッセイ(4章「5月ひどい落ち込み」)の「『私は太っている』という事実に向き合ったら、安めぐみになりたくなった」いう流れが、いきなり過ぎて爆笑しました(笑)

田房:「今の私は、どういう姿になりたいのか?」って自分に尋ねたら安めぐみさんがボンと浮かんできました。そうですね、自分でも急すぎて「どうした?」って感じでした(笑)。

でも、なれるかなれないかは別として、「安めぐみさんになりたい」という自分の訴えをひとまず受け入れる、という繰り返しが「鏡を見れるようになった」につながったのかなと思います。

――こういう人になりたいという具体的なイメージが沸くのは、前向きになっている証拠ですもんね。4章の書下ろしエッセイは、紆余曲折(うよきょくせつ)ありつつも田房さんがご自身を受け入れていく様子が描かれ、メイクやファッションを楽しんでいてとてもハッピーな雰囲気ですね。

田房:YouTubeのメイク動画をボーッと見てて、やってみようかな、と思って真似してみて、そしたら前髪のボリュームが足りないと分かって、と順を追って「次にやること」が具体的に分かっていったのが、楽しさにつながりました。今まではそもそも鏡を見れないから、どこから手をつけて何を改善すればいいのか分かんなかったんです。

「次にやること」をやっていくと見違えてくるわけで、ある地点でタレントのYOUさんっぽくなったんです。YOUさんそっくりになったわけじゃなくって、YOUさんみたいに「きれいでいようとしてる中年女性」になれた、っていう意味です。

わけもわからずイカダで漂流していた自分が、方位磁石や灯台を頼りにすることを覚えて、「YOU島」にたどり着けました。

YOU島の港に着いたら、今度は自分好みの服とかメイクのジャンルを選んでいいんですよね。自由におしゃれを楽しんでいいっていう土台を、前世代の女性たちが作ってくれたおかげだなって思います。それに今は女性が自虐しなくていい時代。私が子どもの頃は、年齢を隠す女性が多かった。

◆高齢の女性の裸を見る機会が、お風呂とか銭湯以外にない
――確かに、我々が小さい頃の中年女性はすぐ「もう私なんておばちゃんだから」って言っていた気がします。

田房:40代から50代60代70代になるごとに、第二次性徴期並みに姿が変わっていきますよね。第二次性徴期のことは詳しく教えてくれるけど、第四次変化期とは呼ばないのってへんだなと思います。

海外だとおばあちゃんがビーチで水着で歩いてたりするけど、日本だと自分より高齢の女性の裸を見る機会が、お風呂とか銭湯以外にない。

メディアで見る高齢の女性の体って宮崎美子(※2020年、62歳で水着グラビアを発表)しか見たことないです。40代の私のほうが人に見せられないボディなんですけど…っていう。

スポーツジムのお風呂に入ると、お婆ちゃんたちがいっぱいいるんです。自分より年上の女性の体が自然と視界に入ってきて、じっくり見ることはしないけど、いろいろな体型の人がいてホッとします。それだけでなぜか、自分も年とってもやっていけるなって思えるんですよね。若い頃は銭湯にいってもそんな感覚にはならなかったけど。

――作中でも「この容姿で生まれてここまで来た自分の運命そのものを肯定したい」と書かれていいましたね。非常にいい言葉だなと思いました。『いつになったらキレイになるの?』で特におすすめの回はありますか?

田房:フィメールラッパーの回(4章「11月欧米エンタメにハマる」)ですね。お尻や太ももが大きいことは別に悪いことじゃないって海外の女性アーティストに教えてもらえました。彼女たちの姿を見る前は、全くそういう風に思えなかった。自分で読み返してみても、やっぱりいいなって。

◆自分のやりたいことをやればいい
――女子SPA!の読者に向けて、メッセージがあればお願いします。

田房:私は30代後半から自分が嫌で嫌で仕方なかったんですけど、そういう時期もあってもよかったなって思ってます。“あの時もっとはっちゃければよかった”ともあんまり思ってなくて。

私にとっては、「お母さんに似るのが嫌だ!」って抗(あらが)うことも人生の一歩だし、それを感じ切るのも、そういう時期だったのかなと思います。無理くり綺麗になろうとしなくていいし、ありのままの自分を好きになりましょうとか自己肯定感を高めましょうとか言われても、できないものはできないから、それはもう放置して(笑)自分のやりたいことをやればいいと思いました。だって無理だし。

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母親、痴漢、男女の格差など、普段やり過ごしていた問題をグッと身近に引き寄せ、「悲しんだり怒ったりしていいんだ」と気づかせてくれる田房永子さんの作品たち。

新刊『いつになったらきれいになれるの?』では、作者が自分の見た目を少しずつ受け入れていく心の動きが丁寧に、コミカルに描かれています。

「私は私の人生や生活を守るために必死で(中略)次に進むために食べてたんだって」「『がんばってたね』って言ってあげてもいいんじゃないかなって思った」(4章「6月安めぐみに目覚める!?」)という田房さん。自分の見た目や体型を受けれられず自己嫌悪に陥っている人たちに寄り添ってくれる本です。

私たちも40代をYOU島で楽しく過ごしましょう。

【田房永子】1978年、東京都生まれ。2001年、アックスマンガ新人賞佳作受賞。過干渉な実母との確執を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版刊)が大きな反響を呼ぶ。著書に『キレる私をやめたい』(竹書房刊)、『大黒柱妻の日常』(エムディエヌコーポレーション刊)、『なぜ親はうるさいのか』(筑摩書房刊)などがある

<文/藍川じゅん>
【藍川じゅん】80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。