もし誰も知っている人がいない状況でギックリ腰で動けなくなってしまったら、あなたならどうしますか? 今回は、そんな経験をした女性のエピソードをご紹介しましょう。

◆通勤時に突然ギックリ腰に!
松本優佳さん(仮名・29歳・契約社員)は、ある日通勤電車に乗り込もうとしたらギックリ腰になってしまいました。

「グキッと脳に突き抜けるような痛みが走り、息が止まりましたね。でも通勤時間で混んでいるホームに座り込んだりしたら迷惑なので、必死の思いで少しづつ電車から離れて、ベンチのある方に歩きだしました」

嫌な汗をかきながら牛歩のようにゆっくりと移動していると、背後から「あの、ギックリ腰ですよね。良かったら手を貸しましょうか?」と声をかけられたそう。

「痛さのあまり振り返ることもできずにいたら、サッとスーツ姿の男性が私の横についてくれて腕を差し出してくれたんです」

◆優しい男性のお世話になり…
普段だったら警戒して、初対面の男性の腕を借りるなんてことは絶対にしませんが「とにかくベンチまで、あせらないで行きましょう」と声をかけてもらい、ベンチまでならと、とりあえず助けてもらうことにしました。

「人混みの中、その人が盾(たて)になって歩いてくれたのでとても助かりました。やっとベンチまでいくことができて、腰掛けると、彼が自販機でスポーツドリンクを買ってきてくれたんですよ」

痛さに耐えながらやっとの思いで歩いていたので、喉もカラカラだった優佳さんは、スポーツドリンクが身に染み渡るほど美味しかったそう。

「やっと落ち着いてきたので、その人(40代前半くらい)にお礼を言うと『いえいえ、僕もギックリ腰になりやすいので辛さは良く分かりますよ』と言ってくれて、少し安心しましたね。小太りで別にかっこよくはないけど、優しい笑顔でした」

◆整体院を紹介される
すると時計をチラッと見た彼に「よかったら、ここから30分程のところに僕が行きつけの整体院があって、ギックリ腰の処置が上手くておすすめなので行きませんか?僕は仕事があるので、タクシー乗り場まで送って失礼させてもらいますが」と言われたそう。

「とにかくこの痛みをなんとかしないと何もできないと思い、ワラをもつかむ思いで整体院を紹介してもらうことにしたんです。普段だったらそんなの怪しいんじゃないか?と疑うのですが、彼の優しさがあまりにも自然だったので信じても大丈夫かなと思いました」

また改札口を出るまでの道のりを、痛さに震えながら彼の腕につかまりつつ歩くと…。

「すでにタクシーが呼んであって、最短距離で乗れるように止まってくれていました。そこで彼とはお別れして、整体院の前まで着くと、サッと受付の女性が出てきてくれて、もう、例の彼がすっかり話を通してくれていてとてもスムーズに施術してもらえたんですよ」

◆支払いをしようとしてびっくり
ギックリ腰になりたてでまだ熱を持った部分を冷やし、足の付け根部分をじっくりとマッサージしてもらうと、大分痛さがゆるみました。

「まだ痛いは痛いですが、ゆっくりなら座ったり立ったりはできるようになっていて驚きました。以前ギックリ腰になった時なんて2日間程は何をするのも激痛で大変だったのに」

そしてマッサージ代の支払いをしようとしたら、例の彼が払ってくれたと聞いて優佳さんは驚いてしまいました。

「名も名乗らないで、そんな親切な人っている?嘘みたいと思いました。しかもタクシー代もいつの間にか払ってあったし、あの人何者って感じでした」

◆腰痛の王子様にときめき…
そして受付の女性に「彼にお礼が言いたいので、連絡下さいとお伝えください」と自分のメールアドレスと携帯番号を託すと…。

「すると『彼はちょっと前にも同じように、ギックリ腰の人をここに連れてきて助けてあけていたんですよ』と聞き、え?と思い『それはどんな人だったんですか?』と聞いてみたんですよ」

すると「30代後半の男性でしたよ」と聞き、優佳さんは胸が高鳴ってしまったそう。

「一瞬、困っている女だけを助けるナンパ目的の親切なのかな?と疑ってしまったのですが、男性も助けているなんて、これは私の“腰痛の王子様”が現れた!とドキドキが止まらなくなってしまって」

彼からの連絡が待ちきれない優佳さんは、スマホばかり気にしながら数日過ごしました。

「それから5日後に彼から『腰の痛みは良くなりましたか?』とメールがきて嬉しくて飛び上がってしまいました。恐縮する彼に、どうしても直接お礼が言いたいとグイグイ迫ってしまいました(笑)」

◆彼女に立候補
彼(Yさん・41歳・独身)はデザイン事務所の社長兼デザイナーだということがわかり、優佳さんはランチの約束をすることに成功しました。

「ランチ当日Yさんに、なんでそんな風に見ず知らずの人を助けられるんですか?と質問したんですよ」

すると実は大学生の頃、海外旅行中にギックリ腰になってしまったYさんは、言葉も通じずに痛さで動けずに不安な気持ちで途方にくれていたら、現地の皆さんが驚く程親切にしてくれて、その感動が今でも忘れられず、それから困っている人を見かけたら、自分にできる範囲で助けるようにしているんだと話してくれたそう。

「そんな風にして、余計な出費をしたり、約束の時間に遅れたりしていたのが原因で奥さんに逃げられてしまい、バツイチになってしまったという話も聞いて…なんで?こんな良い人と離婚するなんてもったいないと思い、つい『彼女に立候補したい』と言ってしまいました」

最初Yさんは「落ち着いて。まだ優佳さんは僕のことよく知らないじゃない?」と、少し引き気味にたしなめてきましたが、6回目のデートでようやく首を縦に振ってくれました。

「やっぱりYさんって、私の腰痛の王子様だったんだなと思いましたね。ギックリ腰には腹筋と背筋、あとお尻を鍛えると良いそうなのでよく2人でスポーツクラブデートしていますよ」

「今、とても幸せです」と微笑む優佳さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop