2022年の秋ドラマが終盤戦に差し掛かっています。豊作といわれる今クール。ベテラン俳優たちの活躍により、ぐっと作品に深みが増しているドラマも多々。

今回は、『ザ・トラベルナース』『PICU 小児集中治療室』『拾われた男』から、筆者が特に感銘を受けたベテラン勢の活躍をご紹介したいと思います(※以下、各ドラマのネタバレを含みます)。

 画像:テレビ朝日『ザ・トラベルナース』公式サイトより

ザ・トラベルナース/演技の緩急で見せつけた、中井貴一の凄み



はじめに紹介したいのは、『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系、木曜夜9時〜)における中井貴一です。言うまでもなく日本を代表する俳優のひとりで、ちょっとクセのある役を演じたら右に出る者はいないと思わせる圧倒的な個性が魅力の中井

数多くの映画やドラマに出演し、日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞(第27回/「壬生義士伝」)をはじめ幾多の賞を受賞しています。なお筆者の好物は、昼食をテーマにしたNHKバラエティ『サラメシ』のナレーションと、小泉今日子とのW主演ドラマ『最後から二番目の恋』シリーズで演じた生真面目な“鎌倉市役所観光推進課課長”長倉和平の役です。

 「最後から二番目の恋 DVD-BOX」(ポニーキャニオン)今期の『ザ・トラベルナース』では、医療従事者を目指す貧しい人たちを支援する「フローレンス財団」の理事長でありながら、現場「天乃総合メディカルセンター」で謎のスーパーナースとして働く男・九鬼静を演じています。

バディを務める、腕は抜群だけど何かが少し足りないトラベルナース・那須田歩(岡田将生)をはじめ、看護部長(寺島しのぶ)や同僚のナースたち、外科医師(菜々緒)、病院長(松平健)にも大きな影響を与えていくという役どころ。

広島弁ですごんだり、慈悲深く患者に寄り添ったり



本作では、中井の真骨頂とも言える緩急ある演技が実によくハマっています。笑わせるところと、シリアスなところ。空気を凍らせたかと思えば、しっかりと和ませる。そんな風に、中井は観る者の心を惹きつけていくのです。



第1話で、患者を放っていた“ゴッドハンド”外科医(柳葉敏郎)に広島弁ですごんで詰め寄ったシーンでは、凄まじい圧にしびれました。かと思えば、12月1日に放送された第7話では全く違う面を見せ、がんの進行が早く治療が困難になった大学生の患者(荒木飛羽)に優しく寄り添いました。その姿は、男性ながらナイチンゲールのような慈悲深さを感じさせ、涙を誘う展開に。

12月8日に最終回を迎える本作。難病を患い、急性心不全を起こした静。ナースとしての人生を全うしようとする姿を、どう中井が演じきるのかが楽しみです。

PICU/心に訴えかける安田顕の演技に震える



次に触れたいのは、今クール最高との声も集まる『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系、月曜夜9時〜)に出演中の安田顕です。(『水曜どうでしょう』ファンの筆者としては、安田顕といえばonちゃんであり、ドラマや映画で拝見する度に「あのヤスケンが…あの安田さんが出世したなぁ」と感激してしまうのですが。…というのは置いておいて)



毎クール何かしらのドラマに出ているのでは?! と思わせるほど引っ張りだこの安田。先クールでは『初恋の悪魔』で狂気じみた元弁護士・森園を演じ、12月9日公開の映画『ラーゲリより愛を込めて』では主人公・二宮和也の同郷の先輩役で出演しています。

彼の素晴らしい演技はあらゆる作品で発揮されていますが、筆者が本当の意味で俳優・安田顕に魅了されたのは2015年放送のドラマ『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)。繊細な感性を持つ、女装が好きなゲイのパティシエという役でした。完全におじさんの安田が、本当に可愛らしい控えめな女性に見えるのです。衣装や髪型の変化のためだけでなく、その演技によって。

安田顕だからできる“眼”と“佇まい”の演技



安田の演技に私たちが惹かれるのは、“眼”と“佇まい”にあると考えます。彼の大きな“眼”には、役が抱いている複雑な感情をストレートに視聴者に伝える力があるのです。また風貌や衣装ではなく、役柄を“佇まい”で表現できるのも安田の魅力。『PICU』でも、その“眼”と“佇まい”で視聴者を惹きつけています。



『PICU』で演じているのは、日本各地でPICU(小児専門の集中治療室)の整備を推し進めてきた人物・植野元。北海道の地で、医療用ジェット機を運用する日本屈指のPICU開設を目指し日々奮闘しています。主人公・武四郎(吉沢亮)をはじめとする医師や看護師、そして患者に、真摯に寄り添うPICU課長です。

ただ優しいだけの上司、医師ではありません。「小児医療を発展させたい」という強い信念と、周囲の人たちを包み込む温かさが同居する眼差し。そして医師として、課長としての責務を背負った立ち姿。安田顕だからできる“眼”と“佇まい”の演技で、物語を支える大きな柱となっています。

拾われた男/自然と“そこ”に溶け込む草彅剛の存在感



最後に外せないのがNHKドラマ10『拾われた男』(火曜夜10時〜)に出演している草彅剛です。本作はNHK・BSプレミアムで先んじて放送されていたので、既に夏クールで楽しまれた方もいらっしゃるとは思いますが、地上波の秋ドラマとしてどうしても紹介せずにはいられませんでした。



昨年の大河にも出演していた草彅ですが、本作でいよいよ連続ドラマの世界に戻ってきたという感触が…! SMAPファンの筆者としてはそれだけでも嬉しくてたまりません。『拾われた男』は俳優・松尾諭のエッセイを原作に松尾の半生を描いた物語で、松尾諭をモデルにした松“戸”諭(仲野太賀)が主人公。草彅はその兄・松戸武志を演じています。

演技していることを感じさせない演技



決して仲のよい兄弟ではなかったふたり。物語の冒頭で兄の武志は渡米して、音信不通になってしまいます。諭が俳優として成功し始めた頃、アメリカから「兄(武志)が脳卒中で倒れた」と電話が入り、第7話で兄弟は15年以上ぶりの再会を果たします。

 松尾諭 『拾われた男』(文藝春秋)病におかされ、やせ細りガリガリの武志(草彅)…からの回想シーンでは、アメリカでの生活を楽しみながらも厳しい環境に晒される姿や、家族とのことに苦悩する姿が描かれました。彼の演技はどうしてこうも“自然体”に見えるのでしょうか

あまりにも自然に、目の前にいるように見える



草彅が日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞を受賞した映画『ミッドナイトスワン』で演じた、トランスジェンダーの女性もそうでした。自分の死に直面した人物も、家族の死に直面した人物も、どんな設定の人物も、草彅が演じるとあまりにも自然に、まるで目の前にいるように見えてしまうのです。

 画像:『ミッドナイトスワン』公式サイトより演技していることを感じさせない演技。体づくりも、役づくりも徹底していることでも有名ではありますが、何よりもそれを感じさせない表現力が素晴らしい。

草彅の登場によってぐっと物語が引き締まった



自然に、でも印象を残す草彅の存在感は、『拾われた男』でも健在。主人公・諭の人生を、夢と友情や恋を交えてどちらかといえば前向きに展開してきた本作ですが、草彅の登場によってぐっと物語が引き締まったように感じました。

草彅は2023年の1月クールには『銭の戦争』『嘘の戦争』に続く戦争シリーズ第3弾『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)での主演も控えており、また彼の“自然”が観られると思うと楽しみでなりません!

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ドラマというと主演や若手に注目が集まりがちですが、やはり圧倒的な実力をもつベテラン勢の存在があってこそ、物語に深みが出るというものです。キャリアに関わらず、作品に真摯に向かい続ける俳優陣に敬意をもって、秋ドラマを最後まで楽しみたいと思います。

<文/鈴木まこと(tricle.llc)>

【鈴木まこと】
tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201