
妻が夫の「排除」を決断する瞬間
ドラマ『夫婦が壊れるとき』第7話では、夫の昂太(吉沢悠)に2年もの間、裏切られ続けた妻・陽子(稲森いずみ)が、「何も失わず、この生活から夫だけを排除する」決断を徐々に固めていく状況が描かれた。夫は愛人の理央(優希美青)に貢ぐため家を抵当に入れ、息子の学資保険まで解約していた。そんな事情を、陽子は夫の母に暴露する。だが義母はすでにそのことを知っており、息子を見捨てないでほしいと陽子に懇願してくる。
「もう手遅れです」
きっぱり言う陽子に、義母は「あなたは完璧すぎる」とつぶやく。「私が悪いってことですか」と鼻白む陽子。それでも「お義母さんのめんどうは私が見ます」と告げる。彼女の思惑は、今の生活から夫だけを排除する目的が明確になった瞬間だ。
息子の携帯に、夫と不倫相手の濃厚キスシーンが
さらに陽子は、ひょんなことから息子の凪の携帯を見てしまう。そこに写っていたのは、昂太と理央の濃厚なキスシーンだった。父親を探していた凪がたまたま録画してしまったものだ。そういえば、昂太の会社設立10周年パーティが開かれた日、帰宅した凪の様子がおかしかったことを陽子は思い出した。息子は知っていたとわかり、陽子の怒りは頂点に達し、ついに復讐の火蓋が切って落とされた。
夫の不倫を隠していた全員に復讐を
まずは夫の親友で、夫の会社の経理を担っている会計士の加集が標的となった。もともと彼が好意以上の感情を抱いているのを知っていた陽子は、彼の誘惑に乗ってみせる。昂太と理央の関係を知っていたすべての人間への復讐が始まる。妻が稼いだお金を湯水のごとく自らの金として、愛人を引き止めるために使う夫のクズっぷりが光るこのドラマだが、吉沢悠が「クズ」に見えないところがなんともリアルで興味をそそる。
本当の「クズ」とは、そういうものかもしれないと思えてきてしまうのだ。人当たりがよくて仲間もいて、表だっては妻を立て、子煩悩。そういう男こそが裏で何をしているのかわからないという恐怖がある。
不倫夫への復讐を果たした妻の実話
夫の裏切りを許せず、実際に復讐を敢行した妻がいる。ナオエさん(仮名・41歳)である。29歳のときに結婚した同い年の夫は、「まじめ」だけが取り柄の人だったと彼女は言う。それなのにひとり娘が8歳になった3年前、不倫していることがわかった。
まじめで不倫などするタイプには思えなかった。実際、芸能人の不倫のニュースを見るたび、夫は「こういうの許せないよな。離婚してから恋愛すべきだ」と口にしていたのだ。
そもそも「オレには愛する妻と子どもがいるから、不倫なんて考えられない」とたびたび言っていた夫。そんな人が妻に黙って外で恋をしているとは信じられなかった。
反吐が出るようなやりとり、目を背けたくなる写真
「だけど、私が知っている夫とは別の側面が見えてしまったのは事実。それから証拠集めに走りました。まずは夫の携帯を見たら、夫とその彼女の反吐(へど)が出るようなやりとりや、目を背けたくなるイチャイチャ写真などが出てきた。相手の女は若かった。ひとりで抱えているのが苦しくなって、仲良くしている夫の妹に聞いたら、『実は……』と話してくれました。義妹は夫とその彼女がホテルへ入っていくのをたまたま見たことがあったそう。『兄には言ったの、どういうつもりなのかって。そうしたら何もしてないとはぐらかされた』って。私に言おうかどうしようか迷っていたけど、自分にできることがあったら協力するとも言ってくれました」

義母も不倫のアリバイ作りにも加担していた
「ところが義母も知っていたんですよ。『あなたは娘も同然』と言っていた義母を信じていたのに、義母は夫が愛人と会うときのアリバイ作りにも加担していたとわかった。義父は『男の甲斐性だ』と旧態依然としたことを言うし、がっかりでした。義妹だけが味方をしてくれたけど、義父に『おまえはもうよその家の者だ。うちのことに口を出すな』とまで言われて……」夫は不倫していることを認めようとしない。それどころか「僕が愛する女はナオエだけだってわかっていないのか」と逆ギレする始末だった。彼女はついに復讐を決意する。
「夫からは養育費をとりたかったから収入を途絶えさせたくなかった。でも背に腹はかえられない。私は仕事を続けていたので、娘とふたり何とか食べてはいけます。夫の社会的評判を落とすのがいちばん堪えるはずだと思ったので、夫の上司に告げました。相手の女性は同じ部署の20代半ばだとわかっていたし、社会的制裁がされればいい、と」
夫の罪は、不倫だけではなかった
そして夫の勤務先が対応する前に、彼女は娘とふたりで家を出た。信頼する職場の先輩の実家が不動産業を営んでいたので事情を話し、いい物件を見つけてもらった。さらに弁護士も紹介してくれたという。夫からは何度も連絡が来たが、彼女はいっさい返事をしなかった。すぐに弁護士から離婚協議を求める手紙を送ってもらうことにしていたからだ。

落ち込んでいるところへ弁護士からの手紙が届き、さらにその手紙のコピーが実家にも行ったことで、義父母の態度も変わった。ことが公に近い状態になったために、義父などは「浮気をする資格がない」と不条理な怒り方をしているようだと義妹から連絡があった。義母は「情けない、会社をクビになるなんて」と泣き崩れたとか。
追いつめられた夫はヤケになり、離婚届にサイン
「背任があったから退職勧告をされた。それを義母はわかっていないから方向性がおかしいけど、義父母が息子を庇うのをやめたのは私にとっては救いでした。今の社会でやってはいけないことをしたのだと思ってくれただけでもよかった」夫は追いつめられ、ヤケになったのか離婚届にはすぐにサインをした。弁護士に話し合ってもらい、退職金から慰謝料と養育費を一括で支払ってもらった。
たいした額にはならなかったが、ナオエさんは「これで縁が切れるならよしとする」と決めた。
裏切った夫を受け入れるような「我慢」はおかしい
その後、夫は実家にも戻れず、遠い親戚が経営する地方の小さな旅館で働いていると噂に聞いた。「義父母にも夫にも娘は会わせていません。それがいいかどうかわからないので、そろそろ11歳になる娘の意見を聞こうとは思っています。娘から父親を奪う権利は私にはないから。ただ、元夫は一度も娘に会いたいと言ってこない。それが腹立たしいですね。元夫は私に対して腹を立てているとは思うけど」
娘とふたりで今は日々、楽しく生きている実感はあるとナオエさんは言った。
「復讐してよかったとは思います。あのままのうのうと浮気されながら同居するなんて、私にはできなかった」
夫婦なら協力しあって家庭を営んでいくのが当然。裏切った夫をそのまま受け入れるような「我慢」をなぜ妻がしなければいけないのか。ナオエさんはキリッとした表情でそう言った。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio