DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)は今、窮地に立たされている。今季限りでアウディが撤退することによって、来季以降も参戦する予定のメーカーがBMWの1社のみとなってしまうからだ。

 現在DTMではスーパーGTとの共通規則であるClass1規定に準拠したマシンが使われているが、前述の理由から来季はシリーズ存続のために競技車両を変更することになると考えられている。

 DTMを運営するITRの代表、ゲルハルト・ベルガーは先日、来季以降に採用するマシンをまだ決定していないと語ったが、情報筋によるとGT3車両とLMDh車両が候補に挙がっているという。

■LMDhでスプリントレースという斬新なプラン。しかし1年のシーズン休止は避けられない?

 FIA世界耐久選手権(WEC)とIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の共通規則であり、LMP2マシンがベースとなるLMDhをDTMが採用することは、ツーリングカーシリーズとして少々型破りな選択に思える。しかしながらITRはIMSAと強固な関係を築いており、両者が協力して“アメリカ版DTM”を作ろうと画策した過去があることを考えれば、今回の噂もあり得ない話ではないだろう。

 LMDhマシンでスプリントレースをするというアイデアは、1990年にDTM王者に輝いたハンス-ヨアヒム・シュトックによっても提案されていた。彼は次のように語っていた。

「Class1はたったふたつのカテゴリーでしか使用されていない」

「一方でIMSAとWECによる新しいカテゴリーは世界中で競われることになるが、スプリントレースの開催はIMSAもWECも予定していない。だからスプリントレースの選手権をやってはどうだろう?」

 アウディは2019年にスタートしたClass1規定に8000万ユーロ(約96億円)という大金を費やしたとされている。その一方でLMDhのプログラムは比較的低コストに収まる予定で、6000万ユーロ(約72億円)でClass1と同数のマシンを準備できる可能性がある。

 しかしDTMがLMDhマシンを採用する上での最大のハードルは、そもそもLMDhのレギュレーションが確定しておらず、WECやIMSAでも2022年の導入を目指して準備が進められているという点だ。これはつまり、DTMが2021年シーズンを休止しなければいけないことを意味している。

 ベルガーはシーズン休止に乗り気ではなく、6月中旬には次のように話していた。

「休止というのは……考えていない。うまくいかないと思う」

「大きな企業が1年間休んだとすれば、生産ラインなど全てがダウンしてしまう。それを再び立ち上げるには大きな労力がかかる」

「それはここ(DTM)でも同じだと思う。あらゆるものが既に準備されているのに、1年間休むというのは良い方法に思えない。ただ現段階で状況がどうなるか分からないので、どんな選択肢も排除しないつもりだ」

■現実的な選択肢として考えられるGT3。他カテゴリーとの差別化は必須

 もしDTMがGT3マシンの採用に傾いた場合(以前はベルガーも乗り気ではなかったが)、エンジンにチューニングを施すことでパワーを上げることができ、DTMの現行Class1車両と同じレベルの馬力(600馬力)にすることができるだろう。

 しかしながら、DTMはカスタマーチームをメインとしたカテゴリーに移行することはなく、年に1度のマカオGTレースのように、依然としてメーカーが強く関与するシリーズであり続けるだろう。

 またジェントルマンドライバーが参加することもなく、同郷のシリーズであるGTマスターズとの差別化を図ることになるはずだ。

 ベルガーはmotorsport.comに対しこう語った。

「DTMではプロドライバーのみが存在し、その働きの対価として報酬が支払われている」

「そして全てはメーカーによってサポートされており、彼らは毎週のように技術開発を行ない、多くのファンに技術面、競技面の両面で激しい競争を提供している」

「このコンセプトは30年続いていて、成功を収めている。それはDTMの観客数の多さが物語っている」

「(GTマスターズに参戦しているジェントルマンドライバーは)モータースポーツを心の底から楽しんでいる。彼らはGT3カーをドライブするために才能だけでなく経済的手段も持ち合わせている」

「そしてGTマスターズではそこにプロドライバーが加わることで、レースをよりエキサイティングなものとしている」

 ベルガーは過去にBoPなどの性能調整を批判してきたが、DTMがGT3マシンを採用した場合、何らかの形でパフォーマンスを同等にしなければいけないことも理解している。

 LMDhとGT3以外にの選択肢にも目を向けてみよう。しかしどれも実現可能性は低そうだ。

 まず、Class1規定をそのまま2021年も継続することに関しては、日本のメーカーがアウディとRモータースポーツ(アストンマーチン)の穴を埋めることに関心を示していないため、考えにくいと言える。

 WECで使用されているGTE規定を採用するという手もあるが、近年はフォードとBMWがWECのLM-GTEから撤退し、ポルシェも今年限りでIMSAのGTLMから撤退することを考えると、このカテゴリーは衰退傾向にあると言える。

 さらにTCR車両に関しては、上級カテゴリーであるDTMのイメージからはかけ離れたものであると言えるため、これまた実現することはないだろう。

 このように、ITRにはあまり多くの選択肢がないように見える。そしてITRがどの選択肢をとるにしても、それは2025年までの“繋ぎ”ということになるかもしれない。それ以降は完全電動化も視野に入れられているのだ。