F1やFIA、そして参戦するF1チームは、歯止めの効かない新型コロナウイルスという悪夢から、まだ当分逃れられそうにない。カナダGPの代わりとしてF1カレンダーに加わったトルコGPも中止となり、日本GPやブラジルGPなどの2021年シーズン後半に予定されている長距知移動が必要なフライアウェイ戦の開催も不透明な状況だ。

 スケジュールが大幅に狂った昨シーズンから今シーズン、F1はどの様に目まぐるしく変わる情勢に対応しているのだろうか。

 4月28日に2021年のF1カレンダー入りが決まった第7戦トルコGPは、第6戦アゼルバイジャンから欧州への帰り道にあるというだけでなく、人員や貨物輸送といった面でも理想的な代役であった。実際、元々予定されていたカナダGPよりも簡単かつ安価に開催可能なのだ。

 しかし発表から4日と経たないうちに、F1の全10チーム中7チームが本拠地を構えるイギリスの政府は、トルコを渡航規制“レッドリスト”の対象に指定した。F1チーム関係者が検疫義務から逃れることができる“エリートスポーツ特権”は適応されず、帰国後は一人当たり1750ポンド(約27万円)の費用をかけ、認可の下りたホテルに10日間隔離されることになる。

 厄介なことに、トルコGPの次戦の開催国であるフランスもトルコを渡航制限対象としていた。アゼルバイジャンとトルコをスケジュールに入れた上で、物資の輸送タイミングを考慮すると、イギリスやフランスのレッドリストからトルコが除外されることを待つ余裕はF1にはない。開催まで残り1ヵ月に迫ったトルコGPをキャンセルし、オーストリアでの2レース目を開催するべくF1カレンダーを調整する他なかったのだ。

 F1カレンダーの修正がこのように比較的順調に進んだ点には、当初から予定が大幅に狂いながらも全17戦を行なった昨シーズンの経験が活きたと言えよう。

 2021年シーズンのスケジュールを取りまとめる重役は、レースプロモーションのグローバルディレクターを務めるクロエ・ターゲット-アダムスだ。

 彼女は、当初予定にはなかった5つのGPを含む、2020年のスケジュールを執り行なった最高責任者でもあった。予定外のGP開催は、それまでのF1では起こり得なかったことだ。

「通常であれば、新たなレースを発表し計画・実行に移すまでに1年半から2年を要していました」と今シーズン初めに彼女は語った。

「コロナ禍の1年で5つのGPを追加開催し、そのうち2つはF1の開催経験がなかったから、『チームがよくやってのけた』という感じですね」

「(GPの追加開催に)ファンが喜んでいた理由は、新型コロナウイルスのような状況での可能性を示せたからです」

「私は常に異なるプロモーターやサーキット(の責任者)と議論を重ねています。世界中の様々な所からF1に興味を持ってもらえるのは光栄なことです。星の数ほどいる(プロモーターの)中から、こう考えるの。『よし! このプロモーターに電話して、2ヵ月以内にF1を開催することに興味があるかどうか聞いてみよう!』ってね」

 ターゲット-アダムスは、F1が2020年シーズンから多くの学びを得たと考えている。それはGPの開催中止への対応方法だけでなく、どれだけ迅速に対応出来るか、開催箇所のバリエーションがどう面白さを演出するかなど、将来へ活きる教訓だ。

「F1に私が驚かされた事の一つは、常に学びを続けていることで、コロナ禍ではそれがステロイドのように強化されていました」と彼女は語る。

「(常に学び続けていることは)F1という組織がどれほど効率的なのか、いち早くシナリオに適応し、イノベーションを起こせるかを良く表しています。レースプロモーションのような仕事では、必ずしも日常的に行われるものではないけれど……」

「我々の仕事の例を挙げるならば、サーキットの変更や、ファンをはじめドライバーやチームに関わる取り決めの対応などです。そして、このことをより長期的な計画やカレンダーの戦略にどう活かせるかを吟味しています」

 GPの変更や追加といった選択には、商業的な取り決めだけでなく、さまざまな要因が絡んでくる。昨シーズン第4戦、第5戦とGPを2連続開催したシルバーストーン・サーキットとは、「F1 70周年記念GP」と名付けられた2つ目のレースで特別な契約を交わした。

 その理由は、昨シーズンを世界選手権として擁立するためにまず8レース、そしてフルシーズンの放映権料をF1が得る為に年間15レースを開催することが急務であったからだ。

 その甲斐あってか、F1のCEOに就任したステファノ・ドメニカリと彼のチームメンバー達は、23レースを予定していた今季のF1カレンダーの変更や追加に関する交渉に慣れてきたようだ。

 サーキットとの契約は観客のチケットから得られる収入についての問題に直結してくる。しかし、人数制限や無観客開催など、その地域ごとに状況は違う。

 そして収入に加え、貨物や人員の輸送などの物流の問題はもちろんのこと、新加入のサーキットや久しぶりにカレンダーに加わったサーキットがGPを実際に開催できるかどうかも重要になってくる。

 そのような議論の中心にいるのが、F1のスポーティング・ディレクターを務めるスティーブ・ニールセンだ。

「私の使命は、できることなら23レース全てを開催することだ」とトルコGPが問題になる前に、ニールセンはmotorsport.comに語った。

「カレンダーに載っているレースが開催出来ないのなら、代わりを探すだけだ」

「レースが出来ないのなら、クロエかステファノがこう言うだろう『さて、他に選択肢はあるけど、どう思う?』って。それから財政的にも物流的にもうまくいくサーキットをピックアップして、妥協しなければならないところは妥協する。(我々の仕事は)大体そんな感じだね」

 F1は、GP開催国における新型コロナウイルスの感染状況だけでなく、トルコGPの時ようにチームが本拠地を置く国の政府が世界各地のサーキットから帰ってきた際に、どの様な措置を取るかを常に注視している。

「事態は刻一刻と変わっていく」とニールセンは言う。

「数ヵ月前までは、(第3戦が行なわれた)ポルトガルはイギリスのレッドリストに載っていた」

「(ポルトガルでの)レース開催を発表した時もレッドリストに記載されていた。つまり確信が持てないものを目指しているんだ。それで『きっと大丈夫』と思い、上手く物事が進展するよう願うだけだ」

「我々は、『どの国で感染率が上昇しているのか』『どの国が減少に向かっているのか』を観察している。それはとても、とても、とても難しいことで、推測の部分がかなり多い。運が悪ければ、その推測が逆になることもある」

「それは実際にカナダで起きたことだ。(これまでは)確実に越えてはならない一線が見えている場合はレース開催を発表せず、公表時に何も問題がない場合のみ開催を発表していた。だが、コロナ禍の世界では事態が急変することもある」

 昨年からの教訓を活かしても、2021年シーズンには未知数の部分も多い。今季の開幕から4戦を行なったサーキットは、コロナ禍におけるGP開催を昨年経験している。しかし、次に控えるモナコ、アゼルバイジャン、フランスの3戦は異なる。

 そして今年後半に控える日本やブラジル、オーストラリアを始めとする計8戦も、昨シーズンのGP開催を見送っていた。

「今年は、昨年コロナ禍でのGP開催を経験していないレースが多くある」とニールセンは語る。

「つまり(コロナ禍でのGP開催に)慣れているプロモーターやサーキットと、一度もそれを経験していないサーキットへ行くことになる」

「そのため『いや、これはこうでなければ』『ああしなければ』と修正会議のようなものを今でも行なっている」

「プロモーターと話をしていると、昨年と同じような感覚になることがある。特に市街地レースの場合はね。まだF1は、コロナ禍で市街地レースを開催したことがない。(コロナ禍での市街地レース開催には)知っての通り様々な課題や問題があり、モナコGPが次戦に控えている」

 長距離移動が必要なフライアウェイ戦では、F1チームがガレージやパドックの設備を何週間も前に船で現地に送るため、複雑さが増す。

「昨年は例外で、異なる考え方が必要だった。」とニールセンは言う。

「今では、対応速度や可能性についてはるかに良いアイデアをもっている」

「(フライアウェイ戦前に)F1チームはいつまでに物資を海運輸送しなければならないかを熟知している。それが意思決定の大部分を占めている。運の良いことに、まだ目的地でのレースがキャンセルされた船に荷物を積んだことはない。(開催中止が決まった)カナダの場合はギリギリだったけどね!」

「F1チームとは非常に密接な連携を取っており、(カナダに)物資を送るのを止めることが出来た。我々は彼らの出荷日を把握している。ただ、我々は以前よりもずっと迅速に対応出来るようになったと実感している。そうせざるを得なかったからね。適応するか死ぬか、だ」

 通常、マシンやその他物資は7機のボーイング747に積載され世界各地に空輸されるが、コロナ禍ではGPごとに貨物用飛行機を確保するのは容易ではない。

「貨物市場は非常に変動が大きい」とニールセンは語る。

「(貨物機の確保は)レンタカーのようなもので、大きなイベントになればクルマを借りる金額はかなりなものになってしまう! もちろん、早く予約すればするほどお得にはなるが、目まぐるしく変わるF1カレンダーとの兼ね合いもある。しかし貨物市場の状況を把握し、予測するのは非常に難しい」

「我々は異なるボーイング747と777の2つの飛行機編成を利用できる。すべてのF1チームが『777フレンドリー・カーゴ』と呼ばれる貨物機に移行している。多くをリモート運用している我々も、(F1の国際放映用)貨物を大幅に減らしている。だからいくつかのF1チーム同様に、我々側(の貨物)も限定されている」

「我々はこれまで常に空輸が出来ていた。優雅で穏やかに見える白鳥が、水面下では忙しなく水を掻いているように、我々も人目につかないところで仕事をしているのだ」