カーボンニュートラルを実現していくため、様々な取り組みを進めている日本のモータースポーツ界。ただ、「環境に優しいモータースポーツ=電気モーターや静かな音のエンジンによるレース」という訳ではない。スーパーGTをプロモートするGTアソシエイションの坂東正明代表も、“カーボンニュートラルフューエル”の導入など様々な環境対策を掲げながらも「10年後も音があるレースがしたい」と公言してはばからない。

 スーパーGTと並び国内最高峰カテゴリーのひとつであるスーパーフォーミュラでも、カーボンニュートラルフューエルや再生可能原料を使用したタイヤの開発などが進められている。そしてそれと並行する形で、“音のあるレース”にこだわった施策が計画されており、開発テストを指揮する永井洋治テクニカルディレクターは、直列4気筒ターボエンジンを搭載するSF19でV型8気筒エンジンのような甲高いサウンドを発生させるテストをSUGOで実施予定だと明かしている。

 ホンダで上記の2大カテゴリーを統括する佐伯昌浩ラージプロジェクトリーダー(LPL)も、サーキットを訪れた観客に非日常的なサウンドを届けていきたいという想いを胸に秘めているひとりだ。エンジン音というと、気筒数が多いほど甲高い音を発生するイメージだが、佐伯LPLは工夫次第では同じ気筒数であってもエンジン音を変えることはできると語る。

「(エンジン音の大きさは)単純に回転あたりのピストンの爆発回数です」

「例えばV型6気筒のエンジンの場合、3気筒ずつで(排気管を)2本出ししているものと、後ろで(排気管を)1本に集合させたものでは、前者は低音、後者は高音という風に分かれます」

「6気筒を1本出しをすれば、1回転あたり6回の爆発が集まったものになり、(3気筒ずつの2本出しよりも)甲高い音になります。6気筒の5000回転が、3気筒の1万回転に相当する訳です」

 佐伯LPLは、“1本出し”で甲高いエンジン音を発生させていた例として、スーパーフォーミュラがフォーミュラニッポン時代の2009年から使用していたスウィフト製の『FN09(SF13)』、そしてホンダがスーパーGTで2010年から4シーズン走らせた『HSV-010 GT』の参戦初年度を挙げた。どちらも自然吸気のV8エンジンを搭載していたが、エキゾーストを1本出しすることで1万回転に到達すればその音は2本出しの2万回転に相当し、2000年代のF1マシンのような甲高いサウンドでファンの耳を楽しませた。

 そんなファンを熱狂させる音を復活させるべく、スーパーフォーミュラでもテストが行なわれようとしている訳だが、それにはどんな方法があるのか? 佐伯LPL曰く、現行の直列4気筒エンジンでV型8気筒エンジンに相当する音を出そうとする場合、排気管レイアウトを変更し、“ウェイストゲート”からの排気を、メインのエキゾーストパイプから独立した短いパイプで放出し、それら2本をうまく組み合わせることで、爆発音を2倍にするという手法が考えられるという。ウェイストゲートとは、ターボの過給に使われる排気ガスのうち、過度の過給を避けるために余剰となった分を排出するためのものだ。

 ちなみに、メインのエキゾーストパイプに小さなウェイストゲートパイプが隣接しているというレイアウトは、F1も採用している。ただ今のF1のエンジン音はかつてのV10、V8時代と比べるとかなり低く小さくなっているが、佐伯LPLによると、現行のF1エンジンはバンク角90度のV6エンジンであることから“不等間隔爆発”なる現象が起きており、文字通り爆発のサイクルが等間隔でないために周波数の高い音にならないということでもあるようだ。

 佐伯LPLは、SF19で考えられる排気レイアウトの変更案について次のように語った。

「今はウェイストゲートから出た排気を(タービン後の排気が流れる)エキゾーストパイプに合流させて、まとめて1本で出しています。しかし、ウェイストゲートから出た排気を短いパイプでそのまま大気に放出し、そしてエキゾーストパイプを長くしてやると、音が出るタイミングがずれるんです」

「1気筒の爆発に対して、ババンと2回ずつ音が鳴る訳です。これをうまく調整して、4気筒で1回転あたり8回爆発音が聞こえるようにすれば、それはV8と同じ音ということになります。これは理論上可能です」

 “理論上可能”と語る佐伯LPLだが、排気管の長さはパフォーマンスとも直結してくるため、一筋縄ではいかない部分もあるようだ。実際、HSV-010 GTのエキゾーストパイプ1本出しも、パフォーマンス追求との兼ね合いがあり初年度のみとなっている。

 とはいえ、“良い音”を復活させようという動きについては、待ち望んでいたというモータースポーツファンも多くいるのではないだろうか。モータースポーツにおける環境対策が進んでいくのと並行してファンをたぎらせるサウンドが復活するのであれば、これ以上のことはないだろう。