9月2日、F1の契約認定委員会が行なった発表により、一連の騒動に終止符が打たれた。マクラーレンが保持するオスカー・ピアストリとの契約が有効であると認められたため、晴れてピアストリは2023年からマクラーレンでF1デビューを果たすこととなった。

 マクラーレンと同じくピアストリとの契約の有効性を主張していたのはアルピーヌだ。彼らがいくらその契約に自信を持っていたとしても、チームから離れていったピアストリを不誠実だと非難したとしても、今ある現実と向き合わなければならないのは確かだ。彼らはたった4週間のうちに、自らのミスによって2度のF1ワールドチャンピオンと超有望若手を手放すことになった。

 フェルナンド・アロンソが2023年にアストンマーチンへ移籍するというニュースは、アルピーヌにとって寝耳に水だった。それはチーム代表であるオットマー・サフナウアーも同じで、彼はアストンマーチンからプレスリリースが出されて初めてそのことを知ったという。

 アルピーヌはアロンソと交渉していたようだが(アロンソは一部否定)、その交渉が停滞していたにもかかわらず、彼らは焦る様子を見せなかった。結局のところアルピーヌは、自分たちがアロンソを必要としている以上に、アロンソも自分たちを必要としていると思っていたのだ。そして何しろ、その後ろにはリザーブドライバーのピアストリも控えていたのだから。

 しかし、セバスチャン・ベッテルの引退発表によりアストンマーチンがアロンソに関心を寄せるようになると、アルピーヌの目論みが全てが崩れていった。アロンソだけでなく、実際にはピアストリも水面下で他チームに奪われていた。バックアッププランの存在が裏目に出たことに、アルピーヌはまだ気付いていなかった。

 契約認定委員会によると、ピアストリとマクラーレンは7月4日に契約を交わしている。これはイギリスGPの翌日であり、アロンソのアルピーヌ離脱が発表されるほぼ1ヵ月前だ。また、ダニエル・リカルドがInstagramでマクラーレンとの契約を改めて強調した9日前でもあった。

 ピアストリは当初、マクラーレンと2023年のリザーブドライバー契約を結んだとみられている。ただ、リカルドに関する懸念や今後の進捗を考慮し、レギュラードライバーへの昇格を織り込んだ条項などが含まれていた可能性がある。

 ピアストリとの契約問題が表面化して以降、若手ドライバーの、自身をサポートするチームに対する忠誠心とその欠如について多くの議論がなされてきた。しかし、それは双方の立場になって考えなければいけない。確かにアルピーヌはピアストリに様々な経験を与えた。費用のかかるテストを行なったりと、F1デビューに向けて最大限の準備をさせていたのだ。その一方で、アロンソを2023年シーズンまで引き留めることに集中するあまり、ピアストリ陣営が不満を募らせて他の選択肢を模索していることを把握できていなかった。

 そんな中でマクラーレンは、これをチャンスと見て飛びついた。リカルドとの関係はともかく、チームは単に将来に向けて最高のドライバーラインアップを確保したかったのだ。マクラーレンが契約を結んだ7月4日の時点で、アルピーヌはピアストリに2023年のレースシートをオファーすることができなかった。

 アルピーヌはこのことについて自問自答する必要がある。特に公の場で自信を見せたことは失敗だっただろう。契約認定委員会の判断を待つとしたマクラーレンのアプローチは、記事の見出しにもしづらい地味なものだったかもしれないが、「ベラベラと喋って疑いを晴らそうとするよりも、沈黙を続けて馬鹿だと思われる方がましだ」とはよく言ったものだ。

 ただ、アルピーヌのサフナウアーやローラン・ロッシCEOも確信していた、昨年11月に結んだとされるピアストリとの契約はなぜ認められなかったのか? 契約認定委員会が全会一致で認めなかったからには、何か情報が与えられたのか?

 これらの真相を究明するには大規模な調査が必要になる。しかし、ピアストリのこれまでの発言や、アロンソの「契約延長の話には常に“違和感”があった」とするコメントは、アルピーヌが将来に向けて克服すべき点を如実に示していると言えるだろう。

 また、これらの騒動はピアストリのF1デビューにも不当な形で影を落としてしまった。彼はジュニアカテゴリーで誰もが羨むような実績を残し、F1で輝くチャンスを得るのに相応しい人物であった。この騒動が起きるまでは、彼のことを悪く言う人物を見つける方が困難だった。

 しかし、ピアストリがアルピーヌとの契約締結を否定するツイートは定型文として多くのユーザーが模倣するなど話題となり、転じて「忠誠心がない」との批判も見られるようになっていった。

 この騒動は、ピアストリが来年3月のバーレーンGPでF1デビューを果たすまでの間、話題の中心となることは間違いない。また、アルピーヌのリザーブドライバーであるピアストリは、残り数ヵ月間気まずい思いをするだろう。

 そして現在アルピーヌは、来季のエステバン・オコンのパートナーを確定させる必要がある。中でもアルファタウリのピエール・ガスリーは有力な候補とみられており、レッドブルとアルピーヌが諸条件について話し合っているようだ。しかし、オコンとガスリーの関係は良好ではないと言われてきたため、このコンビが完全にフィットするかどうかは疑問だ。

 ルノーのF1ワークス活動が再編され、アルピーヌのブランド名が2021年より復活することが決まった時、彼らはF1の頂点に立つための“100戦計画”を立てた。この計画を実現に向けて進めていくためには、アロンソとピアストリを失った失態を繰り返さないことが必要である。