たかが一勝、されど一勝……元”常勝軍団”メルセデスF1が再認識した勝利の重み|チーム首脳のシーズン末反省会
新たなテクニカルレギュレーションが導入された2022年のF1。コンストラクターズランキング8連覇という実績を引っさげメルセデスはシーズン開幕を迎えたが、投入した『W13』に発生したポーパシングや底づきといった問題の解消に苦労した。しかしスペインGPやアメリカGPなどで行なったアップデートが功を奏し、加入1年目のジョージ・ラッセルがハンガリーGPでポールポジションを獲得し、サンパウロGPではチームに嬉しいシーズン初勝利を届けた。
シーズン後半はフェラーリ勢を上回るパフォーマンスを見せるレースもあったものの、シーズン序盤の苦戦が大きく響き、メルセデスはコンストラクターズランキング3位となった。
「ある意味、悪いことが重なって起きる破滅的な状況だったと思う」
ウルフはメルセデスが公開した動画の中でそう振り返った。
「以前も言ったことがあるが、4ヵ月の間で突然、バカみたいな開発に振ることはない。(2021年の)12月にコンストラクターズタイトルを獲ったのに、3月に走り出してみたらマシンがあまりにも遅いなんてね」
「だから大切なのは、マシンを維持しツールやチーム、価値観を保ち続けることだった。それが望んだ通りでなくても、相対的に良いパフォーマンスを取り戻すためのとてもポジティブな要素になったと思う」
「少なくともオースティンやメキシコは、ある意味ポジティブなサプライズと言えるほどの好成績を出すことができた。そしてブラジルは、明らかに我々が絶対に勝ちたいと願って臨んだ場所だった。そして全てのセッションをリードし、2回のレースで優勝。決勝ではファステストラップ獲得とワンツーフィニッシュを達成した」
「私としては、レースで勝つことよりも、2023年に向けた学習の方が重要なんだ。サーキット特性にマシンが合えば、マシン本来のペースが引き出せるということを証明できたと思う。マシンはシーズン中に大きく変わることはないし、少なくともツールには相関性があったんだ」
そしてエリオットは、3度のF1世界王者であり生前までメルセデスのノンエグゼクティブチェアマンを務めたニキ・ラウダの言葉を引用し、ウルフの意見に賛同。サンパウロGPでの一勝が勝利への渇望を再確認するキッカケになったと語った。
「ニキがよく言っていた通り、『成功よりも失敗から学ぶことの方が多い』ということだと思う」
そうエリオットは言う。
「我々にとって2022年はとても大きな学びの一年になった」
「私にとって興味深かったのは、ブラジルの後の反応だ。まるでチャンピオンになったかのような大きな反応だった。それまでのシーズンを振り返ると、レースに勝っても『ただの1レースさ』と考えていたけど、(HPPのある)ブリックスワースでも(シャシー開発を行なう)ブラックリーでも、組織としての情熱の度合いや『また勝ちたい』という渇望が伝わってきた」
「欲望と野心が、我々を勝利へ導いてくれるんだと思う。2022年に得たモノを全て2023年に繋げることができれば、きっと良い方向に向かうと思う」
ウルフもサンパウロGPでのチームの喜びには、勝利に慣れていた自分たちを見つめ直す良い機会になったと考えている。
「私は各種スポーツで成功したチームのほとんどを研究した。ある時代を支配し、やがて世界的な成功を続けられなくなる……あるいは崩壊していったチームには、そうなった確かな理由がある」とウルフは言う。
「我々の組織には、どこにも自己満足の感情はない。ただ、私にとってはクリスマスの夜が8回連続するようなモノだ。8回目は最初の1回目ほどの興奮を味わうことはできない。だからこそ、レース勝利を喜び、パフォーマンスが良かったとしても、これが初勝利のように振り返りを行おうと言ってきたのを覚えている」
「しかし、人間は状況に慣れてしまうモノなんだ。だからこそ、ブラジルでの復活劇やチームの興奮を目にできて、とても誇らしく感じたんだ」
またトーマスは、2022年に苦楽を共にしたことでシャシー開発を行なうブラックリーのファクトリーとPU開発を行なうブリックスワースのファクトリー間の絆が深まったと考えている。
「2022年、私が両方のファクトリーで目にしたのは、状況が良くない時でも、誰もお互いを非難しないということだ」
トーマスはそう2022年を振り返る。
「誰を非難することもなく、ただひたすらに『どうすればもっとパフォーマンスを上げられるか』『どうすればマシンを前進させられるか』を考えていた」
「両ファクトリーとも、そのプロセスを信じていたことも、今後大いに役立つと思う。マシンを開発するプロセスはあるけど、新たなことを学んだら、そのプロセスを調整して、少し違うようにする必要がある」
「それでも、本質的には正しいやり方のままだ。ブラジルで勝利した時から、プロセスを振り返っても基本的には正しかったと思えるようになった。それはとても強力なことだと思う」
そしてウルフは「シーズンを通して大失敗だった」ように感じるのは正しい感覚だとした上で、2023年以降の復活に向けてチームの土壌を築くことができたと締めくくった。