アストンマーチンはシルバーストン・サーキットの近くに、新しいファクトリーを建設中である。このファクトリーが完成し、稼働すれば、F1の勢力図を変えることに繋がるだろうと、同チームの代表を務めるマイク・クラックは考えているようだ。

 アストンマーチンは現在、前身であるジョーダンが設立された際、1991年から使われているファクトリーを使い続けている。この施設は現代のF1チームとしては手狭であり、多くの従業員が本館の横に作られた一時的な建物で作業を行なっており、風洞に関するスタッフは、ブラックリーにあるメルセデスの施設に詰めている。

 しかし、現在のファクトリーに近接する建設中の新しいファクトリーでは、設計部門全体がひとつのオフィスに集まり、全ての従業員が一棟の建物で作業することになる。この新しいファクトリーは5月に完成する予定。ファクトリーの近くには風洞も建設中であり、こちらは2024年から稼働する予定だ。

「会議をわざわざ手配せずとも、全員と話すことができるということは、チーム内での対話を容易にする」

 新しいファクトリーが、チームに”大変革”をもたらすと考えるかと尋ねられたクラック代表はそう語った。

「我々の現在の体制では、遠隔地でスタッフが働いている。意思疎通のためには、電話するか、何かを整理する必要がある。これは、より多くのやり取りの自然な障壁になってしまうことがある」

「そしてもうひとつはロジスティクスだ。右から左へ、あるいはAからBへと何かを運ぶ必要があるということも忘れてはいけない。その点で非常に異なるし、とても簡単になるはずだ。そういう意味では、チームの組織とロジスティクスという面では、”大変革”という言葉を使うのは正しいだろうね」

 テクニカルディレクターのダン・ファロウズも、デザインオフィスがひとつにまとまることで、社内のコミュニケーションが大きく変わっていくだろうと語った。

「そのことは、コミュニケーションを大きく変えることになると思う」

 そうファロウズは語った。

「ここには小さなファクトリーがあり、モジュール式の建物には、現時点で必ずしも自動車のパーツを設計しているとは限らない人たちがいる。しかし彼らは、我々の設計プロセスに密接に関連している。同じ部屋にいないことで、彼らとのコミュニケーションは少し難しくなる」

「私は以前、大きなオフィスがあるチームにいたことがある。そこでは歩き回って、スタッフたちととても簡単に話したりすることができた。それは相互作用という点で大きな違いを生んだ」

「特に、ひとつのトピックを話しているうちに、他のことにまで話が広がっていくという偶然の相互作用がある。最終的にそれが、最も創造的な会話になることがよくあるんだ。それが、我々が今構築しようとしているモノだ」

 ファロウズは以前レッドブルの空力部門で働いていた人物であり、当時の環境を再現しようとしているということなのだろう。そしてファロウズは、これによりコスト削減にも繋がると語る。

「それは間違いない。全てのモノを作る能力はあるが、購入するか自作するかを迅速に判断することができ、物事の進捗をよりスピードアップすることができる」

「それによってコストを抑えることができれば、多くのモノを作ることができるということだ。以前は時間的及び経済的な理由で、作れなかったモノがあったかもしれないが、今後は以前よりもひとつもしくはふたつ多くアップグレードすることができる。そういう観点から、良い一歩だと思う」

 新たなファクトリーが稼働した後、従来のファクトリーは解体されるが、敷地内には風洞の建設に併せて、ケータリングとジムを収容する新しい建物が建設される予定だ。

「それらは我々にとって、ポジティブなステップだ」

 そうファロウズは語った。

「このチームを作り上げていくことは旅路に似ており、それぞれの仕事がその旅のマイルストーンのようなものだ。そしてそのどれもが、我々が望むレベルでチームを運営していく能力を作り上げるのに貢献する」

「その最後の段階が、従業員の福利厚生や健康面、ジムなどの3つを収める建物だ。これは初期段階と同じくらい重要なことだと思う」

「これらのことは、我々が進んでいく方向を示していると思う。これらのことは、解決策のほとんどを示していると思う」

「それが人々を惹きつける。上層部が従業員のことを考えていることを知っているということだ。彼らが素晴らしいレベルで働くことを望んでいるが、そのためには彼らがサポートされていると感じ、そしてチームの一員であると感じてもらいたいと思うんだ」