MotoGPの2022年シーズンはドゥカティによる15年ぶりのライダーズタイトル獲得という歴史的な結果に終わったが、スズキのMotoGP撤退という決断もまた、間違いなく2022年の一大トピックスだった。

 シーズン開幕戦カタールGP時点で、スズキは2022年にタイトルを奪還できる可能性もあるのではないかという期待を抱かれていた。ライバルでグリッド上でも特に最高速に優れるドゥカティ勢も驚くようなスピードを記録していたことも、その大きな要因だった。

 しかし5月にMotoGP撤退の意向が明らかになると、そこからの彼らは苦しい時期が続いた。アレックス・リンスが6月のカタルニアで負傷し、ジョアン・ミルも8月のオーストリアで負傷してしまうなど、不運が続いたことも結果に影響を及ぼしたことは間違いない。しかし終盤戦に至るまで、彼らが以前のようなパフォーマンスを示せなかったこともまた確かだ。

 最終的にスズキはリンスの手でオーストラリアGP、そして最終戦バレンシアGPで勝利を収め、“有終の美”を飾ることに成功。チームランキング6位、コンストラクターランキング5位、そしてライダーランキングはリンスが7位、ミルが15位という結果となった。

 結果だけ見ればスズキの最終シーズンは厳しい結果になったと言えそうだが、チームとしてはどう考えているのだろうか? 2022年末にメディアの取材に応じたスズキに、その点を尋ねてみた。

「今年の当初の目標に対して達成度は何点ですかと聞かれますが、当初の目標はチャンピオンで、それが獲れていないのでゼロ点ですね」

 スズキのMotoGPプロジェクトリーダーを務めてきた佐原伸一は、そう厳しい自己評価で答えた。

 しかし結果にこそ現れていないものの、GSX-RRのマシンパフォーマンスについては、ある程度評価できると考えているようだった。

「ただ浜松のファクトリーで開発しサーキットでライダーやチームスタッフによってセットアップされたバイクのパフォーマンス、チーム力というのは、自分としては終盤戦だったり最終戦だったり、あのあたりのレースが本来のポテンシャルだったと思っています。そして、ある意味それが達成できたという意味では80点をあげても良いのかなと思います」

「ただ最初に話したように、シーズンを通したランキングという意味ではゼロ点です」

 こうした佐原プロジェクトリーダーの考えには、テクニカルディレクターマネージャーを務めた河内健も、70点と採点した上で同意している。

「70点ですかね……シーズンの最初は悪くなくて、最後は良い感じに戻ったんですけど、それを1年通して続けていくのが難しかった。だからこそチャンピオン(獲得)は難しいということだとも思うんですけどね」

「ただバイクのパフォーマンスとしては、課題はありつつも他社と戦えたと思うんです。そういったところを評価して70点かなと思います」

 スズキが撤退の意向を発表した後、中盤戦で苦戦したことについては、本社の決定の悪影響なのではないかと見る向きもあった。ただ、スズキチーム内では士気に悪影響はなく、むしろ上がっていたという。

「外から見るとそう(士気が下がって)見えたのかもしれないとは思います」と、佐原プロジェクトリーダーは言う。

「自分たちでは『そうじゃないんだけどな』と焦る部分が中盤でありました。むしろ士気としては上がっていたんじゃないかと思います」

「そのような(見返してやる)気持ちももちろんはあっただろうし、最後だしひとつひとつ勝っていくぞという気持ちは強かったと思います。ただそれが結果に上手く繋がらなかった」

「それは必ずしもミスとかそういう話でもなく、アクシデントとか不可抗力もあったり、そういったものも含めてですけどね。アレックス、ジョアンがアクシデントで怪我をしてしまったというのも、中盤戦で波に乗れなかったことの大きな要因だったなと思います」

 佐原プロジェクトリーダーは、最終戦バレンシアGPにおけるリンスの勝利については「よくできた話だ」とその気持ちを口にしている。

 2022年を振り返る佐原と河内ふたりの表情と語り口には、やりきったという雰囲気が漂っていた。彼らが全力で戦い抜いたシーズンを見てきたファンも、同じ気持ちなのかもしれない。