これで”借り物”からはオサラバ。マクラーレン、待望の新型F1風洞施設が完成。6月からの稼働開始を目指す
2019年にチーム代表としてマクラーレンF1に加入したアンドレアス・ザイドルは当時、マクラーレンのインフラ設備がライバルと比べて時代遅れとなっていたため、最新鋭の風洞施設とシミュレータの建設に乗り出すことを決めた。
しかしCOVID-19の流行により、イギリス・ウォーキングにあるマクラーレン・テクノロジー・センター(MTC)にこのふたつ設備を建設するプロジェクトは大幅に遅れ、完成は2023年の夏までずれ込む事となった。
計画を進行したザイドルは、2022年限りでマクラーレンを離脱。今季からは後任として、ステラが代表を務めることになった。そのステラは、新しい風洞施設自体は既に完成しており、今年6月の稼働開始を目指していると説明。現在は新しい風洞が期待通りに作動するかどうかを確認するために、キャリブレーションを実施中だという。チームはその作業が全て終了するまで、新施設を使っての開発を待つ必要がある。
ステラは開幕戦バーレーンGPで次のように語った。
「6月にには、その時点で”新車扱い”となる(2024年型)マシンを風洞に入れることができると期待している」
「風洞は既に完成しているが、キャリブレーションや圧力測定、流速測定、力測定に使用する方法論の導入といったプロセスがある。これには何週間かかかるのだ」
「ハードウェア的には問題なく、ファンも設置されている。私のオフィスにはその音が聞こえてくるので、本当に嬉しいことだ。我々は前進していると思えるから、とても心強い」
「まだマシンの(風洞)モデルを入れて相関テストを行なうことはできていないが、新車モデルではなく、旧車モデルでテストを行なって新しい風洞についてより理解を深めた後、(2024年の)新車を投入したい」
マクラーレンは長年ドイツ・ケルンにあるToyota Gazoo Racing Europe(TGR-E)の風洞施設を借りており、パーツをバンに詰め込んでウォーキングから輸送している。
そのためチームの新しい風洞は、開発作業の質を高めるだけでなく、開発スピードの向上にも貢献するはずだ。
「デザインが決まったら、モデル用のパーツを作成し、その後ケルンまでバンで移動する。これによって2〜3日はロスしている」とステラは説明する。
「F1は物事の動きが早いビジネスだから、このような運営方法はありえない」
「風洞のことは言い訳にしか聞こえないからあまり言いたくないが、風洞でパーツをテストするために時間をかけて作業することで、品質や開発スピードが低下するのは確かなのだ」
なおステラは、新しい風洞が稼働する前でも、現在手元にあるツールや方法論でチームが前進していくことを期待していると明言している。
マクラーレンは、2023年型マシン『MCL60』は空気抵抗の面で開幕時点での開発目標に達成できなかった。
バーレーンGPではランド・ノリスが11番手、ルーキーのオスカー・ピアストリが18番手から決勝レースを迎えたが、ピアストリは機器のトラブルによってリタイア。ノリスは空気圧漏れに見舞われて6回のピットストップを強いられ17位に終わったが、新車には伸びしろが充分にあるということを示した。
そしてアゼルバイジャンGPで予定されている最初の大型アップグレードは、より空力効率の良いマシンを生み出すために異なる開発方針に切り替えたモノで、現在も改良が続けられている。
まだ、サウジアラビアGPとオーストラリアGPでは、より小さなアップデートを行なう予定となっている。
「風洞実験だけでは、このマシンがいる現在のポジションを裏付けるには不十分だ」とステラは言う。
「風洞とは関係なく、もっと良い仕事ができたはずだ。今、これは我々が見直しを行なっているところだ。正直なところ、それは分かりきったことだし、今後の開発のためにグループ全体で良い勉強になったと思う」