3月11日、12日、岡山国際サーキットでスーパーGTの公式テストが実施された。参戦する全チームが開幕戦の舞台である岡山に集結する今回のテストは、今季から導入されるカーボンニュートラルフューエルが全車に供給される初めてのイベントだったという点でも、例年以上に大きな意味を持つテストだったと言える。

 ただタイムシートから読み取れることが限られているのは周知の通り。やはり勢力図の全貌を少しでも明らかにするためには、各車のベストタイムだけでなくロングランデータも必要だ。そしてベストタイムの速い車両とロングランペースの良い車両は、必ずしも一致するわけではない。

 motorsport.comは、ほとんどのチームがレースシミュレーションを実施した2日目午後のセッション4におけるGT500全車のラップタイムを集計。各車の傾向を検証してみた。

■ロングランペース最速は17号車Astemo

 まず、以下がセッション4におけるベスト30ラップの平均タイムだ。

1. #17 Astemo NSX-GT 1:21.163
2. #23 MOTUL AUTECH Z 1:21 222
3. #100 STANLEY NSX-GT 1:21.356
4. #36 au TOM’S GR Supra 1:21.393
5. #16 ARTA MUGEN NSX-GT 1:21.543
6. #39 DENSO KOBELCO SARD GR Supra 1:21.596
7. #1 MARELLI IMPUL Z 1:21.692
8. #24 リアライズコーポレーション ADVAN Z 1:21.709
9. #38 ZENT CERUMO GR Supra 1:21.878
10. #3 Niterra MOTUL Z 1:21:931
11. #37 Deloitte TOM’S GR Supra 1:21:941
12. #14 ENEOS X PRIME GR Supra 1:22.255
13. #64 Modulo NSX-GT 1:22.279
14. #8 ARTA MUGEN NSX-GT 1:22.315
15. #19 WedsSport ADVAN GR Supra 1:23.460

 ベスト30周平均で最も速いのは17号車Astemo NSX-GT。17号車はベスト20周平均(1分20秒982)、ベスト10周平均(1分20秒647)でもトップと、非常に良いペースを刻んでいた。17号車は73周を走行し(ピットストップ周除く)、途中塚越広大が敢行した36周のロングランは全車の中で最長であった。

 塚越は1分20秒259を最速ラップに、その大半を1分22秒切りで周回した。しかも最後の最後まで1分21秒台前半のペースをキープしており、ピーク時からのタイムの落ちを約1秒にとどめた。

 17号車Astemoの塚越に次いで印象的なロングランを見せたのが、23号車MOTUL AUTECH Zの松田次生。松田も最終的に、ベストタイムの1分20秒671から約1秒落ちのタイム下落にとどめ、28周中18周(64%)で1分22秒を切ってみせた。相方のロニー・クインタレッリも22周中13周(59%)で1分21秒台以内に収めているのだから、その安定感が伺い知れる。

 一方、同じ日産勢で昨年の王者である1号車MARELLI IMPUL Zの方が若干ペースのドロップが大きかった。平峰一貴のロングランでは1分20秒763がベストタイムとなったが、終盤には1分22秒台に落ち着き、最終的には1分23秒台まで落ちている。1分22秒を切ったラップ数は31周中14周と50%を下回った。

 ここまで触れていなかったトヨタ勢に話題を向けよう。初日午前は3番手タイムと陣営の中で気を吐いた36号車au TOM'S GR Supra。彼らは同日午後の専有走行でのアタックでは奮わなかったが、翌日午後のロングランでは力強いペースを見せた。

 36号車au TOM'Sは坪井翔が10周超の走行を4回実施。最長は20周だったが、目を引いたのは14周のやや短めのロングラン。最も遅いタイムは序盤に記録されており、その後1分20秒台を5周記録し、終盤も1分21秒台にキープしていた。実際、ベスト10周の平均タイムで見ると坪井は1分21秒109を記録しており、これは17号車Astemoの塚越に次いで全体2番手だ。

■速さでインパクト見せたARTA、ロングランはいかに?

 テスト全体の最速タイムを記録するなど、タイムシート上でインパクトを残したARTAの名前はここまで挙がっていない。その前に、各車のベスト10周の平均タイムを見てみよう。

1. #17 Astemo NSX-GT 1:20.817
2. #36 au TOM’S GR Supra 1:21.109
3. #23 MOTUL AUTECH Z 1:21.125
4. #100 STANLEY NSX-GT 1:21.406
5. #1 MARELLI IMPUL Z 1:21.416
6. #39 DENSO KOBELCO SARD GR Supra 1:21.539
7. #16 ARTA MUGEN NSX-GT 1:21.543
8. #37 Deloitte TOM’S GR Supra 1:21.964
9. #38 ZENT CERUMO GR Supra 1:22.003
10. #3 Niterra MOTUL Z 1:22.110
11. #24 リアライズコーポレーション ADVAN Z 1’22.141
12. #64 Modulo NSX-GT 1:22.312
13. #8 ARTA MUGEN NSX-GT 1:22.608
14. #14 ENEOS X PRIME GR Supra 1:22.835
15. #19 WedsSport ADVAN GR Supra 1:23.679

 こちらもベスト30周平均タイムの順位と似通っているが、若干異なる点がある。16号車ARTA MUGEN NSX-GTと24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zの順位が30周平均と比べて落ちているのは、集計の段階でセッション4序盤の走行を除外したことが影響している。この時間帯はスタート練習の直後で、トラックがほとんどクリアな状態。より正確なデータとするために当該箇所は含めていない。

 それはさておき16号車ARTAのロングランを見ていくと、大津弘樹が安定した走行をしていたが、特別速かったわけでもなかった。19周走行した際は1分21秒322がベストタイムで、1分22秒未満のタイムを10周刻んだ。

 一方で僚友の8号車はどうだろうか? 彼らはGT500クラスのマシンの中で本格的なロングランを実施していない唯一の車両だ。野尻智紀と大湯都史樹のコンビはセッション4で実に8回もピットイン。これは他のホンダ×ブリヂストンユーザーと比べても倍の数字だ。

 8号車ARTAは大湯が14周のロングランで、17号車Astemoに対して10周平均で約2秒の後れをとっている。ただ開幕戦で8号車がこれほど遅くなるとは考えづらいのも確かだ。

 また全体的に見ればブリヂストンユーザー、ミシュランユーザーの車両が上位に来ており、ヨコハマ勢、ダンロップ勢は過去2シーズン同様に苦戦するかもしれない。ヨコハマ勢は19号車WedsSport ADVAN GR Supraも24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zも一発のタイムでは上位に来ているため予選は楽しみなところだが、ロングランに関しては特に19号車のペースは他と比べて悪い印象だ。

■ロングラン×ショートランの速さを両立したチームが勝てる?

 ではここまでのデータを総括して、開幕戦は17号車Astemoが優勝候補筆頭なのかと言われると、そうとも言い切れない。なぜなら、17号車はショートランという点ではピリッとしておらず、1周のベストタイムは4台のホンダBS勢の中では最も遅いのだ。これは日産陣営の23号車MOTULにも言えることだ。

 岡山はコース幅が狭くオーバーテイクが難しいサーキットとしても知られている。そのためセーフティカーや雨など余程の波乱がない限り、予選でトップ5に入れなかったマシンの優勝は考えづらい。レースの大半で遅いクルマを抜きあぐねるような時間が続いてしまっては、いくらロングランペースに優れていても優勝は難しいだろう。

 したがって予選ペースとレースペースの両方で優れているマシンを見ていくと、ロングランでトップ3に入りながら1周のベストラップでも全体2番手につける100号車STANLEYが良さそうに見える。また、トヨタ陣営が開幕に向けてさらに一段ギヤを上げてくれば、36号車au TOM’Sも楽しみな存在になってくるだろう。

 とは言っても、レースシミュレーションが行なわれたセッション4でも25周以上連続して走行した車両は一握り。実際のレースでは1スティントで50周前後を走ることが想定されるため、そうなった時に各車のタイヤがどれほど持つのかはこれらのデータだけでは推し量れない。そういった点では、サプライズが起きる可能性も否定できない。