F1アゼルバイジャンGPはスプリントと決勝共に例年よりもオーバーテイクが少なく、メルセデスのトト・ウルフ代表は退屈だったと評した。

 その原因だと考えられているのが、メインストレートにあるDRSゾーンが今季は100メートル短くなっていることだ。FIAはDRSゾーンの発動ポイントを調整する権利を持っており、通常その開催地での前回のイベントと今シーズンの過去のレースで収集したデータに基づき、変更を行なっている。

 しかしドライバーたちは、金曜日のブリーフィングでレースディレクターのニールス・ウィティヒと話し合い、DRSゾーン短縮に懸念を示したが、スプリントレースでオーバーテイクが少ない傾向が明らかになっても、結局変更は行なわれなかった。

 メルセデスのルイス・ハミルトンは、決勝でカルロス・サインツJr.(フェラーリ)を追い回したが決め手に欠け、チームに無線でもっとパワーを上げられないのかと聞く場面もあった。

 彼も、DRSゾーンの長さが十分でないと感じていた多くのドライバーのひとりである。

「何も問題はなかったけど、もっとパワーが欲しかったんだ」とハミルトンは語った。

「ドライバーというのは、常により大きなパワーを求めるものだ」

「そして、今年はストレートでのDRSが短くなったが、その理由はよく分からない。DRSを使って、いつも素晴らしいレースができていたのに」

「DRSをオンにしたときには、もう手遅れだった。今回はオーバーテイクが多かったのか? まあそう(少ない)だろうね」

 ウイリアムズのアレクサンダー・アルボンも、DRSゾーンは2022年大会と同じ長さであるべきだったと考えているドライバーだ。

「見てわかるように、オーバーテイクはそんなに多くなかった。DRSが短すぎたんだ」

「昨年は、オーバーテイクという点でここは悪くないことが示された。でも100メートルも(DRSゾーンが)削られてしまった。もう100メートルも削られる可能性もあった」

「金曜日のドライバーズブリーフィングで、ドライバーたちはこのことを話していた。クルマに負荷(ダウンフォース)が増えるにつれて、追従が難しくなっているんだ」

「そしてスリップストリームも、以前のクルマほど良くはない。だからDRSトレインが生まれるんだ」

 マクラーレンのランド・ノリスも、DRSゾーンが短くなったことに不満を持っている。彼は決勝レースで、ハードタイヤでピットストップのタイミングを遅らせたエステバン・オコン(アルピーヌ)やニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)を抜けず、遅いペースに付き合わざるを得なかった。

「特に僕らの直線スピードでは、オーバーテイクするのは不可能だ」

「DRSゾーンが昨年より短くなったことも影響した。前のクルマについていけるように、できる限りのことはしたつもりだ。ただ、タイヤを使いすぎてしまったんだ」

 DRSゾーンを短くすることに意味があるのかと問われた彼は、「いや、ない。ドライバーズブリーフィングでは、すべてのドライバーが疑問を呈していたよ」と答えている。

 マクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、DRSゾーンをもっと長くすることはできたとしながらも、アルボンが語ったスリップストリームの効果減少を認めている。

「(DRSゾーンの変更で)ブレーキング時の緊張が少し緩和されたのは確かだ」

「あと5〜10メートルほど近づけば、アタックすることができる。しかし今回のように、レースを通してそれは不可能だった」

「FIAやF1が注意深く見なければならないのは、今年はDRSのせいだけでなく、スリップストリーム効果が少し低下したせいで、オーバーテイクが難しくなっているように見えるという点だ」

「前のマシンを追っている時の吸引効果が、通常より少し少なくなっているようだが、これは様々な要因によるものだろう」

 アルピーヌのスポーティングディレクターであるアラン・パルメインは、自チームのドライバーが、オーバーテイクしにくいと感じていたことに同意しながらも、DRSゾーンを短縮するというFIAの決定を擁護した。

「そのようなことを話すときは、誰に聞くのか、とても慎重にならなければならない」

「なぜなら、もしあなたが上位にいるのなら、DRSゾーンは必要ない。もし、あなたが予選よりもレースで速いクルマを持っているなら、DRSゾーンを長くしたいはずだ」

「だから、そういうことはFIAがデータに基づいて判断するのが一番だと思う。FIAにはパフォーマンス部門があり、いろいろなことを調べる。彼らは昨年を振り返って、オーバーテイクが少し簡単だと感じたのだと思う。だから、それを短縮したんだ」