レッドブルは2023年シーズン、開幕5戦を終えた段階で全勝。しかもそのうち4戦が1-2フィニッシュという圧倒的な強さを見せている。その要因のひとつが効果的なDRSにあるのではないかと言われているが、ライバルチームのいくつかは、1周を通じて安定したダウンフォースを発揮できる方法を手にしているからだと考えている。

 今シーズンのレッドブルのマシンRB19は、優れた最高速を誇っており、これはひとつのアドバンテージになっている。特にDRSを作動させた時には実に効率的に速度が上がっており、なぜそれほどまでにDRSの効果が高いのか、様々な推測が飛び交っている。

 しかしライバルチームは、レッドブルのDRSだけに注目しているわけではなさそうだ。効果の高いDRSは、パフォーマンスを引き上げるきっかけではなく、マシンの全体的なデザインが優れていることの結果であるという認識が広まりつつある。

 アルピーヌのテクニカルディレクターであるマット・ハーマンは、レッドブルのDRSの効果が優れていることについて尋ねられた際、次のように語った。

「色々言われているけど、実際にデータを調べてみると、それについてはあまり確信を持てないと思う」

「基本的に彼らは、ストレートでとても速いと思う。でも我々が見ていることから言えば、それは細かいところまで理解すべきモノではないと思う」

 ライバルたちがRB19について注目しているのは、1周において空力パフォーマンスを維持できる理由であるという。これによりレッドブルは、サーキットのどんな場所でも安定したダウンフォースを発揮できており、それがアドバンテージに繋がっているという。

 ローリングやピッチングをレッドブルがどう制御しているか……それを理解することができれば、ライバルはその考え方に追従するだろう。

「我々にはいくつかのアイデアがある」

 ハーマンはRB19の優れている点についてそう語った。

「我々がやっていることで、彼らが理解していないこともある。それと同じように、我々が理解していないことがいくつもあると思う。しかし、自分たちのマシンを自分たちのやり方で走らせる彼らの能力は、非常に印象的だ」

「そのことは、我々全員にとって確かに刺激的なモノだ。だからこそ我々は、そこに向かって進んでいる」

 ハースの主任エアロダイナミシストであるファン・モリーナは、RB19のパフォーマンスについて、アクティブサスペンション全盛期のような利点を享受している可能性があると語った。

「アクティブサスペンションについて考えてみると……まあ今は誰もそれを使うことができないわけだが、そのアクティブサスを持っていれば、おそらくチャンピオンシップに勝つことができるだろう。アクティブサスがあれば、特定のポジションで走るマシンを開発することができるからね」

 そうモリーナは言う。

「つまり自分たちのマシンがどんな風に動いているか、そしてマシンを走らせたい姿勢、その姿勢をとるための方法を理解していれば、パフォーマンスを手にすることができる」

「おそらく多くのチームは、車高をできるだけ低くし、バウンシングを治し、そしてドライバーにとっては非常に重要な高速から低速までのパフォーマンスを完璧にする方向に進むことになるだろう」

 メルセデスは、エミリア・ロマーニャGPにアップデートを投入する予定だ。新しいサイドポンツーンとフロアは、視覚的には大きな違いをもたらすかもしれない。しかし最も重要なのは、新しいフロントサスペンションと、それがもたらす”アンチダイブ”(車体前方が沈み込むのを防ぐ)特性であろう。

 チーム代表のトト・ウルフは、新しいサスペンションについて次のように語る。

「私は奇跡など信じない。しかし、現時点でのマシンの安定性と予測可能性は、平均以下だと思う」

 そうウルフ代表は言う。

「フロントサスペンションの再設計によってそれが解決できるのなら、間違いなく良い方法だ。そして、それによってドライバビリティとペースを大幅に向上させることができれば、空力パッケージがもたらすモノよりも、ラップタイムの面で答えとなる可能性がある」

 DRSだけがレッドブルのアドバンテージであるならば、ハースもそれに匹敵するパフォーマンスを見せているはずだ。現時点でハースのDRSも効果は高いが、全体的なパフォーマンスという面では、大きく遅れを取っている。

 ハースのモリーナが説明するように、マシンのパフォーマンスを理解する上で重要なのは、複数の要素が積み重なった結果だということだ。もちろん、ボディワークやリヤウイングなど、目に付きやすい部分が注目されがちだ。しかし実際には、マシンのパッケージ全体がパフォーマンスを左右する。

「ボディワークだけの問題ではない。それがフロアやリヤウイングとどう関連して機能するか、そしてマシンの様々なパーツがどう機能するかが重要なのだ」

 そうモリーナは説明する。

「レギュレーションが進化していくに連れて、高速と低速のパフォーマンスのバランスをどうするかなど、その基準が収束していくことになる。そうなった時の問題は、パフォーマンスをどこから引き出してくるかということだ」

「そこが、基準となるんだ。空力と、マシンが路面に対してどの位置にあるのか……それが重要なんだ」

「レッドブルを見れば、彼らはマシンがどの位置にあるのか、そしてマシンをどの位置に置きたいのかということを、常に正確に理解していることが分かる。そしてこのレギュレーションのまま進んで行けば、それがさらに重要になってくるはずだ」

 つまりレッドブルは、空力面はもちろんのこと、その機械構造が非常に優れているということだ。それを実現するのは実に難しいと、モリーナは言う。

「たしかに、難しいね。昨年、我々のチームはまだ発展途上で、話すべきことを学んでいた。今年はずっと良くなった」

「空力だけの問題ではない。しかし風洞で何を開発し、それがコース上でどう変換され、マシンをどのようにセットアップするか……それらの部門を連携させなければならない」

「それは確かに簡単なことではない。もし簡単なら、誰もがレッドブルと同じようなパフォーマンスを発揮するだろう」

 実際にRB19を操るフェルスタッペンも、DRSに関しては何もアドバンテージはないと考えている。

「正直に言うよ。特に驚くべきことじゃないんだ」

 フェルスタッペンは最近そう語った。

「僕らにとっては、昨年と同じようなモノだと思う」

「僕らのマシンは、確かにストレートではかなり効率的だ。誰かが僕が魔法のようなことや、トリックなんかをしていると話しているのを聞いたことがある。でも、そんなことはしていない」

 現在ライバルチームが気にしているのは、レッドブルが何をしているかではない。レースに向けてどのように取り組んでいるか、それを解明するためのレースが始まっている。