2023年のスーパーフォーミュラは、4月の開幕富士大会(2レース制)、鈴鹿大会、そして5月の九州大会(@オートポリス)と、3大会4レースを消化した。ここまでのシーズンを振り返って、以前からスーパーフォーミュラを見ている方はあることに気付いたはず。例年と違って、上位の顔ぶれが完全に固定されているということだ。

 第3戦鈴鹿と第4戦オートポリスのトップ5の顔ぶれは、リアム・ローソン(TEAM MUGEN)、宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)、坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)、山下健太(KONDO RACING)、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と全く同じ。第3戦は接触リタイア、第4戦は欠場となった野尻智紀(TEAM MUGEN)は富士での開幕2レースで2位、1位を記録しているが、それ以外のドライバーでトップ5に入ったのは開幕戦4位の山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)のみ。

 つまり、ここまでわずか7人のドライバーしかトップ5フィニッシュを達成できていないのだ。

 この少なさは、過去数年間のデータと照らし合わせても明白だ。『SF14』最終年の2018年から、『SF19』が導入されていた2019年〜2022年にかけての、開幕3大会までに一度でもトップ5に入ったドライバーの人数は次の通りだ。

2023年:7人
2022年:10人
2021年:11人
2020年:12人
2019年:11人
2018年:11人

 ちなみにこのデータは“開幕3大会”を対象としているが、2021年以前は3大会で3レースの開催であり、現在より1レース少ない。その上でこれほど多くのドライバーがトップ5フィニッシュをしていることからも、いかにスーパーフォーミュラが群雄割拠のシリーズだったかが分かる。

 今季のスーパーフォーミュラは新車両『SF23』が導入されたが、“スイートスポット”を見つけるのが難しいという声が聞かれる。フロアでのダウンフォースにより依存する車両となったため、車高をできるだけ下げてダウンフォースを稼ぎたい。しかし下げすぎると空気の通り道がなくなり“ストール”するし、足回りなどを固めて車高を低いまま維持させようとすると、タイヤへの攻撃性が高まってしまう。そんな難しい状況の中で、一定の解決策を見出しているドライバーやチームが安定して上位に入っているのではないか……そう見る向きもある。

 今回は、未だ7人しか記録していないトップ5フィニッシュに近い位置にいるドライバーのコメントを振り返っていく。

■佐藤蓮(TCS NAKAJIMA RACING):レースペースの良さは間違いなし。課題はやはり予選?

 ドライブシャフトの破損でスタートできなかった第3戦を除けば、全てのレースでポイントを獲得している佐藤。ここまでの最高位は6位だが、そのレースペースの良さはチームメイトの山本も含めて随所で見られている。今回のオートポリスでも、早めにピットインしてレースペースの良さを活かす戦略が功を奏し、予選から4つポジションを上げて7位でフィニッシュした。

 ただ佐藤は鈴鹿で次のように語っていた。

「僕たちのマシンはタイヤには優しいと思います。ただ、予選と決勝で(セットアップの)差別化ができていないので、そこに苦しんでいる状況です」

 彼が言うように、ネックとなっているのは予選順位。平均グリッドは9.25番手で、基本的には追い上げのレースを強いられている。佐藤は元々、速さには定評のあるドライバー。チームと共に予選でタイヤのグリップをフルに引き出すマシン作りに成功すれば、一気に表彰台争いにも絡んできそうな予感だ。

■牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING):「結果以上にポジティブ」な状況。復調の兆しか?

 開幕富士大会を終えて「SF23になって、僕らの良い部分がかなりなくなっている感じがします」とコメントしていた牧野。しかし、オートポリスではミニマム周回でピットインした後ペース良く走り6位でフィニッシュした。

「正直あそこまでトラフィックがいるとは思っていなくて、それに引っかかったのが大きかったです。想定外でしたね」と振り返る牧野。ただ、そのレースペースには満足しているようだった。

「レースペースは結構ポジティブでしたね。結果以上に内容がよかったので、次のレースに向けてもポジティブです」

 昨年は10戦中9戦で入賞、その内5回がトップ5と高い安定感を誇りランキング5位となった牧野。次戦SUGOで完全復活を印象付けられるか。

■阪口晴南(P.MU/CERUMO・INGING):予選の改善は「決勝に必ず活きる」。坪井に追いつけるか?

 3番グリッドからスタートしたオートポリス戦では1コーナーで2番手に上がり僚友・坪井翔とのワンツーを形成した阪口だったが、優勝を争うほどのペースは出せず、大湯都史樹(TGM Grand Prix)との順位争いの中で接触し、リタイアに終わった。

 今季6人しか達成していない予選トップ3を経験した阪口だが、レースペースの向上に関しては「もう少し待ってください(笑)」と笑う。ただ、苦戦していた昨年と違って上位からレースを始められることは、必ず今後に活きると語った。

「馬鹿な言い方かもしれませんが……(予選が)速くなると(決勝で)速い人と競ることになります。今までは予選で苦労して追い上げる形でしたが、今は予選が速い分、防戦になってしまっています。

「ただ、速い人と競ることは次に向けたステップに繋がると思います。決勝に必ず活きると思うので、もう少し待ってください(笑)」

■福住仁嶺(ThreeBond Racing):昨年から大きく成績向上も「“良かった原因”を明確にしないと」

 ThreeBond DragoCORSEとして2020年からスーパーフォーミュラに参戦したThreeBond Racingは、最初の2年間はタチアナ・カルデロンの1台体制で入賞を記録できず。2022年には彼女の後釜として、前年選手権2位の実力者である福住を迎え入れたが、SUGOでチーム初入賞(8位)を記録するのがやっとだった。

 しかし今季の福住は、第2戦で7位、第3戦で10位、そして第4戦で8位に入り、なんと3戦連続の入賞を記録しており、シリーズランキングは現在10番手につけている。しかも福住は第4戦の予選では5番グリッドを記録するなど、トップ5フィニッシュも見えるようなリザルトを残している。

 しかし、当の福住からは現状を喜ぶようなコメントは聞かれなかった。彼は元来慎重なコメントをしがちなドライバーではあるが、危機感を語っているのには理由がある。

「良かった原因をもっと明確に分かるようにならないといけないと思います」

 福住が5番グリッドを確保した予選後にそう話していたのは、同日午前のフリー走行で大苦戦していたため。午後になって気温・路面温度も大きく上がり、各車が軒並みフリー走行からタイムを落とした予選でタイムアップした理由が掴めていなかったのだ。

 迎えた決勝でも序盤からレースペースに苦しみ、渋滞を作りながらもなんとか8位でフィニッシュした福住。チームの頑張りで風向きは良くなってはいるものの、やはり“スイートスポット”を探るのに苦労していると語った。

「僕もポイントを少しでも獲りたい気持ちもあったし、チームの頑張りで得た予選5番手だったので、最後まで諦めず走っていました」

「僕たちは1台体制かつ、過去のデータがほとんどない状態から来ているので、どこがスイートスポットで、どこがストール域なのかというのが正確には分かっていません。車高の良い悪い、高すぎる低すぎるという話が、今は(路面と)当たっているか当たっていないかでしかできていないので、そこは難しいです」

「ただ、今回も課題はありましたが、色んなヒントを得ることができたのかなと感じています」

■大湯都史樹(TGM Grand Prix):速さが結果に繋がらない日々。完走さえできれば、ロングランも改善傾向で上位入賞は可能?

 今シーズン、最も目立っているドライバーのひとり、それが大湯都史樹だ。本項で紹介したドライバーの中で最も予選パフォーマンスが高く、トップ5圏内でレースをした時間は誰よりも長いはずだが、入賞は7位が1回のみでランキング11位となっている。

 2戦続けての接触リタイアが大きな話題となっていることで忘れ去られがちであるが、開幕大会で大いに苦しんでいたレースペースは徐々に改善傾向にある。先述の、タイヤへの攻撃性が高くなりがちな“硬いマシン”を好むとも言われる大湯だが、そこはチームと共に良い折衷案を見つけたのかもしれない。

 タイヤを4輪ともうまく使えるように。そのコンセプトでセットアップした日曜朝のフリー走行は「ようやく普通に走れる」「TGMでやってきた中で一番良い」ロングランのフィーリングがあったという。決勝ではそれがやや崩れた部分もあったというが、徐々に良くなっていることは間違いないようだ。

「SUGOはクルマにもよりますが、セットアップでオートポリスと似た方向性が求められたりもします。今回見つけたものを活かせる手応えは掴めたので、決勝・予選共にレベルアップして臨めるのではと思います」

 既に何度かトップ5フィニッシュしていてもおかしくないポテンシャルを見せている大湯。完走率さえ上がれば、自ずとランキングは上がってくるはずだ。