“Team HRC”がついに4輪でも始動した。彼らはスーパー耐久シリーズ第2戦富士24時間レースに、カーボンニュートラル燃料を使用したシビック タイプRで参戦。その意義は、単なる環境対策だけにとどまらないようだ。

 かつてはホンダの2輪レース活動においてその名を聞くことが多かったHRC(ホンダ・レーシング)。しかし2022年よりホンダはモータースポーツ体制を刷新し、2輪・4輪を含むモータースポーツ活動をHRCに統合させた。

 そしてこの度、名実共にホンダのワークスチームであるTeam HRCがスーパー耐久で始動したのだ。決勝前日に行なわれた記者会見では、武藤英紀、伊沢拓也、大津弘樹、小出峻という4人のドライバーが、ワークスの象徴であるトリコロールがあしらわれたまっさらなレーシングスーツに身を包んで登場した。

 国内外様々なトップカテゴリーに参戦しているホンダだが、4輪レースにおいてこのようなフルワークス体制を組む事例は、過去にもほとんどなかった。「HRCのバッジを背負って走れると聞いた時は、嬉しさと緊張感があった(武藤)」「このスーツを着た時はワクワク以上に責任感を感じた(大津)」「トップカテゴリーを目指す過程においても重要な経験になる(小出)」と各々新鮮な感覚があったようだが、伊沢は上記3名とは少し違った感情を覚えていたという。

「僕が参戦しているスーパーGTでも、ホンダを背負う形からHRCを背負う形になりましたが、正直自分自身戸惑っている部分もあります」

「(HRCとは)どういうものなのかなと、探り探りな部分があります。HRCとしての活動の最初のレースに携わることができるのは非常に嬉しいですが、このブランドがどういうもので、どうやってお客さんに伝えていくのかというのは、僕たちが作り上げていかないといけないと思います」

「HRCは2輪としては歴史がありますが、4輪の歴史は浅いので、ブランディングに対しての考え方は自分たちが作りあげて、良い方向に持っていければ良いなと」

 実際、HRCがスーパー耐久に参戦したのも、カーボンニュートラル燃料を使うことによる環境対策だけが理由ではない。伊沢が言ったように、HRCというブランドをどのようにして作り上げていくか、どのようにファンに楽しんでもらうか。そういったところも今回の活動を通じて模索していきたい狙いがあるという。

 会見に出席したHRC企画管理部の長井昌也部長は、今回のスーパー耐久参戦に際しての狙いとして、「カーボンニュートラルへの対応」と「お客様がレースにどういうものを求めているかを知ること」のふたつを挙げた。後者はHRCとしてのブランディングやマーチャンダイズ(商業化)に繋がっていく部分でもあるが、特にマーチャンダイズはホンダとして苦手としていた部分だと長井部長は語る。

「まさにマーチャンダイズは、我々の苦手とする領域です。サーキット内のショップを見るとホンダ関連商品の数が少なく、自分たちのブースでも売るものがない。速く走るところは一生懸命やりましたが、それを皆さんと一緒に応援したり楽しんだり、という部分が弱いんだろうなというのは痛感しています」

「スーパー耐久の現場で予選を見て、いかにホンダの車が少ないか、というところも痛感しています。そこはHRCとして取り組まないといけないところだと思っています」

「このようなカスタマーレースに出て、皆さんと一緒に“共有”をしていく。そういう部分も、勝ちを目指すことと並行して取り組んでいきたいという気持ちが強いです」

「“HRC”というと必勝のワークスチームのようなイメージが先行しますが、今回のTeam HRCはお客様と一緒にレースを走って、皆さんと何が一緒にできるのかを勉強する……というと稚拙かもしれませんが、そういった目的を持っています。ブランディングや関連するマーチャンダイズもそこから広げていき、ホンダのレース活動を一緒に応援していただける方を増やしていきたいです」

 赤、青、白のトリコロールがイメージカラーのHRCだが、ある意味でまだ何色にも染まっていない状態。HRCを通じて、“ホンダモータースポーツ”の形が少しずつ変わっていくのかもしれない。