女性F1ドライバーは10年以内に誕生する。女性限定カテゴリー『F1アカデミー』率いるスージー・ウルフの見据えるビジョン
女性F1ドライバーの誕生についてそう語るのは、かつてウイリアムズの開発ドライバーとしてF1に参画し、今季から創設された女性限定のフォーミュラカテゴリー『F1アカデミー』のマネージングディレクターを務めるスージー・ウルフだ。
F1アカデミーは、F1のステファノ・ドメニカリCEOが構想し、F1の親会社であるリバティ・メディアから多額の資金提供を受けて発足したカテゴリー。motorsport.com等を展開するMotorsport Networkが主催したフォーラムにて、ウルフはF1アカデミーに対するビジョンを語った。
「ひとりが(F1に)行けば、そこにどんどんと続いていく。そんな強力な道筋を、F1アカデミーは作ろうとしているのだと思います。そういう計画なのです」
「モータースポーツは男性のものだという認識が社会にはあります。ロールモデルとなるようなものは多くありません。私たちはそれを変える必要があります」
「この状況を変えるために、私たちはできる限りの事をすると自信を持って言えます。どうかこれを、『女性による女性のための取り組み』という風に見ないでいただきたいです」
「このF1アカデミーはF1というスポーツのために存在します。我々は動き出す必要があるのです。現時点で意思決定に関わるものは全員、あるいは95%が男性ですが、彼らもこの旅路に加わる必要があります。永続的な変化をもたらすことができるのは彼らですから」
単なるサポートシリーズの枠を超えて、長期的なビジョンで取り組もうとしているウルフ。彼女はさらにこう続ける。
「F1アカデミーは単なるサポートシリーズの域を超えないといけません。15人の若い女性ドライバーにプラットフォームを提供するだけでは、すぐにドライバーは枯渇してしまいますし、単純に数が十分ではありません」
「ただ私たちも次なる女性F1ドライバーを探すことだけに注力しているわけではなく、もっと広い視野を持ちたいと思っています。女性ドライバーを増やすために特別枠を設けたいのではなく、最も才能ある者がトップに立てるよう、機会を作り出してタレントの数を増やしたいのです」
F1アカデミーは、カートを卒業してシングルシーターへと移行する重要な時期を迎えた女性ドライバーのための育成シリーズという立ち位置であり、最年少は15歳。F2やF3に参戦する5チームがそれぞれ3人のドライバーを起用するが、F1からの資金援助もあるため、ドライバーたちに必要な持ち込みスポンサーシップは15万ユーロ(約2243万円)ほど。これはヨーロッパのカート選手権と同等レベルだ。
今季は全7大会21レースが開催され、テストも15日間行なわれる。F3やF2にステップアップするとテスト日数も厳しく制限されるため、彼女たちにとっても貴重な機会だ。F1との併催はCOTAでの最終ラウンドのみだが、F1の主要放送パートナーがF2やF3と同様にライブ中継する。
またF1アカデミーが開催されるサーキットでは教育プログラムの一環として、サーキットを訪れた少女たちがレーシングドライバー以外にもレースに関わる様々な職業に触れられるようになっている。
「もし『明確な目標は?』と聞かれたら、10年後にはF1パドックがもっと多様性に富んだもの……少なくとも20%(が女性)になっていることだと答えます。そしてパドックにいる女性に『私がここにいるのはF1アカデミーのおかげ』と言ってもらえるようにしたいです。(F1アカデミーが)『チャンスをくれたから』『刺激をくれたから』『このスポーツに入る道筋をくれたから』……そういった障壁の低さが重要です。今は女性のF1ファンも増えていますが、業界に入り込みやすいかと言われるとそうではない印象です」
現在欧米では、女子ラグビーや女子サッカーなどが数万人規模の観客を集めるようになっている。ウルフが率いるF1アカデミーもそういった世界的な流れにも後押しされることだろう。