Toyota Gazoo Racing WEC(世界耐久選手権)チームの代表兼7号車のドライバーである小林可夢偉は、ル・マン24時間レースを前にハイパーカークラスにおいて実施された性能調整について「レギュレーションにないことだ」と憤慨している。

 今季のWECハイパーカークラスでは、開幕に先駆けて初戦セブリングから第4戦ル・マンまでのバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)が発表。マシンそれぞれに課された車両最低重量と最高出力などはその間、基本的に変更されないこととなっていた。

 ル・マンの前に変更される可能性があったのは、クラス内のル・マン・ハイパーカー(LMH)とLMDhの勢力均衡を図る”プラットフォームBoP”のみ。しかもその変更が行なわれるタイミングは、第3戦スパの前とされていた。

 しかし、ル・マン24時間のテストデーを前に新たな性能調整が発表され、ハイパーカークラス参戦のLMHとLMDhの車両最低重量が変更された。

 開幕3連勝のトヨタ『GR010ハイブリッド』には、37kg増と最も厳しい調整が加えられた。またライバルのフェラーリ『499P』は24kg、LMDh勢では頭ひとつ抜け出していたキャデラック『Vシリーズ.R』は11kg、それぞれ最低重量が引き上げられることになった。

 一方で、ポルシェのLMDh『963』は3kg増。プジョーのLMH『9X8』をはじめ、ハイブリッド非搭載のLMH勢、グリッケンハウス『007』やヴァンウォール『バンダーベル680』には調整が行なわれなかった。

 レギュレーションを司るFIAとACO(フランス西部自動車クラブ)の意図するところは、100周年を迎えた”重要な”ル・マンを、コース上の熾烈な接近戦で彩りたいということだろう。

 小林はショーとしての勢力均衡という側面を認めつつ、突然の性能調整について驚きと失望を持って受け止めている。

「実際、なぜ変えたのか(主催者側に)訊いてみると『これはBoPではなくて、調整だ』と言うんです」

「この”調整”というのがよく分かりません。明らかに、こういった変更に関するレギュレーションはないと思いますし、僕らは非常に驚き、残念に思っています」

「レースまで、時間は少し残っています。レースには挑戦しますが、明らかにレギュレーションにないことです。彼らはレギュレーションを変更して、互いに接近させたいんだろうなと思います。それは理解できます」

「でも、これだけ重いウェイトをいきなり積ませておきながら、どうやって正確さを保つことができるんですかね?」

「特に、今回は以前は禁止されていたタイヤウォーマーに関して変更がありました。僕らにはデータがないんですよ」

「変更は全て接近戦のためのモノですが、どうなるかはよく分かりません。(マシンの性能差は)近づくでしょうけど、普通ではないとは感じています」

 そして小林は次のように続ける。

「もちろん、とても残念です。これはBoPではないので、BoPに関しては何もコメントできません。ただ、これはレギュレーションにない調整なんです」

「僕らは驚きましたし、かなり失望しています。チームのみんながビッグレースに向けて努力して、勝てると自信を持っていました」

「でも直前になって突然、かなりのウェイトを積むことになりました。正直に言って、かなり厳しい状況になりましたよ」

 本戦を前に、再びBoPが変更される可能性はゼロではない。ただ、低い温度域から作動するタイヤに車重が与える影響は大きいと小林は考えている。

 motorsport.comが今回増やされた37kgをセットアップ面でどう対応していくか、と小林に尋ねると彼は次のように答えた。

「このマシンにこれだけのウェイトを積むのは初めてのことです」

「無論、2023年タイヤへのダメージはかなり大きくなります。タイヤウォーマーが要らない仕様のタイヤ(※ル・マンでは特例としてタイヤウォーマーを使うことができる)なので、作動温度領域は低くなっています。そのため、ウェイトが増えた途端、車重が与える影響は想像以上に大きくなります」

「結果として、これらの変更のために僕らはかなりのことを犠牲にしています。残念ながら、僕らが十分に速くないというのは明確です」

 なおハイパーポールに向けて行なわれた予選1回目では、フェラーリの50号車499Pがハイパーカークラスの最速タイムをマークし、僚機51号車が2番手を記録。トヨタGR010ハイブリッドの2台がそれに続いた。

 LMDh勢ではポルシェワークスの2台が5〜6番手、キャデラック勢が残りの2枠のハイパーポール進出権を掴んだ。