F1分析|気まぐれな空に翻弄されたオランダGP。レース序盤、インターミディエイトタイヤに換えるのは何周目が正解だったのか?
さて今回のレースでは、各車ともドライタイヤでスタートをしたわけだが、スタート直後にバケツをひっくり返したような雨がザントフールト・サーキットを襲うことになった。これにより1周目〜4周目にピットインしてインターミディエイトタイヤに履き替える者、そしてドライタイヤのまま走り続けてコースが乾くのを待つ者……戦略が様々な形に分かれた。
この時襲来した雨雲は、雨足こそ強かったもの実に小さく、すぐに雨は止むことが予想された。しかし雨量と雨雲の大きさは絶妙で、判断を難しくさせるのに”ちょうどいい”規模だったといえよう。
では結果論として、一番正しい選択は何だったのか?
下記の表は、レース序盤にインターミディエイトタイヤに履き替えたドライバーと、無交換を選んだ中で最上位だったオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の、1周目から5周目までのラップタイムを合計したものだ。
■1〜5周目ラップタイム合計
1. ペレス(1):465.32秒
2. 周冠宇(1):477.264秒
3. ガスリー(1):478.658秒
4. フェルスタッペン(2):478.927秒
5. ルクレール(1):482.878秒
6. アロンソ(2):483.425秒
7. サインツJr.(2):485.729秒
8. 角田(1):489.354秒
9. マグヌッセン(1):490.018秒
10. オコン(2):496.454秒
11. ローソン(1):500.792秒
12. ノリス(3):506.442秒
13. ハミルトン(3):521.512秒
14. ピアストリ(無交換):522.707秒
15. ラッセル(4):524.241秒
これを見れば一目瞭然。3周目以降のピットストップ、そして無交換で乗り切ろうという戦略は、完全に失敗だったということが分かる。
最初の5周を最も速く駆け抜けたのはレッドブルのセルジオ・ペレスで、そのタイムは465.32秒。これは3周目にピットストップを行なったランド・ノリス(マクラーレン)よりも41.122秒、無交換だったピアストリよりも56.387秒も速かったのだ。
もちろん5周目の時点でインターミディエイトタイヤを履いているマシンは、後にドライタイヤに履き替える必要があったわけだが、ピットストップでのロスタイムは今回の場合は22秒程度だった。それを考えれば、1周目にピットストップを行なっていれば、タイヤをドライに交換してコースに戻った時には、少なくとも30秒程度無交換のマシンよりも前にいることができたはずだという計算になる。
ただ、闇雲に1周目にピットストップすればよかったのかと言うと、そうでもないかもしれない。次の表は、1回目のピットストップで、どれだけタイムロスしているか……ということを表したものである。
■ピットストップでのタイムロス
1. ローソン(1):22.471秒
2. ルクレール(1):12.516秒
3. 角田(1):12.151秒
4. マグヌッセン(1):11.171秒
5. ガスリー(1):8.299秒
6. 周冠宇(1):2.918秒
7. ペレス(1):2.496秒
8. オコン(2):2.364秒
9. ラッセル(4):1.031秒
10. サインツJr.(2):0.803秒
11. アロンソ(2):0.477秒
12. フェルスタッペン(2):0.209秒
13. ハミルトン(3):0.09秒
14. ノリス(3):0秒
レース序盤にドライからインターミディエイトタイヤへと履き替えたマシンは全部で14台いたが、その中でピットストップ(ピットレーン入口〜ピットレーン出口までの間に要した時間)が最速だったのは、3周目にピットインしたノリスであった。このノリスと比較して、他のドライバーがどれだけ多くの時間を使うことになってしまったのか……これを見ると、1周目にピットストップを行なったドライバーは、最速でも2秒以上遅く、10秒以上遅かったドライバーもザラにいる。アルファタウリのリアム・ローソンにいたっては、22秒以上のロスと、ピットストップ1回分以上損している計算だ。
これは、あまりにも突然のピットストップだったため、チームの準備が間に合わなかったことを意味している。タイヤが用意されていなかったフェラーリのシャルル・ルクレール、タイヤの取り付けに手間取ったアルファタウリの角田裕毅、そしてダブルストップを狙ったことで、角田の作業が終わるのを待たなければいけなかったローソン、そのローソンにピットインを封じられてしまったケビン・マグヌッセン(ハース)……。そういう混乱を避けるため、2周目にピットストップするという選択は当然あっただろう。実際、2周目にピットストップしたフェルスタッペンは、5周の走破タイムでは1周目にピットストップを行なったマシンたちと遜色ない。
ただそれを持ってしても、1周目がインターミディエイトタイヤを履く最適なタイミングであったことは言うまでもない。下記の表は、5周の走破タイムから、前出のピットで”失った”時間を引いたモノだ。
■1〜5周目ラップタイム合計からピットストップでのタイムロスを引いた数字
1. ペレス(1):462.824秒
2. ガスリー(1):470.359秒
3. ルクレール(1):470.362秒
4. 周冠宇(1):474.346秒
5. 角田(1):477.203秒
6. ローソン(1):478.321秒
7. フェルスタッペン(2):478.718秒
8. マグヌッセン(1):478.847秒
9. アロンソ(2):482.948秒
10. サインツJr.(2):484.923秒
11. オコン(2):494.09秒
12. ノリス(3):506.442秒
13. ハミルトン(3):521.416秒
14. ピアストリ(無交換):522.707秒
15. ラッセル(4):523.21秒
するとこれも一目瞭然。1周目にピットストップを行なったマシンが上位を占めることになる。ペレスは、チームメイトのフェルスタッペンよりも5周走破タイムが16秒も速かったことになるのだ……ピットストップのタイミングがわずか1周違うだけだったのに。同じチームのドライバーで比較すると、アルピーヌでは24秒、フェラーリは14秒、1周目にピットストップしたマシンの方が速かった。
臨機応変に状況に対処できるか、あるいは雨が降る可能性を予想して事前に準備を整えておくか……それができ、そして1周目にピットストップを行なうという決断を下すことができれば、今回は大きくポジションを上げるチャンスがあった。
それをうまく活かしたのが、アルピーヌのピエール・ガスリーであり、アルファロメオの周冠宇だったと言えるだろう。
混乱を避けるという意味で言えば、2周目のピットストップでも決して間違いだったとは言えない。ただ、3周目以降にピットストップしたとなれば、明らかに判断が遅れたと評価できる。メルセデス勢はルイス・ハミルトンが3周目、ジョージ・ラッセルが4周目にピットストップを行なっており、これは明らかな失策。またマクラーレンは、ノリスを3周目、ピアストリを無交換で走らせたことで、表彰台を逃す結果となった。