MotoGPカタルニアGPでは、決勝レーススタート直後にドゥカティのフランチェスコ・バニャイヤが激しく転倒し、後続のマシンに轢かれてしまうという事故が起きた。この模様はテレビの国際映像で繰り返し再生されたが、GASGASファクトリー・レーシングのポル・エスパルガロは、放送内容にあまりにも配慮が欠けていたとして批判している。

 バニャイヤはカタルニア・サーキットのターン2を立ち上がった直後にハイサイドを起こし、コースに叩きつけられるように転倒。スタート直後だったということもあり、すぐ後ろには他のマシンが左右に広がって連なっており、その中でKTMのブラッド・ビンダーがバニャイヤを避けきれずに足を轢いてしまうことになった。

 事故直後はバニャイヤの容態が心配されたが、幸いにも大きな怪我はなく、今週行なわれるサンマリノGPにも出場できることになった。

 なお事故が起きた直後から、国際映像ではバニャイヤの転倒シーンを繰り返し放送。バニャイヤに意識があるということが伝えられるまでの間に、実に19回にもわたって当該のシーンが映し出された。また、心配するバニャイヤの家族や、メディカルセンターで彼を待つチーム関係者の姿も、国際映像では伝えられた。

 この映像の作り方について、エスパルガロは猛反発。事故の見せ方を「根本的に変える必要がある」と語った。

「正しいとは思えない。僕はそれについて本当に腹を立てている。僕は実際経験したことだから、セーフティコミッションで話題にしたいテーマのひとつだ」

 サンマリノGPの木曜日に、エスパルガロはそう語った。エスパルガロも3月にポルトガルで大クラッシュを経験し、複数箇所を骨折。イギリスGPでようやく復帰が叶っている。

「クラッシュのシーンを映していたのは最悪だった。ペッコ(バニャイヤの愛称)の状態が分からなかった時は特にね」

「でも家族の姿を見せるのは……僕はインスタグラムやソーシャルメディアにも、家族の姿は晒さない。それは嫌なんだ。僕は彼らを、この世界から守りたいと思っている」

「全ての批判や怪我、その他全てのことを受け入れなければいけないのは、僕自身なんだ。僕の家族がテレビに映ったり、世界中の人が家族の姿を目にするっていう状況は受け入れられないよ」

「妻が非常に嫌がっていたのは、病院の前で僕のことを待っている姿を映されたことだ」

「ペッコの場合は、体調に問題はなかった。でも僕の時は、本当に最悪だった。怪我は最悪だったんだ」

「そのことで、妻はひどく苦しんでいた。にも関わらずテレビに映され、写真を撮られるなんて、本当に酷いことだ。これは抜本的に変える必要があることだ。大きく変える必要があるよ」

■クアルタラロも放送内容に違和感

 ヤマハのファビオ・クアルタラロも、まだライダーたちは再開後のレースに挑まなければならない中、クラッシュのシーンが繰り返し放送されることは「容認できない」と語った。

「僕としては、それは容認できないね」

 そうクアルタラロは語った。

「一度見せればいい。それでおしまいだ。だって他のライダーは、その後で再スタートするんだよ。一度リプレイした後、再スタートしなければいけないライダーが他に20人いるということを考えるべきだ。しかも彼らにも、そういうクラッシュが起きるかもしれないんだからね」

「大きなクラッシュが一度起きると、精神的には難しくなる。そのライダーが問題なかったとしても、状況がさらに悪化する可能性があるんだ」

「彼らが『ライダーは大丈夫』と言う時、片腕や両足を骨折しているのか、どこも骨折していないのか分からない。とにかく僕としては、リプレイは一度限りで十分だ」

「でも、レース再開前にそれが何度も繰り返し流されるのは良いことじゃないね」

■マルケスは「クラッシュは注目を集めるから」と一定の理解も

 レプソル・ホンダのマルク・マルケスも、クラッシュのシーンを19回もリプレイするのは過剰であると認めつつも、クラッシュシーンが注目を集められるコンテンツであることも指摘した。

「ライダーとして、再び走る必要がある時、あのようなクラッシュを何度も見るのは非常に難しい。それは事実だ」

 そうマルケスは語った。

「ペッコに大きな怪我がなかったのはよかったし、ドルナも彼に問題はないと言っていた。ドルナは救急車から、彼が問題ないという情報を得ていた。あとは全てをチェックする必要があるだけだった」

「でも、それもこのショーの一部だ。確かに、何度も見せる必要はないのかもしれない。でも、それは僕が決めることじゃない」

「僕はテレビを消して、仕事に集中していた。しかしインターネットでクラッシュに関する話題とレースに勝ったことについての話題をチェックすると、クラッシュに関する声の方が多いのは事実だ」

「人々がそれを見たいのであれば、映像を制作する人たちはそれを見せなければいけない。しかし、ライダーにとってそれが難しいことであるのは事実だ。家に帰ってレースを再度確認した時には、そのシーンはライダーとして見たくなかったから、飛ばしてしまった」

「5回かそれ以下のリプレイで十分だったと思う。19回は多すぎると、言うべきだろうね」