2025年から2028年にかけてのF1のタイヤサプライヤーが、まだ決まらない。現サプライヤーのピレリが継続するのか、あるいはかつてサプライヤーを務めたブリヂストンが復活するのか……この2社の一騎打ちとなっているのは確実だと見られているが、商業面での交渉が続けられているため、最終決定が遅れているようだ。

 しかしその交渉、そして決断に至るまでには、様々な思惑が渦巻いているという話もある。

 FIAは今年の初めに、2025年から4年間にわたるF1タイヤサプライヤーに関する入札プロセスをスタートさせた。これにはピレリとブリヂストンの2社が応じ、それぞれから提出された技術的な提案は、すぐにFIAによって承認されたと言われている。

 その後、F1の運営側との商業面における話し合いがスタートし、その状況が数ヵ月にわたって続いている。

 ブリヂストンが当初提出した内容は、F1にとって”素晴らしすぎる”ものあり、とても無視することはできないモノだったという話が関係者の中で広まっていた。

 F1のCEOであるステファノ・ドメニカリの仕事は、チームへの分配金、そしてオーナー企業であるリバティ・メディアへの上納金を最大化することである。タイヤサプライヤーからどれだけの額を引き出せるかということも当然その一部であり、そういう観点で言えばブリヂストンの出してきた条件は、魅力的だったようだ。

 なおこの金額には供給に関する料金だけでなく、何レースでタイトルスポンサーを務めるか、コースにどれだけの数の看板を掲出するか、そしてゲスト向けに発行するパスの枚数なども含まれている。そして当然併催のFIA F2とFIA F3用のタイヤ供給、そして以前は含まれていなかった持続可能性という要素も追加されていることで、議論は複雑になっている。

■ピレリはこれが最後の入札?

 もうひとつ状況を複雑にしている要素がある。それは、ピレリが今回の入札を勝ち取ったとしても、それ以降はF1タイヤ入札には参加しないのではないかと言われていることだ。つまり今回ピレリと契約を締結したとしても、2029年にはまた新たなメーカーを探さなければいけないということになる。

 もちろん、ブリヂストンが4年後に入札に再挑戦してくれれば、大きな問題はないかもしれない。しかしその際に他のメーカーが参加しなければ、ブリヂストンに非常に有利な状況となり、今回のような好条件をF1側としては引き出せないかもしれない。

 F1にとって最悪のシナリオは、2029年に入札するメーカーが1社もないということだ。それを避けるために、今の段階でブリヂストンに乗り換えるという可能性も十分にあるだろう。

 本来ならばF1としては、ピレリとの契約を継続させ、2029年からブリヂストンと契約するということを現時点で決めてしまいたいところだろう。そうすればブリヂストンとしてはしっかりとした準備期間を確保することができ、F1としても長期的に収入を保証することができる。タイヤサプライヤーがいない……そういって頭を悩ませることもない。

 しかしFIAの入札プロセスはそのようには用意されておらず、その選択肢がいかに有益なモノだったとしても、そういう取り決めを結ぶのは不可能だろう。

 なおパドック内では、今のF1は変革の時代を迎えているため、ピレリ以外の企業にもチャンスを与えるべきだと考える人も少なくない。そういう意見からすれば、ブリヂストンが2025年からF1タイヤを用意することとなる。

■決定が遅れるほど、ブリヂストンの参入は難しくなる?

 ただこのタイムラインには課題もある。2026年にはテクニカルレギュレーションが一新される予定で、タイヤのサイズが変更される可能性もある。そうなった場合ブリヂストンは、2025年のたった1年だけ使うために現行サイズのタイヤを用意し、それと並行して2026年からの新しいサイズのタイヤを準備せねばならないのだ。

 しかも2025年からF1にタイヤを供給するためには、ブリヂストンはシーズン中に25日間設定されているタイヤテストの日程を、来季から使うことになる。しかしそれ以前に自社でテストを行なう必要は当然あり、そのための日数はかなり限られている。しかもそのテストをどのチームが担当するのか、そしてそのための組織をどう編成するのかということも、議論の的となろう。

「新しいタイヤサプライヤーとなるなら、そこにはいくつかの困難が伴う」

 そう語るのはハースF1のギュンター・シュタイナー代表である。

「重要なのは技術的な部分だ。このF1タイヤは、製造するのが技術的にも非常に難しいと思う。長い間F1をやっていなかった状態から始めるのは、簡単ではない。そして、テストプログラムをどう進めていくのかということも問題だ。そのテストは、実に高価なのだ」

 ウイリアムズのジェームス・ボウルズ代表も、次のように語った。

「ギュンターが言ったことが、完璧な要約だと思う」

「現在のF1マシン用のタイヤを製造する技術的な課題は、並外れたモノだ。20年前のように簡単ではない」

「我々が現在生み出しているダウンフォースは桁違いであり、もっと高くなる」

 決定が遅れれば遅れるほど、ブリヂストンにとっては厳しいスタートになるはずだ。

「技術的にはかなりチャレンジングであるのは事実だと思う」

 フェラーリのフレデリック・バスール代表はそう語る。

「我々は2025年に向けたタイヤについて話しており、さらに2026年にはまた別の種類のタイヤについても話していると思う」

「つまり今後2〜3年の間に、ふたつの異なる構造、寸法のタイヤを開発しなければいけないことを意味する。遅すぎるかどうかは分からないし、それは私の仕事ではないが、それは挑戦的なことだ」

■F1チームが気にする”分配金”

 アルファタウリのフランツ・トスト代表も、ブリヂストンには時間が必要だと語る。

「まず最初に、我々にタイヤを供給したいと言ってくれているメーカーが2社もいるというのは良いことだ。それによって我々の収入を増やすための資金がもたらされ、FOMがより良い状況に導かれることになるからだ」

 そうトスト代表は言う。

「技術的な側面から見ると、新しいサプライヤーにとっては、今回の決定はかなり遅すぎると思う。幸いなことに、私の問題ではないけどね」

 なおチームは、タイヤサプライヤーが変わることによって、分配金がどのように変わるのか、それを知りたがっているようだ。

「ピレリは素晴らしい会社であり、今回の入札ではプロモーターやチームに、素晴らしい条件を提示してくれたと確信している」

 そうレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は言う。

「我々がピレリを使い続けたいと思う理由はたくさんある」

「彼らは素晴らしいタイヤメーカーだ。そして素晴らしいサービスを提供してくれている。それが続くために、”数百万”という理由があることを願っているよ」