F1第16戦シンガポールGPの決勝レースを制したのは、カルロス・サインツJr.(フェラーリ)だった。

 熱帯に位置するシンガポールは日が沈んでも蒸し暑く、レース前のコンディションは気温30度、路面温度38度、湿度は67%だった。

 フロントロウスタートのサインツJr.とジョージ・ラッセル(メルセデス)の2台を含め、多くのドライバーがスタートでミディアムタイヤを選択。上位では唯一、3番手のシャルル・ルクレールがソフトタイヤを履き、フェラーリはチーム内で戦略を分けた。

 一方で今週末苦しんだレッドブル勢はハードタイヤを選択。後方グリッドからポジションを挽回しようとリバース・ストラテジーを採用した。

 なお、予選Q1で大クラッシュを喫したランス・ストロール(アストンマーチン)は大事を取って決勝レースを欠場。周冠宇(アルファロメオ)はピットレーンスタートを選んだ。

 現地は20時を迎えフォーメーションラップが開始。18台が正グリッドに並び、62周の決勝レースがスタートし、各車が一斉に飛び出した。

 抜群のスタートを決めたのはサインツJr.。ソフトタイヤで蹴り出しの良いルクレールがラッセルを交わして2番手に浮上した。

 ルイス・ハミルトン(メルセデス)はターン1〜2でコースを飛び出し、ラッセルとランド・ノリス(マクラーレン)の前で合流。一時3番手に立つも、後にハミルトンはポジションを戻し、5番手とした。

 角田裕毅(アルファタウリ)はオープニングラップでセルジオ・ペレス(レッドブル)と接触しパンク。ターン14のエスケープゾーンにマシンを停め、前戦イタリアGPに続いて、まともにレースをすることなく週末を終えることとなった。

 首位のサインツJr.が7周を終えた時点で、ワンツー体制のフェラーリ2台から1.5秒程度の等間隔でラッセル、ノリス、ハミルトン、フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)が続いて走った。11番手スタートとなったフェルスタッペンは3ポジションアップし、上位集団からエステバン・オコン(アルピーヌ)を挟んでの8番手とした。

 サインツJr.に対して2番手のルクレールはDRS圏内まで接近していたものの、チーム側はルクレールに前とのタイムギャップを設けるように指示。タイヤをマネジメントしつつ、3番手ラッセル以下に対してルクレールを盾役とする戦略に出たのだ。

 首位を走るサインツJr.も今季の弱点であったタイヤデグラデーション(性能劣化)を最小限に留めるため、レース序盤ペースを1分40秒台まで落として走っていたが、ピットストップタイミングが近づく18周目になると1分38秒台にペースアップ。ルクレールやラッセル、ノリスもこれに続いた。

 すると、ここでローガン・サージェント(ウイリアムズ)がターン8を曲がりきれずにクラッシュ。脱落したフロントウイングを引きずった状態でピットまで戻ることができたものの、デブリがコース上に散らばったことで、セーフティカー出動となった。

 ここで上位のドライバーはピットイン。ハードタイヤスタートのレッドブル勢はステイアウトを選び、フェルスタッペンはピットストップを終えて新品のハードタイヤを履くサインツJr.の後ろ2番手につけた。

 ダブルストップで犠牲となったルクレールは6番手と、ステイアウトのペレスを含め、ラッセルとノリスにも先行を許すこととなった。

 セーフティカーは23周目からレース再開。サインツJr.はフレッシュなタイヤで逃げに出て、それに後れを取るまいとラッセルはフェルスタッペンを早々に攻略して2番手でサインツJr.を追った。

 一時トップ2が抜け出す形となったものの、DRSトレインを後方に形成して首位を維持したいフェラーリはサインツJr.にペースを落とすよう指示を飛ばし、フェルスタッペンを交わしたノリス、ハミルトン、ルクレールが一集団で走った。

 ステイアウトを続けたレッドブル勢は、ピット作業のタイムロスを軽減できるタイミングも生まれず、ズルズルと順位を落としていたペレスを40周目にピットへ呼び込んだ。フェルスタッペンも翌周にピットへ入り15番手、ペレスが17番手と、ダブルタイトル獲得も近いレッドブルがほぼ最後尾まで転落した。

 ただ、その直後にバーチャル・セーフティカー(VSC)が出された。上位を走っていたエステバン・オコン(アルピーヌ)にマシントラブルが発生し、ターン1の先でマシンを停めたのだ。

 ここまで攻め手を欠いていたメルセデス勢は状況を変えるべく、VSCのタイミングでダブルピットストップを選択。温存していた新品のミディアムタイヤを投入した。

 首位サインツJr.は変わらないものの、2番手にノリス、3番手にルクレールが続き、メルセデス勢は4〜5番手でコースに復帰した。

 45周目にVSCが解除されると、サインツJr.とノリスのトップ2は1分38秒台前半で周回。3番手のルクレールはレース序盤同様、サインツJr.援護のためか1分38秒台後半で走り、1周あたり2〜3秒速いペースで追い上げるメルセデス勢の行く手を塞ぐチームプレーに徹した。

 ただタイヤライフの差は大きく、ラッセルが53周目、ハミルトンが54周目に一発でルクレールを仕留め、6秒前方のノリス、その1秒前方を行くサインツJr.を追った。

 サインツJr.は2番手ノリスをDRS圏内にとどめ、迫るメルセデスとの“壁”代わりに活用。ラッセルは58周目にトップ2に追いついたものの、サインツJr.から4番手ハミルトンまでがDRSトレイン状態となった。

 サインツJr.はチームに対して「フロントタイヤが終わった」と報告するも、2番手ノリス以下が激しいポジション争いを繰り広げていたこともあり、首位でファイナルラップへ。サインツJr.が最後の1周をトップで走りきり、トップチェッカーを受けた。

 今季、開幕から全戦全勝を続けてきたレッドブルに対し、フェラーリのサインツJr.がシンガポールGPで初めて土をつけた。

 2位表彰台には今回投入されたアップデートの効果もあったかノリスが入った。3番手を走っていたラッセルはファイナルラップのターン10で痛恨のクラッシュを喫し、僚友ハミルトンが3位に滑り込んだ。

 フェルスタッペンはレース後半ペースを回復し、4位ルクレールの真後ろまで追い上げて5位入賞。ポイントこそ稼いだものの、彼の連勝記録は10で止まった。

 6位ピエール・ガスリー(アルピーヌ)以下、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、ペレス、リアム・ローソン(アルファタウリ)、ケビン・マグヌッセン(ハース)というトップ10。F1で3戦目のローソンとしては今回F1初入賞となった。

 今季ここまでの展開とは全く異なるレースとなったシンガポールGPだが、1週間後には日本GPが控えている。伝統の鈴鹿サーキットではどんなストーリーが待っているのだろうか。