ホンダ・レーシングスクール・鈴鹿(HRS)のプリンシパルとして、若手ドライバー育成の重責を担っている佐藤琢磨。今後モータースポーツ人口を増やしていくためには、活躍するスター選手が登場することが一番重要であると語り、さらに多くの人がモータースポーツを楽しめる環境が整うことが大切だと語った。

 佐藤は現在、現役のドライバーとしてインディカー・シリーズに参戦する傍ら、HRSの校長(プリンシパル)を務めている。このHRSはプロドライバーを育成するのが目的だが、佐藤はモータースポーツの裾野を広げる活動もしていきたいと語る。

「HRSは、世界を目指すトップドライバーを育成する環境が整っていますが、その一方で、自分個人の活動として、小学生を対象にキッズカートの大会を毎年開催しています。一人でも多くの子供たちにレースの楽しさを体験してもらえれば、その先に繋がっていくのではないかと思って取り組んでいます」

■日本にモータースポーツを本当の意味で根付かせるために……

 佐藤は2014年から”TAKUMA KIDS KART CHALLENGE”を立ち上げ、子どもたちにモータースポーツの魅力を伝える活動を行なってきた。ただ将来的には、モータースポーツが生涯スポーツとして、日本に根付いていくことを願っているという。

「参加型のモータースポーツが盛り上がっていくことが、日本のモータースポーツの未来を支えていくと思います」

 そう佐藤は語る。

「地域に根付いた生涯スポーツとして、多くの人に受け入れてもらいたいですね。モータースポーツって一生できるんだよ、クルマって道具はこんなに楽しいんだよというのを訴えられるような、そんな環境を作っていければ最高ですよね」

「そのためには、地域と自動車メーカー、そして団体の協力が不可欠です。今自分はドライバーの育成に集中していますけど、将来的にはそういう形が理想です」

 それを実現するためには、世界で大活躍するドライバーが出てくる必要があると、佐藤は考えている。そういう部分では、彼が率いるHRSが、大きな役割を果たすことだろう。

「世界のトップクラスで、選手が活躍するのが一番早いと思います」

 そう佐藤は言う。

「マイナースポーツでも、世界の扉を開けて活躍できる選手が出てくると、そのスポーツは大きく注目されます。野球は元々日本で大人気ですが、日本人選手のフィジカル面や技術が世界の頂点に達し、限界がないことを証明した(メジャーリーグの)大谷翔平選手は究極の形ですよね。だから連日ニュースにもなる。F1に限って言えば、90年代のF1ブームの影響が残っているから、日本グランプリは観客動員数も非常に多い大会になっていますが、モータースポーツ全体ではメジャーなスポーツにはなりきれていないと感じています」

「選手が活躍することで、ニュースにも取り上げられる。やっぱり自国の選手が頑張っている姿は、応援したいですよね。世界に挑戦していく若い選手たちの存在は、日本のモータースポーツの起爆剤に間違いなくなります。それを支えるためにスクールは存在し、メーカーの協力体制を作ることが重要だと思います。」

■クルマの楽しさ

 多くの人たちがモータースポーツに挑戦できるよう、クルマ社会全体の改革も必要だと、佐藤は語る。

「クルマ社会全体の流れもあると思います。クルマは移動手段というだけじゃなくて、他にもたくさんの魅力が詰まっていることを伝えていければと思います。モータースポーツはもちろんそのひとつ。スポーツとして楽しめるクルマが少なくなっているのは事実ですが、カーボンニュートラルへの取り組みも進んで、世界のいろいろなところで次世代のクルマが生まれてきているのは追い風ですね。EVでも楽しいクルマがいっぱい出てくると思います。若い世代が、手の届きやすい範囲で楽しめるクルマ文化が必要なんですよ」

「だから楽しいクルマが発売されることを待ち望んでいます。今でもホンダビートは大切な愛車ですが、乗ると本当に楽しい。軽自動車はバイク感覚で所有できるのがいいですね。今後、コンパクトサイズやミドルサイズのスポーツカーは復活させて欲しいですね。自動運転が進むと同時に、自分で操作する楽しさも改めて注目されると思うんですよ」

「もちろん、ハイパーカーと呼ばれるようなスーパースポーツカーも目指してもらいたい。世界的に見ても、各自動車メーカーの力の入れようはすごいですからね。その流れで若い層にも手が届くクルマがあるといいなと思います」

 佐藤が求めるような、世界で活躍する人材……角田裕毅や岩佐歩夢に続く才能は、今のHRSにいるのか? そう尋ねると、佐藤”プリンシパル”は次のように語った。

「毎年のように現れていますよ。今年も非常にレベルの高い選手がいますから、ぜひ暖かく見守っていただきたい。そして、今後の活躍を楽しみにしてもらえればと思います」