モビリティリゾートもてぎで開催された2023年スーパーGT最終戦は、ホンダ・NSX-GTにとってのラストレースとなった。ホンダ陣営として有終の美を飾りたいレースであったが、優勝を最低条件としてシリーズタイトルの可能性を残していた16号車ARTA MUGEN NSX-GTの福住仁嶺、大津弘樹組は振るわず12位。17号車Astemo NSX-GTの3位が、陣営の最上位となった。

 NSXは、スーパーGTの前身である全日本GT選手権時代の1996年から参戦開始。2000年には16号車Castrol 無限 NSXの道上龍がドライバーズタイトルを獲得し、2007年には8号車ARTA NSXの伊藤大輔、ラルフ・ファーマン組がチャンピオンに輝いた。2010年からの4シーズンはベース車両がHSV-010に取って代わられたが、2014年に『NSX CONCEPT-GT』として復活すると、2017年からNSX-GTに。それからはTEAM KUNIMITSUの山本尚貴がジェンソン・バトン(2018年)、牧野任祐(2020年)と共にタイトルを手にした。

 そしてNSXラストイヤーとなった今シーズンだが、前半戦は勝利に届かないレースが続いた。ただ後半戦は、第5戦鈴鹿で16号車ARTA MUGEN NSX-GTが優勝、第6戦SUGOはトップチェッカーの17号車Astemo NSX-GTが失格となるも繰り上がりで8号車ARTA MUGEN NSX-GTが勝利を飾るなど、活躍を見せた。そして16号車が第7戦オートポリスで2位に食い込み、タイトルの可能性を残して最終戦に乗り込んだのであった。

 しかしながら、タイトル獲得には優勝しかない16号車ARTAは、他のブリヂストンユーザーとは異なるタイヤ選択をしたがコンディションとマッチせず、週末を通して上位に食い込めないままレースを終えた。ホンダ陣営として唯一トップ争いに絡んでいた17号車Astemoは終盤の雨に乗じてウエットタイヤに交換する作戦に出たが、トップを脅かすには至らず3位に終わった。

 HRC(ホンダ・レーシング)でスーパーGTのラージ・プロジェクトリーダー(LPL)を務める佐伯昌弘氏は、レースをこう振り返った。

「NSX最後のレースを優勝で締めくくるべく、17号車には奮起していただきました」

「17号車は表彰台圏内で走っていましたが、最後は上位陣で唯一ウエットタイヤに履き替えました。あれは優勝狙いの判断だったと思いますが、タイミング的には悪くなかったと思います。ただ、FCYも入ったりしているうちに路面の状況も変わり、入る前と同じ3位ということで、流れがこっちに来なかったなという印象です。17号車のレースペースは(トップから)ほんの少し負けているレベルで、十分戦えていたと思います」

「来年からは車両がシビック・タイプRに変わりますが、来年こそリベンジしたいです。また応援よろしくお願いします。そして長年NSXを応援いただき、ありがとうございました」

 シーズンを終えて、16号車ARTA福住、大津組のランキング4位が最上位となったホンダ陣営。結果的にタイトルを逃す形となったが、純粋なパフォーマンス以外の部分でも苦しんだシーズンという印象が強い。

 今季からMUGEN(M-TEC)とのタッグにより2台体制となったARTAには関係者やファンから大きな期待がかけられていたが、16号車は前半4レースで3度、主にピット作業に関するペナルティを受けて順位を下げた。完全な“タラレバ”にはなってしまうが、こういったペナルティがなければ、16号車は実際より10ポイント近く上積みした状態で最終戦に乗り込めていたかもしれない。また8号車も速さを結果に繋げられないレースが続き、繰り上がり優勝はあったものの入賞は3度。今季ARTAが2台揃ってポイントを獲得できたレースは一度もない。

 そして17号車Astemoに関しても、第6戦SUGOで優勝して一気にタイトル争いの主役に立ったかと思われたが、その喜びも束の間、スキッドブロック違反により失格となり、残るレースに向けて厳しい状況に置かれた。そしてタイトル争いの常連である100号車STANLEY NSX-GTもコンスタントにポイントを積み重ねていたが、第6戦SUGOでの大クラッシュにより山本尚貴が負傷欠場に。チームはGT500での経験がほぼゼロに等しい木村偉織を起用してシーズン終盤戦を戦わざるを得なかった。

 佐伯LPLは、そういった“タラレバ”がなければ上位争いの中心にいられたはずだと残念がった。

「最終戦だけを見るとライバルが強いなと感じましたが、シーズン全体を見ると、前半はホンダ勢に対するペナルティも多く、また今シーズンは大きなクラッシュもあり、欠場したドライバーもいました」

「タラレバにはなりますが、そういうのがなければ、ランキング上位争いの中心にいたのではないかと思います。来年に向けてはペナルティを含めた今年の問題点を振り返り、修正していきたいです」

NSX得意のオートポリス、もてぎでライバルメーカーが速さ見せる「伸びしろがあまり残っていなかったのかも」

 また近年のホンダ陣営と言えば、オートポリス、もてぎでの終盤2レースで強さを発揮し、ランキング上位に食い込むという印象が強いが、今年はその様相が少し変わったように見受けられる。

 例えば2021年はオートポリス、もてぎ、富士と続く終盤戦であったが、オートポリス、もてぎで8号車ARTAが2連勝を記録。一躍タイトルの候補に躍り出た。そして昨年も第7戦オートポリスで17号車Astemoと100号車STANLEYがワンツーフィニッシュを飾って王座戦線に生き残り、最終戦もてぎでは結果的にタイトルを逃したものの、100号車がレースを完勝した。

 ただ今季に関しては、オートポリス戦で16号車がポールポジションを獲得して優勝争いに絡んだものの、決勝では12番手スタートの36号車au TOM'S GR Supraに驚異的なレースペースで追い上げられ力負け。2位に終わった。そして最終戦でも17号車Astemoが上位に食い込んだが、優勝には届かなかった。

 近年のGT500クラスは開発凍結の影響もあり、特に車体の面では大きなアップデートをすることができない。NSX-GTの車体開発を率いた徃西友宏氏は、そんな中でオートポリス、もてぎとライバルメーカーにやや押される展開になったことについて、スープラやZがNSX以上に“伸びしろ”を残していたのではないかと分析した。

「車体の面では、開発凍結されている中で大きなテコ入れはできないはずですが、去年はオートポリスも、もてぎも、NSXで仕上がりの良かったクルマがぶっちぎりで勝てていた中で、今年は他社さんがクルマの性能を上げてきた印象です。去年あったマージンはなくなっていると感じました」

「大きなことができない中で、タイヤ選択で性能が変わってしまうので、来年はそういった部分も考えていく必要があると思います」

「例えば、去年自分たちがクルマの持っている性能を90%出せていたとしたら、昨年他社はあまり出しきれていなくて、それをセットアップやエンジンの合わせ込みで出し切れるようにしたのかもしれません。また、同じタイヤメーカーを履いていてもチョイスは違うので、(ライバルは)自社のクルマに合うタイヤコンパウンドを選んだのかもしれません」

「2年に1回、空力開発をやり直したりしていると、性能を出し切るまでに時間がかかります。そんな中で他社には伸びしろがしっかりあった。逆に自分たちは色々と底上げをしているつもりでしたが、伸びしろがあまり残っていなかったのかもしれません。今年はしっかり追いつかれたという印象です」

 そんなホンダ陣営は、来季からシビック・タイプR-GTを投入する。最近ではLC500やZなど、ベース車両変更1年目にタイトルを獲得するケースも多い。シビックの開発テストにも携わる野尻智紀も「クルマが変わった1年目という難しさは当然ある」としながらも、「Zが初年度から良かったので、我々もシビック1年目でタイトルを獲らないといけない」と意気込む。ホンダ陣営の“リベンジ”はシビックで果たされるか。