2月1日、F1界を衝撃的なニュースが駆け巡った。メルセデスのルイス・ハミルトンが、2025年からフェラーリに移籍することが決まったのだ。7度のF1ワールドチャンピオンの移籍決定は大きく報じられることとなったが、それに伴い注目を集めているのが、ハミルトン加入により今季限りでフェラーリを離れることになるカルロス・サインツJr.の動向だ。

 フェラーリとの契約が2024年限りとなっていたサインツJr.はかねてより、今季開幕までに自らの将来を確実なものにしておきたいと明言していた。これはすなわち、フェラーリとの契約延長に向けて話が進んでいるのだと理解されていた。

 実際、サインツJr.は2021年にフェラーリに加入すると2勝を挙げ、チームメイトのシャルル・ルクレールとも引けを取らないパフォーマンスを見せてきた。そのためサインツJr.は、報酬アップに加えて複数年の契約を手にする有力な立場にあった。

 しかし、交渉は長引いた。チーム代表のフレデリック・バスールは昨年、シーズンが非常に多忙であったことをその理由にしていたが、最近になってフェラーリが別の大物と交渉をしていることが明るみに出た。そこから間髪入れずに、ハミルトンの加入が正式発表されたのだ。

 考えてみれば、昨夏にハミルトンがメルセデスと2025年までの2年契約を結んだ時も、交渉は長引いていた。契約は実際には2年ではなく、1年+オプションの契約にしていたものと思われる。フェラーリからのアプローチを受けて、ハミルトン側は契約解除条項を盛り込んだ、そしてその交渉に時間がかかった、ということだろう。

 かくしてサインツJr.は、2025年以降の去就が不明となっている。彼の移籍先候補にはどんなチームが考えられるだろうか?

■メルセデス

 当然、ハミルトンの移籍によってメルセデスのシートは1席空くことになるわけで、サインツJr.がそこに収まれば、実質的なトレードという形でトップチームの椅子を得ることができる。フェラーリでルクレールと互角に渡り合ったサインツJr.としても、ジョージ・ラッセルとも互角に戦えると信じているはずだ。

 サインツJr.とメルセデスの双方にとって、共に戦うことは選択肢のひとつになり得るだろうが、まず2024年シーズン序盤にメルセデスが戦闘力を見せられるかどうかもポイントだ。グラウンドエフェクトカーの規則になってから苦戦しているメルセデスは、ジェームス・アリソンが再び実権を握って新車開発に取り組んだ。これが成功して再びチャンピオンチームに返り咲けるか、それとも泥沼から抜け出せないのか……そこも重要だ。

 またサインツJr.にとって気になるのが、メルセデスの秘蔵っ子、アンドレア・キミ・アントネッリの存在だ。アントネッリは2022年にADAC F4(ドイツF4)とイタリアF4を制し、2023年にフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権でチャンピオンになって2024年からFIA F2に飛び級昇格した期待の若手である。

 ただ、仮にアントネッリがF1までたどり着いたとしても、メルセデスのトト・ウルフ代表がかつてのラッセルのようにアントネッリを中堅以下のチームに送り込んで修行させるとなれば、サインツJr.もメルセデスと中期的な契約を結んでチャンピオンを目指すチャンスが生まれるかもしれない。

 とはいえ、そもそもメルセデスが狙う後任ドライバー候補が2024年で契約の切れるドライバーだけなのか? という点も疑問だ。ハミルトンのフェラーリ移籍はまさに、F1ドライバーの契約は融通が効くものであることを示している。フェラーリのルクレールやマクラーレンのランド・ノリスも複数年契約を結んでいるとはいえ、その年数は伏せられているし、詳細なオプションも不明だ。つまり、メルセデスが彼らにアプローチをかける可能性というのも完全には捨てきれないのだ。

■レッドブル

 では、現在の最強チームであるレッドブルはどうか? セルジオ・ペレスは今季限りで契約が切れるが、マックス・フェルスタッペンに対して大きな差をつけられていることを考えると、チームが契約を延長することは考えづらい。そのため、2025年に向けてはその1席にサインツJr.が滑り込む余地がある。

 ただサインツJr.にとって最初のネックとなるのがダニエル・リカルドだ。彼はレッドブルの姉妹チームであるビザ・キャッシュアップRBに所属しているが、実質的にレッドブルの2席目の「キャンセル待ち」に並んで待機しているような状態だ。ペレスのパフォーマンス次第では、2025年、もしくは今シーズン途中にレッドブルに復帰する可能性がある。

 リカルドはマクラーレンを離れて2023年にレッドブルのサードドライバーに選ばれて以降、プライベートテストやシミュレータセッションを通してあらゆるパフォーマンス基準を満たしてきた。昨シーズン途中にアルファタウリからF1復帰を果たすと、手の骨折で長期欠場を強いられたが、ブランクを感じさせない走りを見せた。サインツJr.が市場に出たとはいえ、リカルドがペレスの後任最有力であることには変わりないだろう。

 もう1点の問題が、フェルスタッペンとの関係だ。サインツJr.とフェルスタッペンはルーキー時代、レッドブルの姉妹チームでトップチーム昇格をかけて激しく競い合っていたため、その関係が円満だったと断言することはできない。レッドブルのヘルムート・マルコ博士をして「実害がある」と言わしめたふたりの関係性は、お互い別の道を歩んで人間的にも成熟した今は変わっているだろうが、それでもサインツJr.にとっては気になる要素かもしれない。もっとも、今や3度のワールドチャンピオンとなったフェルスタッペンにとっては、誰がチームメイトになろうと気にならないかもしれないが……。

■アストンマーティン

 レッドブルやメルセデスといったトップチームを除けば、次いで魅力的なチームとして挙げられるのはマクラーレンだろう。しかし、契約書に効力があるという前提ではあるが、ランド・ノリス、オスカー・ピアストリ共に複数年の契約に合意しており、サインツJr.に入り込む余地はない。そうなると、マクラーレンと同様に進化を見せるアストンマーティンが選択肢と言えるだろう。

 昨シーズン中、アストンマーティンはルクレールとノリスの動向を注視していたと言われる。これは論理的に考えれば、2024年をもって契約が切れるフェルナンド・アロンソの後任候補を吟味していたということになるが、現在の彼らはアロンソがチームに残ることを望んでいる。

 したがって、別の考え方もできる。チームオーナーのローレンス・ストロールはチャンピオンを欲しており、なおかつ外部からの投資を受けたことで新たなステークホルダーを満足させる必要性も出てきた。そうなると、息子であるランス・ストロールの代わりに、より実力のあるドライバーを起用するという選択肢も浮上してくるかもしれないのだ。

 ランス・ストロールはオーナーの息子という立場上、基本的には彼が望む限りはF1で走ることができるだろう。しかし、もしルクレールやノリスがアストン入りに明確な興味を示していれば、父のローレンスにとっては息子をラインアップから外す口実になっていたかもしれない。

 そういった状況を踏まえると、サインツJr.がアロンソではなくストロールの後任候補に浮上する可能性もある。それが実現すれば、サインツJr.は幼少期からの憧れである地元スペインのヒーローと組むことができるため、積極的にアプローチをしてもおかしくないだろう。

4. アウディ(ザウバー)

 かねてから噂されていたのが、サインツJr.は2026年からアウディのワークスチームとなるザウバーに移籍するのではないかということだ。

 現在タイトルスポンサーであるステークの名でF1に参戦するザウバーだが、バルテリ・ボッタス、周冠宇共に契約は今季までとなっている。ボッタスは以前、ここから先の契約延長はチームがアウディに生まれ変わる2026年のシートも手にしたと同義だろうと語っていた。そう考えると、サインツJr.が2025年からチームに加入し、そこに馴染みながら今後のマシン開発やチーム運営について意見を述べるというのは、理にかなった動きだと言える。

 サインツJr.がアウディに加入すれば、新たにF1に参戦する同メーカーの顔となり、主力としてチームを作り上げる存在になるチャンスがある。ハミルトンがメルセデスでしたことと同じようにだ。アウディが現実的かつ献身的で投資を惜しまないのであれば、サインツJr.の経験も相まって上位で争う可能性は十分にある。また主軸として高額な報酬で迎え入れられることで、さらなるモチベーションを得られるかもしれない。

 ただ、アウディのF1プロジェクトがあまり表に出てこないことは憶測も呼んでいる。ザウバー側は、アウディが昨年までのザウバーのタイトルスポンサーで競合メーカーでもあるアルファロメオとの交わりを避けるためだと説明しているが、アウディのパワーユニット開発プログラムが遅れているのではないか、アウディの役員たちが及び腰になっているのではないかと、あらぬ噂が立つようになった。それらは全て否定されているが……。

 また、彼の父であるカルロス・サインツSr.は年初のダカールラリーでアウディのRS Q e-tronを駆り61歳にして総合優勝。アウディはこれをもってオフロードのプログラムを終え、いよいよF1に集中していく。父が“バトン”を息子に渡したと考えると、胸が熱くなるような展開だ。