オーストラリアGPのフリー走行1回目でウイリアムズのアレクサンダー・アルボンは大クラッシュ。シャシーにまで被害が及んだことで、チームは修復のためイギリス・グローブのファクトリーへとシャシーを空輸し、次戦日本GPへ向けて間に合わせようと試みている。

 ウイリアムズはオーストラリアGPにスペアシャシーを持ち込んでいないため、グランプリ2日目以降はポイント獲得のチャンスが大きいアルボンが、チームメイトであるローガン・サージェントのマシンを引き継いで出走している。この決断により、サージェントは身代わりで欠場となった。

 破損したシャシーはイギリスへ空輸され、3月25日(月)早朝にウイリアムズのファクトリーへ到着する予定。鈴鹿サーキットで行なわれる日本GPに向けて新しいシャシーを用意するのではなく、破損したシャシーを修復するようだ。

 チームが窮地に立たされているのは、オフシーズン中のマシン生産の遅れがあったためだ。ボウルズ代表とチーフテクニカルオフィサー(CTO)のパット・フライは、今後に向けてプロセスの効率化を目指すと以前から語ってきた。

 舞台裏で努力が行なわれているものの、ウイリアムズは2024年シーズン開幕に向けて2台のFW46生産、スペア制作、最初の3戦で計画されているアップデートの開発製造を行なう中で、手持ちのリソースを全て使い果たしてしまった。それにより3つ目のシャシーの完成が予定より大幅に遅れているのだ。

 ボウルズ代表の名誉のために付け加えると、サージェントを身代わりで欠場させるという判断、スペアシャシーなしで開幕序盤のレースを戦うという不安定な状況にチームがあるという大きなふたつの問題に対して彼はオープンに語っている。

「昨年2月に(チーム代表として)就任した当初は、第1戦に3台のシャシーを投入する予定だった」とボウルズ代表は説明する。

「システムとプロセスにおけるパフォーマンスとテクノロジーの変化という、組織の大きな変更を経て、我々はある要素を根本的にプッシュするようになった」

「リソースには限りがある。そして非効率的な構造を経て、同時に改革を進めていくうちに、問題が発生し始めた」

「以前の問題は(カーボン製ではなく)金属製のコンポーネントを投入したり、前年のリヤウイングを投入したりというモノだった。今回の特殊なケースでは、第3シャシーがどんどん遅れ始めた」

「そしてこれまで我々が明かしてきたことだが、マシン(の用意)がとても遅かった。とても、とても遅かった。全てを限界まで追い込んだ。その結果、スペアシャシーを用意できなかった」

「それでも第3戦には持ち込む予定だった。しかしそれが遅れに遅れた」

 平たく言えば、ウイリアムズはオフシーズン中、作業プロセスを改善し、より良いマシンを作るためにリスクを取ったのだ。

「根本的な原因を遡れば、重要な工程を追加したという事実がある。シャシーの作り方を完全に変えたのだ」とボウルズ代表は言う。

「シャシーの部品点数は昨年の10倍近くになっている。それが組織として挑む新たな複雑さのレベルなのだ」

 ただボウルズ代表は、スペアシャシーがなく、大きなクラッシュが発生すればピンチに陥るというギャンブルは、チームにとって決して好ましいモノではなかったと認めた。

「現代F1において、3つ目のシャシーを持たないことを計画しているチームはない」とボウルズ代表は言う。

「私の経験の中で、3つ目のシャシーがなかったのは2009年(のブラウンGP)が最後だ。3台目のマシンがなかったのはそれが最後だったが、あの年は運が良かった。マシンを失うことで、簡単にチャンピオンシップで負けていただろう」

「そんなことをするつもりはない。手持ちの2台がコース上で隣り合って戦わなければならないというのは、単純に受け入れられないよ」

「現状なぜこうなっているのかと言うと、我々が全てにおいて後手に回っているからだ。処理システムや変革を進めようとすると、何かが犠牲になる。今回の場合は、それが第3シャシーだった」

「我々にはアップデートや他のパーツの計画もある。しかし第3シャシーやアップデートの勢いを失うことなく、このシャシーを良い状態にすることに、全スタッフを振り分ける必要がある。その代償はある。それは間違いない」

 ボウルズ代表と彼のエンジニアたちにとって、開幕3戦は“ロシアンルーレット”のようなもので、大きなクラッシュが悪夢のシナリオを引き起こすことを誰もが想定していたという。

 中継映像のリプレイでアルボンのクラッシュの規模を見た時、ボウルズ代表はすぐに問題があることを認識したが、パドックにマシンが戻された時に彼の不安は現実のモノとなった。

「ギヤボックスはふたつに割れ、エンジンマウントは完全に曲がっていた」とボウルズ代表はそう説明した。

「サスペンションが入るシャシーの右フロントはボロボロだった。シャシーに指が入ったよ。念の為言っておくと、そんなことはできないはずなんだ!」

F1日本GPには2台のFW46が100%間に合う?

 そうした状況から、ウイリアムズは次戦に向けて新しいシャシーの完成を急ぐよりも、破損したシャシーを修復することに重点を置いている。

「一晩中、チームは構造・応力部門やデザインオフィスと協力し、短期間でどのように修復するかを決める上で素晴らしい働きをしてくれた」とボウルズは言う。

「この変更を伴う負荷で作業が押すことになるから、間違いなく日本には2台のシャシーを持ち込むものの、3つ目のシャシーはないと思う」

「リソースには限りがある。2台のマシンを作り上げ、日本に適切な量のスペアを用意することにリソースを割くか、追加シャシーにリソースを割くかということになる」

 そして優先されたのは、破損したシャシーをできるだけイギリスのファクトリーへ戻し精密検査を行なうことだった。

「チームは月曜日の午前2時にマシンを戻すことができる」とボウルズ代表は言う。

「だから月曜日からチームが修復に取り組むことになる」

「実際に見てみるまでは、とても難しい。写真とNDT(非破壊検査)を使って、ここでも検査はした。だが4〜5つのプランがある」

 では、鈴鹿には2台のシャシーが間に合うとボウルズ代表は100%確信しているのだろうか?

「シャシーがイギリスに戻り、我々が持っている写真やNDTだけでなく、彼らがきちんと検査し、きちんと手をいれるまでは、誰も100%の確証を得ることはできない」とボウルズ代表は言う。

「私が言えるのは、これまでに得た証拠と一晩で完了した作業に基づいて、全てが完全に実現可能であるように見えるということだ」

「最悪の状態にあるシャシーが復活するのを私は見てきた。100%という数字を出すのは難しいし、データ屋として100%とは言えない。しかし、非常に高い確立で全て上手くいくだろう」

 楽観的なボウルズ代表はオーストラリアGPでのこうした状況もポジティブに捉えており、モチベーションを高めるツールとして逆に活用しようとしている。

 またボウルズ代表は、なぜファクトリーでのプロセスを変える必要があるのか、その明確な根拠を語った。

「昨日私がしたことのひとつはチームをひとつにまとめ、なぜ私が(サージェントについて)このような決断を下したのか、なぜチームとして分裂せず、団結しなければならないのかを説明することだった」とボウルズ代表は語った。

「そして、なぜ今回を変化のキッカケにしなければならないのかを説明した。モータースポーツの最高峰において、2台のマシンをグリッドに送り出せないという状況は決してあってはならない」

「しかし私がずっと言ってきたのは、この変化のキッカケ、つまり現在ウイリアムズで実施されている変化は、1ヵ月や1年で行なわれるモノではなく、何年もかけていくモノだ。そしてこれら全ての問題を解決していく」

「変化の結果は目に見えている。それが第3️シャシーが用意できていないということだ」

「これはむしろ、私が組織内の強みとして活用しようとしている表れであり、我々が変わろうとしている結果であり、結果としてこれが上手くいくと確信している理由なんだ」

「今回起こったことを、フラストレーションとしてではなく、我々がなぜこのようなことを迅速に行なう必要があるのかというキッカケとして捉えてほしい」

 そのプロセスの一環として、レースチーム全体がアルボンの週末に集中している。ウイリアムズのガレージ内に隔たりはない。

 一方、チームがまだ“ジリ貧”状態から抜け出せていないのも事実。アルボンはオーストラリアGP予選で12番手となったが、決勝で2回目の大クラッシュを喫する訳にはいかないし、それは次戦日本GPでも同じだ。

 難易度の高い鈴鹿でドライバーのどちらかが大きなアクシデントに見舞われても、スペアはない。ドライバーはリスクを百も承知だとボウルズ代表は言う。

「初日の結果で、彼らは現段階でリスクがないことを充分に理解しているはずだ」とボウルズ代表は言う。

「面白い心理トリックだ。私はドライバーにリスクを冒すなと伝えている。彼らはレーシングドライバーで、だから私は彼らに給料を払っている。彼らに合理的な範囲で可能な、絶対的な限界までプッシュしてもらうために払っているんだ」

「彼らには全くもって普通のことを求めている。ある面では悪いことを求めているかもしれない。それに対して(現状は)私がドライバーに対するやり方と違っている」

「しかしこの24時間で起こったことから、彼らは我々がどのような状況に置かれているのかを充分理解していると思う」