2024年の2月5日、日本にとって大きなニュースが飛び込んできた。ウイリアムズが2024年のF1マシンカラーリングをお披露目したのと同時に、日本のコマツと複数年のプリンシパルパートナー契約を結んだことが発表された。その経緯や今後の展開などについて、コマツに話を訊いた。

 F1における名門プライベーターであるウイリアムズと建設・鉱山機械やユーティリティ機器、林業機械や産業機械などの分野において世界的なシェアを誇るコマツの提携は、2月の発表時には日本でも大きな話題を呼んだ。

 ウイリアムズFW46のマシンサイドやコックピット前には、“KOMATSU”と大きくロゴが掲出され、ドライバーのアレクサンダー・アルボンとローガン・サージェントのふたりが着用するホワイト基調のレーシングスーツ袖口にも大きくロゴが掲出されている。

 またそうした日本メーカーのF1界における露出拡大というだけでなく、ウイリアムズ全盛期の1980年代〜1990年代にかけてチームがコマツと技術提携を結んでいた過去から、今回のパートナーシップではどのような取り組みが行なわれるのかについても関心が集まった。

 では、そもそもなぜコマツはF1、そしてウイリアムズを選んだのだろうか?

 F1日本GPが行なわれた鈴鹿サーキットで、コマツのグローバルブランドトランスフォーメーション副代表を務めるトッド・コノリーにパートナーシップ締結の経緯を訊くと、F1を通じたコマツの認知度向上が大きな理由のひとつだと説明した。

「我々は100年以上の歴史を持つ会社で、全世界で6万4000人の従業員を抱えるまでに規模が大きくなった。そして成功と成長を続けることができた理由は、我々の人材だ」とコノリーは言う。

「だから我々は従業員に投資し、そのおかげでビジネスを成長させることができた。そして将来を見据えて、コマツで働きたいと思う次世代の人々を増やす手段を見つける必要があった」

「そこで我々はどうやろうかと考えた。というのもコマツのことを知っている人は我々のところで働きたいと思っているが、知らない人にとっては機会がないのだ」

「我々は世界中の様々なスポーツカテゴリーを見て、我々の認知度を高める上でベストな選択肢はどれか検討しようとした。その過程の中でF1が最適だとなった。最もグローバルで、とても良い訴求があり、テクノロジーとサステナビリティの調和が取れているから、我々はF1にしようと決めたのだ」

「そして次にどのチームと組むかを決める必要があった。我々として一番重要な要素は、我々と似た価値観を持ち、長期に渡って組むことができるチームを見つけることだった。そしてウイリアムズは我々にとってピッタリだった」

「我々は野心と忍耐力、調和性、誠実さに重点を置いているが、ウイリアムズもとても似た価値観を持っていると思う。だから我々はウイリアムズを選んだのだ」

 コノリーはそう語るのものの、F1チームの主要スポンサーになることは並大抵の決断ではない。F1マシンは”走る広告塔”だが、レース結果によってはブランドとって好ましくない影響が生まれる可能性がある。今回の提携にもリスクが伴うのではないか? とコノリーに訊くと彼は次のように答えた。

「我々は今回の提携をギャンブルだとは思っていないし、我々がパートナーとしてウイリアムズを選んだ理由は、彼らがレースで勝つか、今年のチャンピオンになるかということではない」

「もちろん、レーシングチームであるウイリアムズにとっては重要なことだ。ただ我々にとっては、価値観の共有やワンチームとしてどう協力できるかが重要なのだ」

「我々の従業員はこの関係から恩恵を受けることができる。レースに勝つことは重要だが、要素はそれだけではない」

 またコノリーは、今回のパートナーシップが将来的に技術提携にまで発展する可能性を否定せず、ウイリアムズとコマツが共に掲げる“脱炭素化”という目標に限っては協力するかもしれないと明かした。

「(パートナーシップが)コース上まで発展する可能性はあると思うが、現時点で我々はプリンシパルパートナーとして最初の一歩、一歩一歩進むことに集中している。もちろん、ウイリアムズとコマツは脱炭素化という似たゴールを持っている。将来的にこのトピックについて協力する可能性はあるが、現在のマシンに対してはない」

 コノリーはそう語り、直接的な支援として、コマツがウイリアムズに工作機械を提供する可能性を示唆した。

「間違いなく、そういう可能性はあるだろう。そうした機会は我々のビジネスに直結していると思う。我々がウイリアムズから学ぶことができる機会もあるだろうし、ウイリアムズ(アドバンスド)テクノロジーズがコマツのビジネスに活路を見出すこともできるだろう」

 ただそうしたコース上の結果に直接的に関係する部分よりも、むしろ人材面での交流が相互にプラスαの価値を生むとコノリーは説明した。

「個人的には、我々の人材面で一番大きなチャンスがあると思っている」とコノリー続ける。

「実際、鈴鹿にもコマツの研修生が来ている。それは(前戦)オーストラリアでも同じで、我々のトップメカニックふたりがウイリアムズに帯同して、ガレージ内やレース中にウイリアムズがどのようなオペレーションをしているのかを学んだ」

「今回のレースも同様のことが行なわれて、実際に今年は8レースで実施する。メカニックを呼んで彼らが学びを得るのだ。素晴らしい情報交換、素晴らしいスキルの交流の場になっている。そのうちに、機械的な分野だけでなく、他のエンジニアリング技術、データサイエンス、材料科学などにも広がっていくとも思う」

 オーストラリアGPの際にはサージェントが、日本GPの際にはアルボンがウイリアムズのチームスタッフと共にコマツの工場を見学。一方コマツのスタッフもイギリス・グローブにあるウイリアムズのファクトリーを訪れるなど、人材を介した技術交流が行なわれている。

「火曜日(4月9日)に、24か25人の小規模グループでグローブへ向かうことになっている。そのうち我々が訪問する回数も増えると思う」とコノリーは言う。

「実際、F1と我々の機械には似た技術がいくつか使われている。コマツにはF1のように運動エネルギー回生システムを使用した機械がふたつあり、それらはアメリカで製造されている。また大阪の工場では、F1で見られテクノロジーと似たウルトラキャパシタを使用したハイブリッド機械も製造している。相似するテクノロジーが沢山あるのだ」

 なおウイリアムズでコマーシャルディレクターを務めるジェームズ・バウワー曰く、コマツとの提携の一環として、チームはSTEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野で”野心的かつ現実的な”プログラムを開始し、多様性や包括性という面でも、コマツがF1直下の女性限定フォーミュラであるF1アカデミーでのウイリアムズの育成プログラムを主要パートナーとしてサポートしているという。

「ウイリアムズの視点から言うと、我々と似たブランドエクイティ、平たく言えば我々のブランドを代表するかのようなパートナーを探している。そしてコマツは見ての通り、グローバルリーダーだ」

 バウアーはそう語る。

「革新やテクノロジー、忍耐力が全てだ。我々はSTEM分野に関するプログラムにも取り組んでいて、この分野に若い人々を招き入れるパートナーシップも始動した。プログラムは世界の若手エンジニアに向けて行なわれるモノで、多様性や包括性についても考えられている。それがウイリアムズやパートナーシップにより多くの人々を集めることに繋がっている」

「コマツの施設にドライバーと19人のスタッフが訪れたが、我々のチーム代表(ジェームス・ボウルズ)ですら非常に洗練されたエンジニアリングを見るために、施設を訪問することに興味を示していた」