2024年からウイリアムズF1の育成チーム“ウイリアムズ・レーシング・ドライバーアカデミー”に加入した13歳の松井沙麗。彼女について同チームのスポーティングディレクターであり育成プログラムを取り仕切るスヴェン・スミーツは、「間違いなくスピードが強みのひとつだ」と語った。

 2010年生まれの松井は2016年にカートキャリアをスタートすると、初レースの翌月には初優勝。2020年には女性ドライバー初となる全日本ジュニアカート選手権FP-Jrカデットクラス初優勝を果たした。

 2022年に松井は、FIAのガールズ・オン・トラックに参加し、ファイナリストまで勝ち残った。これを見ていた名門カートチームのカートリパブリックがウイリアムズ育成に松井の獲得を勧めたという。

 それは新進気鋭の女性ドライバーを探していたウイリアムズにとっても願ってもない話だった。というのもウイリアムズは今年から、F1直下の女性限定フォーミュラであるF1アカデミーにリア・ブロック(あの故ケン・ブロックの娘!)を育成ドライバーとして送り込んでいるものの、シリーズのレギュレーション上、全ドライバーの出場上限が2シーズンまでと定められているため、その後任ドライバーを探していたのだ。

「知っての通り、我々は今年からF1直下のF1アカデミープログラムに入り、ドライバーとしてリア・ブロックを送り込んでいる」

 松井が育成に加入した経緯について、スミーツはそう語った。

「ただリアは2年間しか参戦できないから、その後は時を待つか上のカテゴリーに進む必要がある。そのため我々も、F1アカデミーのために次なるドライバーを既に探していた」

「数年前、サラがカートを使ったFIAのプログラム(FIAガールズ・オン・トラック)のためにヨーロッパへ来たが、そこに参加していたチームのひとつであるカートリパブリックと話をしたのだ」

「我々としてはピラミッド型に後継ドライバーを置いていくことが重要で、カートリパブリックは、日本とは全く異なるカート文化を持つヨーロッパに初めて来たサラに対して、非常に良い印象を持っていた」

「そこで我々は彼女とその両親と話す機会を得て、モータースポーツのキャリアを築いていきたいと彼女が思っているかどうかを聞いた。そこで彼らはイエスと答え、彼女はアカデミーに入ったのだ」

 ウイリアムズは松井のどのようなところを高く評価しているのだろうか? 強みについてスミーツに訊くと彼は、スピードと理解力を挙げた。

「現時点では、そのスピードだと思う。間違いなくそれがひとつの強みだと思う」とスミーツは語る。

「そして彼女はとても落ち着いていて、人の話をよく聞いている。彼女は英語のリスニング能力はとても高いから、これから向上させる必要があるのは話す部分だけだ」

「エンジニアが言ったことを彼女は聞き、理解して実行に移している。若い頃にはとても重要なことだ」

 今年はWSKやチャンピオン・オブ・フューチャー・アカデミー・プログラムの他に、カート世界選手権にもOKJクラスで参戦する松井。以前のインタビューで彼女自身も認識している通り、当面の目標はF4規格のF1アカデミー挑戦だ。

 松井はF1アカデミーへの出場が可能は16歳になるまではヨーロッパをカート活動の舞台としつつ、育成プログラムを通じて腕を磨いていくことになる。

 そしてスミーツは、4つの方向から松井をプロのアスリートとして伸ばしていくと説明した。

「アカデミーとしては、4本の柱を立てている。ひとつ目はもちろんドライビングプログラムだ。カートから四輪に上がるためのトレーニングが始まったら、すぐに我々からドライビングコーチが派遣され、テストなどを通じて四輪でのドライビングスキルを高めるためのサポートを行なう」とスミーツは語った。

「また我々はシミュレータプログラムも提供する。彼女に関しては、現時点で日本とヨーロッパを行き来しているから、おそらく来年の年明けから始めることになる。世界選手権に向けてイングランドに1ヵ月程度滞在する時には、何度かシミュレータに乗せることになると思う。これはクルマのセットアップや走らせ方を学ぶためのモノだ」

「ここ4週間は彼女にパーソナルトレーナーが付いていて、これは身体的なモノからメンタルヘルス、栄養学、どう振る舞うべきか、プロのアスリートになるための方法というところにも関係している」

「そして我々の4本目の柱はメディアトレーニングだ。スポンサーと話す時もあれば、メディアと話す時やエンジニアと話す時もある。話し相手は異なり、全てが異なるコミュニケーションになる。そしてより良くできる領域はあるものだ」

「みんながみんな自然と話せる訳ではないし、話すことが好きではない人もいる。パフォーマンスが良い時はメディアもとても親切に接してくれるが、物事が良くない方向へ進んだりパフォーマンスが不十分だったりすると、メディアの中には優しくない人も出てくる。とはいえ、ただ立ち去ることもできないから、どう対応すべきか、どう質問答えるべきか、というのを身につけることが必要だ」

「我々としては、若い頃から(メディアトレーニングを)スタートすることがとても重要だと考えている。同時に個性を失わないようにすることも重要だ。みんなそれぞれに異なるし、その人らしくいるべきだからね。そうでなければロボットも同然だ。そして我々にロボットは必要ない」

 なお今後の松井の参戦計画についてスミーツは、順調に成績を残すことができた場合、2027年のF1アカデミー昇格を見込んでいると説明。その後にはFIA F3、FIA F2といったF1への道も用意されていることを強調した。

「サラは今年OKJをやることになる。来年はOKJをフルでやって、年の終わりに良いシーズンを送ることができたかを判断し、次の年は(カート最高峰の)OKとF4テストの複合プログラムを行なうことになる。そのまま行けば、その翌年はF1アカデミーに乗ることになる」

「全てはパフォーマンス次第だが、そこからはフォーミュラリージョナルやFIA F3、FIA F2へ進むことになる。どうなるか見てみよう」