「選手たちにはサッカー小僧であってほしいんです。そのためにはどうするかと言ったら、サッカーと向き合うしかない。サッカーの本質と向き合って、自分でサッカーとは何かということを考えないと、サッカー選手としての向上はないよ、と。流経に来たから上手くなる訳じゃないし、日本代表に行ってきたから上手くなる訳じゃない。そうじゃなくて、自分でサッカーとは何かということを考えられれば、面白くもなるし、これでいいやと思わないじゃないですか」。名門の流通経済大柏高校を率いて2年目。榎本雅大監督の溢れる情熱は、すべて選手たちへの愛情に繋がっている。

コミュニケーションの達人だ。サングラス姿でテクニカルエリアを闊歩し、大声を張り上げるのはあくまで真剣勝負に臨む時の姿。普段は温厚であり、ユーモアも抜群。試合に訪れた指導者も、スカウト陣も、メディアの人間も、誰もが話を聞きたくなる雰囲気を、榎本は持っている。

選手との付き合い方も、考え方は明確。「やっぱりフランクに付き合っていかないと。プロに行ったらオレと同い年の中村俊輔とサッカーの話ができないといけないんだから、『憧れていた選手がいる』ってプレーできなかったらお話にならない訳で。だから、“気を付け”はできるけど、話ができなかったら『ここに何しに来たのよ?』っていうね」。

清水エスパルスユース戦の終盤。センターバックの田口空我が足を攣らせてしまい、プレー続行が難しくなった時に、チームのキャプテンを託されている渋谷諒太は瞬時に現状を理解し、ベンチにサインを出したという。「シブがもう『オレがセンターバックですよね』って。そんなヤツいないでしょ。そういう部分も気持ちいいですよね。『ああ、行けますけど』みたいな(笑)」と榎本。渋谷の素晴らしい判断力もあるが、その自主性を養える日常を指揮官も含めたコーチングスタッフが作っていることも、流通経済大柏が誇る実力に繋がっている。

「言葉の使い方がわからないなと思って、自分が正しいと思っていることを言わないヤツもいますけど、口の利き方なんて後で注意されればいいんですよ。考えは伝えた訳だから、そこで後悔は絶対しないはずで。『オマエ、口の利き方がなってねえよ』というのも、もちろん社会に通用する部分としては必要なのかもしれない。だけど、たとえば英語だと言語として“壁”がないじゃないですか。それを凄く感じるんですよね。だから、オレたち指導者の挑戦はもっと選手から引き出さないと。『あのシーンどう思った?』みたいなことをオレが聞いた上で、『それは甘えてるな』とか、『そのジャッジだったらしょうがなかったかな』と思えばいい訳で、全部が全部『オマエら!』とか『気合入れろ!』ってなっちゃうと、さっき言っていた『サッカーって何なの?』を考える所に繋がらないから」。

「だから、一番理想的なのはベンチで見ていて、『ああ、コレは凄いね』って(笑) そういう可能性って選手は絶対秘めていると思う。今はいろいろな意味でチャンスだと思いますよね」。

率直に言って、今年の流通経済大柏は強い。選手が自分たちで状況を判断し、その上でサッカーを楽しんでいることが、ピッチを見ていればよくわかる。その環境を創り上げている大きな要素が、榎本が惜しみなく注ぐ選手たちへの愛情であることもまた、見逃してはいけない。

文 土屋雅史