終盤の上り区間で一度は番手を下げながら、何とか位置を取り戻してのスプリント。もはや力業でレースを完成させた。マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が第5ステージを制し、これで今大会3勝目。開幕5ステージで3回勝ったのは、28年前のマリオ・チポリーニ以来。そのときは第4ステージまでに3勝を挙げていたが、ピーダスンの勢いもすさまじい。昨年のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)でさえ、そこまでライバルを抑え込むことはできなかった。

「最後の20kmは本当に苦しくて、スプリントにチャレンジできるか確信を持てずにいたんだ。集団の前方をキープするだけでも一苦労だったんだからね。幸運だったのは、いざスプリントをするとなったときにわずかにエネルギーが残っていたこと。マリア・ローザを着て勝つなんて信じられないよ!」(ピーダスン)

前日のステージで落車し手首を負傷したセーアン・クラーウアナスン(リドル・トレック)が出走できず、180選手が151kmのステージに挑んだ。

この日もファーストアタックをきっかけに逃げのグループが形成される。ジョスエ・エピス(アルケア・B&Bホテルズ)のアクションにダヴィデ・バイス(チーム ポルティ・ビジットマルタ)とロレンツォ・ミレージ(モビスター チーム)が続き、3人は集団に対して2分前後の差で進行。

形勢が変わることなく、42.5km地点の中間スプリント1回目、76.8km地点の2回目と通過していく。メイン集団ではチーム ヴィスマ・リースアバイクが隊列を組んでオラフ・コーイで狙うかと思わせたが、どちらもピーダスンが抜け出して全体の4位で通過。現在はマリア・ローザを着ているが、先々のチクラミーノへのシフトを見据えて着実にポイントを重ねる。それぞれ3点を加算させた。

レースは終盤に移り、大小の丘越えが始まると先頭ではバイスがアタック。これにミレージが反応し、エピスを振り切って2人逃げへ。その流れのまま4級山岳モンテスカリオーゾへと入って、最大14%の急坂を駆け上がった。

この日唯一のカテゴリー山岳は、スタート前の予想通りにレース展開に大きな影響を及ぼした。先頭2人から数十秒差で登坂を開始したメイン集団では、リーダーチームのリドル・トレックが猛プッシュ。一瞬にして分断された集団の後方では、前日勝ったカスペル・ファンウーデン(チーム ピクニック・ポストNL)やコーイら有力スプリンターの姿が。スプリンターの多くが前方で上り切れず、最終盤を前にステージ優勝にトライする権利を失った。

長く逃げ続けたバイスとミレージだったが、メイン集団の勢いをかわすことはできず残り13kmで集団へと引き戻される。プロトンはここから先、フィニッシュを目指すのみ。ジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ・XDS)が牽引を担って最終盤を突き進んでいく。フィニッシュまで10kmを切ると、Q36.5プロサイクリングチームやイスラエル・プレミアテックも上がってくる。主導権争いが混沌としてきた。

フィニッシュ地・マテラの市街地へと入って、残りは2.5km。10%級の上りでプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が先頭に立ち、これをマティアス・ヴァチェク(リドル・トレック)がチェック。この流れのままヴァチェクが集団を引っ張ると、チームメートにしてエーススプリンターのピーダスンがポジションを下げてしまう。

「正直、“今日は終わり”だなと思ったよ。もしログリッチが先行するようなら、そのままヴァチェクについていってもらおうと思っていたんだ。僕は苦しかったし、勝負するなら彼の方がチャンスはあるだろうと感じていたからね。ただ、集団が割れなかったし、僕も何とか踏みとどまれたから、ヴァチェクに無線で“ペースを落としてくれ”と伝えたんだ」(ピーダスン)

短い下りや連続コーナーを利用してピーダスンがポジションを取り戻している間、ヴァチェクが絶妙なペーシングで他選手のアクションを許さない。ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)が先頭をうかがう動きを見せたが、大きな変化はもたらさない。ピーダスンがヴァチェクの番手に“復帰”すると、アルペシン・ドゥクーニンクやチーム ピクニック・ポストNLと競り合いながら、最後の1kmに突入した。

最後の主導権争いでもヴァチェクは負けなかった。集団を長く伸ばして最終コーナーを抜けると、ピーダスンは最高のポジションからスプリントを開始。すぐ後ろにつけていたトーマス・ピドコック(Q36.5プロサイクリングチーム)やオールイス・アウラール(モビスター チーム)、さらにはバリケード側からエドアルド・ザンバニーニ(バーレーン・ヴィクトリアス)がすり抜けてきたが、先頭は譲らず。

「これまでのキャリアでも一番と言って良いほど最高のパフォーマンスができている。ここまでの5日間は想像をはるかに超えたものになっているよ。でも、これはチームメートなしでは実現できなかったんだ。特にヴァチェクだよね。強さには驚かされるし、今日だって一日中僕のことをチェックしながらペースのコントロールをしてくれたんだからね」(ピーダスン)

勝者が称えたヴァチェクに、今大会のブレイクスルーのムードが漂っている。23歳ながらプロキャリアはすでに5年目。過去にUAEツアーでのステージ優勝経験はあるが、いよいよ本格的にトップ・オブ・トップのポジションを捉えた感がある。

「ピーダスンからはたくさんのことを学んでいるんだ。いつかは彼と同じようにクラシックレースで活躍したいし、グランツールでステージ優勝もしたい。彼のようにチームを統率し、いつだって冷静でいられるようになりたい。その姿こそが真のリーダーなんだ」(ヴァチェク)

そんな“真のリーダー”は、第5ステージを前に現チームと残りのキャリアをともにすると正式に発表。トレック・セガフレード時代の2017年から続く同チームとの旅は、さらに続くこととなる。まだ29歳、このストーリーの終わりはまだまだ先である。

「このチームは第二の家族のような存在だ。どんなときだって心からくつろげる環境なんだ。ここであれば、僕はいつかモニュメントを勝てるはずだよ。そして、信頼されるリーダーになって若いライダーを後押ししていきたいとも思っている」(ピーダスン)

ヴァチェクとのホットライン形成は、“信頼されるリーダー”としての大きなミッションになる。

続く第6ステージは、今大会最長の227km。目的地はナポリ。この地にジロが達するときは、大抵スプリントフィニッシュとなるが今回は果たして。前半から中盤にかけては大小のアップダウンをこなすが、最後の約80kmは一転して平坦。主催者設定では星2つのフラットステージ。セオリー通りであればスプリントでレースクローズだ。

「今日(第5ステージ)よりも本来の形でスプリントすることになるんじゃないかな。厳しい戦いになると思うけど、ベストを尽くすよ。ナポリでは良い思い出があるからね」(ピーダスン)

同地が舞台だった2023年の第6ステージで、ピーダスンはジロ初勝利を挙げている。

文:福光 俊介