休息日前日。マッシフ・サントラル(中央山塊)を進む第15ステージは、南仏で一番規模の大きな家畜市が行われるレサックの市場の前からスタートした。スペインの国境からは車で3時間近くかかる場所のはずだが、モヴィスターチームのバスの前にはスペイン人ファンがぎっしりと並んだ。チームバスの入り口にはのれんのようなものがかけられ、中が見えないようになっているが、選手たちが降りてくると脚だけが見える。何度か別の脚を見間違えて、のれんから出てくる前に「ナイロー!」と声をかけてしまったが、彼らが待ちに待ったキンタナは最後に降りてきた。今度の脚は間違えようがない。よく日に灼けて、ひざの上にも横にも、がっしりとした筋肉がついている。顔を出す前から、ナイロ!、ナイロ!の声が飛ぶ。

じりじりとタイムを失いつつあるキンタナだが、いつも穏やかだ。今日は、ちょっと微笑んでバスを降りてきた。子供たちが、ノートとペンを必死に突き出す。キンタナが少し体を傾けてサインをする。子供たちは、完全に心酔したような表情で、キンタナの顔をのぞきこんでいる。大スターに、一番近づけた瞬間だ。
レースでは、バウク・モレマがゴール前27kmからロング・アタックを成功させた。オランダやベルギーのレースのような強い風が向かい側から吹きつけたが、サン・セバスティアンの勝者はひるまず、ル・ピュイで初めてのツール区間優勝をものにした。

誰もが待ち望んだ2回目の休息日は、あっという間に過ぎ去った。足を軽く回すだけの練習走行に、たくさんの睡眠とマッサージ。選手たちが次に立ち止まることができるのは、レースが終わったとき。シャンゼリゼですべての道のりを走り終えたときだ。

休息日明けは、マッシフ・サントラルから、ローヌ河を越えてアルプスの足元に辿り着くステージ。ピレネーのあの一日以来、一粒の雨も落ちてこず、チームのスタッフは、選手の体を冷やす氷の準備で今日も忙しい。レース前半のアップダウンにペースアップが加わり、ピュア・スプリンターの多くは後方に脱落した。一昨日ステージ優勝をものにし、新たな意欲であと一勝を、グリーンのジャージを追ったマシューズが、僅差のスプリントでボアッソンハーゲンを押さえこみ、今大会2勝目。ポイントでは、キッテルに30ポイント差に迫った。ジャン・ジョーレ広場のフィニッシュラインを越えたマシューズは、『(合わせて)3勝目だよ!』と叫びながら、チームメートに抱きついた。そのショットを撮ろうとカメラマンやTVクルーが殺到し、誰もがもみくちゃになり、マシューズの姿は見えなくなったが、その笑い声だけはいつまでも聞こえ続けていた。実のところ、この直前に、スプリントの進行路を妨害したとしてデゲンコルプとマシューズの間にいざこざが発生していたが、この件はその後大きな進展はないまま収束した。

10日ぶりに、ツールがアルプスに帰ってきた。アルプスの玄関口から奥へ奥へと進んでいくこれからの2日間が、今大会最後の山岳ステージだ。この日は直接ゴールには向かわず、オルノン、クロワ・ド・フェール、テレグラフ、ガリビエを車で走ったが、途中で気がかりなニュースが入ってきた。レース序盤でキッテルが落車。軽い擦過傷程度ではないらしい。すぐに嫌な予感がした。クロワ・ド・フェールは何度か車で走ったことがあるが、山頂まで、気が遠くなるほど長い道のりだ。

ゴールのセレ・シェヴァリエについてから知ったことだが、実際にはキッテルは、100kmを超える距離を走り抜いた。クロワ・ド・フェールの24kmを上りきり、麓まで下ったところで、走り続けることをあきらめた。落車の負傷だけでなく、数日前から体調を崩していたという。テレグラフとガリビエという、合わせて30km近い上りが彼を阻んだ。父親とキャンプをして、初めて生でツールを見たという、ヴァロワールの谷間には届かずじまいだった。
​若きプリモ・ログリッチェが大金星をあげた​ゴール地では、また別のドラマが繰り広げられていた。5月にフランス大統領に就任したエマニュエル・マクロンがツールを訪問したのだ。もともと厳重だった警備はさらに厳重になり、ポディウムまわりのセレモニーはいつもの数倍の時間をかけて進行した。大統領がいる付近は通行できなくなり、通れるようになるまで、何分も足止めされた。チームスカイの関係者は口をそろえて「そんなことはないよ、いつもと同じで、クリスはとてもリラックスしているよ!」と言っていたが、本当に珍しいことに、レース後のクリス・フルームは少しイライラしているように見えた。「もしかしたら、早くホテルに帰って休みたい、くらいのことは考えていたかもしれないけれど…」

『これまでを振り返ってみると、アルプスではけっこう悪いことが起こってきたから・・・』と言うフルームだったが、結果的にはアルプスでの2日目も、悪いことは起こらなかった。今ツール最後の山岳ステージ、超級イゾワール峠の山頂を目指す第18ステージ、ゴールから6.5km手前でコンタドールとともにアタックをかけたバルギルは、先行するアタプーマを捕らえ、そのまま単独で山頂を目指した。その背後では、総合争いの最後の争いが繰り広げられた。バルデのアタックにフルームが応じるが、ウランも遅れをとらない。総合でバルデはウランをかわして2位に順位を上げ、アルは5位に後退した。マイヨジョーヌをほぼ手中に収めたフルームは、残り2ステージに気を引きしめながらも、リラックスした笑顔で山頂での会見をあとにした。

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