私たちの日常の豊かさを支えるテクノロジー。小学校で一人ひとりにタブレットが支給され始め、ゆくゆくは「みんなが知識を持っている」ことが前提の社会になる。そのとき重要なのは、知識を応用し新しい価値を生み出す発想力だ。

「通りすがりの天才」こと川田十夢は、ARなどテクノロジーを用いたアイデアで、既存のモノ・コトを“拡張”してきた。アートや芸能などジャンルを問わない。その柔軟な発想力は、どのように養ったのか? 子どもの頃の“遊び”や、今の学校教育に足りないと感じる点、アイデア力を鍛えるために日常で行っていることを訊いた。

教育の“枠”から外れたところで育まれた力

──川田さんのお話から、発想力を養うヒントを探りたいと思っています。子どもの頃はどんな遊びをされていましたか?

川田:何かを分解して、違うモノを生み出すのが好きでしたね。目覚まし時計を分解して別の部品と組み合わせて朝をお知らせしてくれるモビルスーツにしたりとか。単につくりかえるだけでなく、そこにあるメカニズムを別のモノに宿らせることを、小学生のころから遊びとしてやっていました。あとは、プログラムという概念を知る前から、「好きなテレビゲームのキャラは、なぜこういうジャンプをするのだろう」と計算式を書いたこともありました。当時は先生に「こんなの教えてないぞ」と言われましたけど(笑)、大人になって知識がついたあと、本当はいけないんですけどカセットからプログラムを抜き出して答え合わせをしたら、ちゃんと合っていましたね。
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――「なぜなのか考え、手を動かす」の積み重ねが、現在の活動につながるんですね。応用力を身につけるという観点で、学校教育に足りないと思う点はありますか。

川田:時間割が精密に決まっちゃっている弊害がすごく出ているなと思います。たとえば算数は、算数で習った公式を使って解けばいいことはわかるけど、本当の応用力やクリエイティブって、何で得た知識かわからないものを総動員させて答えをみつけることだと思うんです。だから、なにか時間割を離れたものがあるといいですよね。

僕も学校の点数はぜんぜんもらえなかったんですよ。「太宰治の『走れメロス』を読んでメロスの気持ちを答えなさい」という課題で、「言葉にできない感情なんじゃないか」と思って、机にかけてあった習字の道具(スポイト)で答案用紙に水滴をぶわーっと散りばめて涙にも汗にもならない気持ちを表現したら、0点だったんです。「この子はおかしいんじゃないか」と親を呼ばれたこともあった。でも、大人になってこの話をすると「すごい」とウケるけど、当時は絶望でした。枠から外れても、評価すべきは評価したほうがいいと思いますね。そこからいろんな発想の種が生まれる。
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――アイデアを枯渇させないための工夫はありますか?

川田:日常的に自分に「お題」を出す習慣がありますね。例えば、「4兆円が費やされた国家事業だけど成功とは言いがたい」というようなニュースを見かけたとしたら、4兆円あれば他になにができるか考える。そのとき「10億の宝くじが4000回できる」「黒部ダムは53億円かかったから、70基以上つくれる」とか、数字に置きかえると見えてくるものがある。すぐに答える心の準備をしています。

僕がナビゲーターを務めるJ-WAVE『INNOVATION WORLD』で、テクノロジー分野のジェンダーギャップ解決に取り組む団体「Waffle」の理事に出演いただいたことがありました。「なんで女性の中でプログラムは流行らないと思いますか?」と訊いたら、「プログラム」という言葉がそもそも怖いと言うわけですよ。違う表現はないかなと、ずっと考えて思いついたのが、「組み物(くみもの)」。「(編み物みたいに)組み物教室やらない?」っていう(笑)。そういう勝手な自問自答を、勝手に日々やっています。

技術が人間の期待に追いついていない─敗北感も前に進む力に

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──川田さんは、開発ユニット・AR三兄弟の長男として活動をスタートされる前は、企業で特許開発をされていたんですよね。現在よりカタい分野だと思いますが、方向転換のきっかけは?

川田:企業にいたとき、「最初から上手に見えるミシン」の特許技術を開発しました。ミシンの工場でどこのラインで時間がとられているか可視化するようなモノで、大手工場からはすごく褒められましたけど、実際に縫っている立場からすると地獄のシステムですよね。下手な人が特定できちゃうから。技術者として技術を追求してゆくと、やっぱりどうしても冷たいものになってしまいます。自分が取った、テクノロジーの側面から見ると優秀な特許を国内外でプレゼンしていても、聴衆が笑顔にはならない。どちらかというと寒々しい表情になって。

そんな経験もあって、人の駄目なところを指摘するような技術ではなく、“できない人こそ最初からできるようになる”ものに変換するべきだと思ったんです。ARって、本質的にはそういうものですよね。わからない人が最初からわかるようにするという拡張技術だから。人が楽しくなる方向にテクノロジーを使いたい。
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――受け手がどう感じるかも重要ですよね。ひとりよがりにならず、新たなアイデアを生み出していく原動力は?

川田:僕には恒久的な敗北感があります。技術が人間の想像力に追いついていない、という。ARもAIも、こうなったら便利だな、楽しいなという人間の期待に追いついていないところがある。ほんの少しのスパンだけ期待されて、その期待が大きすぎてやがて忘れられてしまう。もっと腰を据えて開発を続ける必要がある。シリアスな話をすれば、津波などの水害も、ARの技術が逃げる方向を示せるほど発達していたら、救えた命があったかもしれないですよね。僕に限らず、技術者や開発者はみんな、そういうタイプの敗北感を常に感じていると思う。人間の期待と実際の技術のギャップを見過ごさないようにしています。ときにはそのギャップを埋めるようなネタをコントにしたり、トークにすることも心がけています。

「ARステージ」は、配信ライブならではの“虚と実”が楽しめる

川田が初期から携わる、日本最大級デジタル・クリエイティブフェス「INNOVATION WORLD FESTA」(通称・イノフェス)。今年は10月9日(土)、10日(日)に、リアルと配信のハイブリッドで開催する。川田が手がける「ARステージ」や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとのコラボレーションへの意気込みは?

――今年のイノフェスは「ACTION FOR A NEW ERA」がテーマ。アーティストのライブは、川田さんが演出を手がけるARステージもみどころです。どんなものなのでしょう?

川田:ARと言うと『ポケモン GO』のように、画面の中で動いているものを想像すると思うのですが、僕はそれ以外に肉眼で体験できるような空間演出としてのARも作っていて。六本木ヒルズの展望台で窓にプロジェクションマッピングを重ねて東京の街を星空とともに拡張するとか、人間の感覚や現実を拡張するということを続けています。最近だと、ロマンスカーミュージアムの空間演出も手がけました。距離と時間の不可逆性と伸縮性を、ほんの7分ほどで体験できるようなものです。

今回のイノフェスでもARに特化したステージをつくって、“虚と実”を同時に肉眼で味わえる演出をします。リアルと配信のハイブリット開催ということで、ステージに大型LEDモニターを3台用意して、会場にいる人もARの見え方を同時に楽しめるように工夫しています。ステイホームが常態化して配信ライブも出尽くしているけど、なかなかテクノロジー分野まで手が及んでいませんよね。ミュージシャンやアーティストの表現を増幅する手段としてライブ用の大型スピーカーや大型モニターがあったわけで、個々に環境の異なる配信先のお客さんへは、迫力が伝わりきれないところがまだまだあります。画面越しでも生でも感動できるステージを、いよいよ本腰を入れてつくりあげていかなきゃと思っています。
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――ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)との二度目のコラボレーションもありますね。

川田:Gotch(ボーカルの後藤正文)はJ-WAVE『TOPPAN INNOVATION WORLD ERA』でナビゲーターを務めています。僕がやっている『INNOVATION WORLD』の兄弟番組だと思っているけど、向こうはぜんぜんそんなことがなくて、一方的な兄弟愛を抱いてるんです。タイムリーな表現をすると、エンパシーもシンパシーもない(笑)。

アジカンって、よく映像作品の主題歌を手がけていますよね。そのとき、作品よりもバンドを目立たせるのではなく、物語の世界を拡張するような音楽を生み出している。言葉もそうだし、演奏もそう。絶妙なバランス感覚、作品との向き合い方がセンシティブな人たちだからこそ、こうして新しい試みを一緒にやることで、今回のイノフェスのテーマである「NEW ERA」を感じられるステージになると思います。

僕とGotchは同い年なんです。そして、アジカンは同年代のスーパースター。彼らと組むことで、日夜ARを研究開発する僕の活動も、次の段階に進めたらいいなと思っています。
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――トークパートでは、糸井重里さんなど各界で活躍する方が出演されますね。

川田:糸井さんが「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げたとき、あの人が捉えていたものはインターネットの可能性そのものだと思う。最初にそれを発見した人と言葉を交わしたい。ほかにも、落合陽一くんや、分身ロボットを作って体の不自由な方々をつなぐカフェを運営する吉藤オリィくんなど、各分野でいろんな可能性を広げている人たちが出演します。今、コロナでみんなふさぎこんでいるけれど、次の時代を生きるヒントみたいなものを持ち帰れるイベントになればいいなと思います。

イノフェスは現在、オンライン視聴券が発売中。2日間通して1,980円で楽しめる。詳細は公式サイトまで。

・「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI」詳細
https://www.j-wave.co.jp/iwf2021/?jw_ref=iwf21_jnw

(取材・文=西田友紀、撮影=竹内洋平)