映画『明け方の若者たち』が12月31日(金)に公開される。10〜20代から支持を集める作家、カツセマサヒコの同名小説を映像化。若者たちの等身大の青春と恋愛模様を切り取っている。劇中では2010年代を彩った楽曲がふんだんに使われ、主題歌には本作のために書き下ろされたマカロニえんぴつの新曲「ハッピーエンドへの期待は」が起用されるなど、音楽面でも注目を集めそうだ。

社会でもがき、恋に翻弄される「僕」を演じるのは北村匠海。その傍らで存在感を放つのが、親友・尚人だ。同期入社の頼れる存在で、言動には懐深さがにじみでている。しかし、彼自身も若者ゆえの葛藤があるのではないか──と想像させるリアルな若者を、井上祐貴が演じ切った。

今回は井上と、松本花奈監督にインタビュー。作品の魅力とともに、尚人という役柄を掘り下げていく。

「知ってる!」と身近に感じる作品だった

――松本監督は自ら望んで今回の映画化を実現されたとのことですが、原作を読んでどのようなところに魅力を感じられたのでしょうか。

松本:私は明大前の高校に通っていたのですが、「僕」と「彼女」の思い出の場所となっている「くじら公園」が通学路だったんです。放課後によく部活の自主練をしたり、友達と遊んだりしていたので、まさかそこが舞台になっているとは…!と驚きました。他にも、下北沢のヴィレッジヴァンガードやキリンジの「エイリアンズ」など、親しみのあるワードが沢山出てきて、自分ごととして感じられたのが魅力的でした。

――身近だからこそ感情移入もしやすかった。

松本:そうですね! 「この場所、知ってる」とか「この曲、聴いたことがある」とか、すごく身近でした。
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外見も内面も「イケメン」な尚人

――「明け方の若者たち」は主演の北村匠海さん、黒島結菜さん、そしてお隣に座っている井上祐貴さんなど若い世代の俳優が出演していることも特徴だと思いますが、今回のキャスティングはどのように決めていかれたんですか?

松本:原作を読んだ時に「僕」の周りに期待しすぎない、ちょっと脱力した掴みどころのない雰囲気がリアルで良いなと思いました。そしてその空気感を、北村さんは持っている方だなと。実は北村さんとは、お互いが中学生の時に学園ドラマで共演したことがあって…。こういった形で再会することができて嬉しかったです。「彼女」は、物事の判断基準がちゃんと自分にある人。まっすぐとした目を持つ黒島さん以外、「彼女」は考えられませんでした。

――なるほど。井上さんをキャスティングされた理由は?

松本:(井上が演じる)尚人は、イケメンであるべきだと思いました。それはもちろん容姿だけでなく、内面的にも。井上さんとはこの映画の前に『ホリミヤ』という作品でご一緒していて、そのときからイケメンだなって(笑)。

井上:あはは(笑)。嬉しいですね! ストレートすぎてびっくりしました(笑)。

松本:ホリミヤのときから、尚人は井上さんにお願いしたいと思っていました!
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――井上さんから見た松本監督はどんなイメージですか?

井上:監督をする方は、それぞれ違う世界観がもちろんあって、それが映像に反映されているのを観るのが、僕の楽しみの一つでもあります。松本監督にも、“ならでは”があるなと思ってて、常に全体を俯瞰で見ているなって感じるんです。「こういう画にしたい」「こういう映像が撮りたい」という指示が明確で、演じる側としてはすごくイメージがしやすいんです。だから今回のお話をいただいたときも、監督が松本さんと聞いて嬉しかったですし、イメージもしやすくて。同世代だからなのか、松本監督だからなのかというのは正直わからないけど、たぶんどっちもが相まって、今回の現場もすごく楽しい現場になりました。
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「緊張にも助けられた」新入社員をリアルに演じる

――松本監督はいかがですか? 再び、井上さんとご一緒したわけですが。

松本:井上さんは、アツい人だと思いました。お芝居に対してはもちろん、”生きる”ことに対しての熱量がすごく高い。それが今回の尚人というキャラクターにも結びついていたんじゃないかな、と。後、ヒゲが生えるととっても大人っぽくなるんだ!と感じました。

――確かに! ヒゲ姿の井上さんは完全に26歳でしたよね。

松本:そうです、そうです!

井上:僕、あまりヒゲが生えるタイプではないので、ヒゲの自分を見るのがすごく新鮮だったし、新しい自分に出会えたような気がしましたね。あと、尚人はわりと順撮りだったんですよ。だから、最初の登場シーンがクランクインで。経験したことのない新入社員という役で最初はいろんなことを考えたりしたんですけど、新入社員を経験した友人に「最初は何もわからなかったよ。だから何もわかんないままでいいんじゃない?」って言われて。自分もそれに納得したんです。だからクランクインの日はよくも悪くもちょっと緊張してますし、顔もちょっと引きつったりしてて(笑)。

松本:最初から長いセリフもありましたもんね。

井上:ありました。でも、完成して観たときに、その緊張がプラスに生きているなと僕は思えたので、緊張にも助けられながらできたかなと思っています。
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ただカッコいいだけじゃない、影の努力を感じる役柄

――尚人は本当に優しい男性ですよね。北村匠海さんが演じた「僕」が憔悴しているとき、あれだけ寄り添えるのはすごいなと思いました。演じてみていかがでしたか?

井上:確かに、優しくてカッコいいというイメージがいちばん最初に来るかと思うんですけど、その裏にはきっと弱さだったり見せたくないものだったりが必ずあると思うんです。僕が台本を読んで思ったのは、尚人は普通の男の子とは違う言い回しをするなと思って。ちょっとクサいカッコつけ方だったり、憔悴している「僕」に「これを機会にいい男になろうぜ」と言ったり。そんなこと僕だったら言えないですからね(笑)。でも、演じれば演じるほど「尚人だったら言っちゃうわ」って。これが尚人なんだって思えてきて、すごく楽しくなったんですよ。でもそのカッコつけ方が尚人の強がりな部分だとも思う。尚人がちょっとカッコつけたり、クサいセリフを言うところは、最初は「僕に言えるかな?」って思っていたけど、すごく好きなシーンになりました。

――松本監督は井上さんの演技をご覧になっていかがでしたか?

松本:奥行きを感じるお芝居をされていたのが、良かったです。「僕」や「彼女」といる時の尚人はカッコ良くてクールなんだけど、きっとそれだけじゃなくて、別の人といる時の尚人は違う一面があるんだろうなってことが想像できるんですよね。

――なるほど。登場人物とおふたりは同年代ですが、物語に共感した部分はありましたか?

松本:台詞にもある「こんなはずじゃなかった」という想いでしょうか。この言葉に、現代の若者たちが抱える”ままならなさ”のすべてが形容されている気がします。自分も含めて、その”ままならなさ”とどう向き合い、これからどう生きていくかを考えるキッカケになれば良いな、と。
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井上:僕はカッコ悪いところやできないところ、できてないところはできるだけ見られたくないんですよ。それを隠すために出ちゃう言葉だったり、悟られないようにあえて強く言ってみたりとかしちゃうこともあるんですけど、尚人はその表現がカッコつけることだったのかなって思うんです。どうせ見られるならカッコよく見られたいし、なんでもできるように見られたいよって思う。そんな感情を抱きながら、きっと尚人は影で努力してるんだなとか、いろいろ考えているんだなって思うと、すごく共感というか、腑に落ちたんですよね。

――確かに尚人は、いちばん影で努力をしているタイプかもしれない。

井上:僕はそういう人だと思うんです。

松本:自分で「努力をしている」とは絶対に言わないですけどね。

キリンジ、マカロニえんぴつ…物語を広げてくれる音楽たち

――そして、劇中には2010年代を彩った楽曲が多く使われています。おふたりの青春を彩った曲もあったかと思いますが、どうですか? そういった音楽とともに映画になるということは。

井上:そこがいいですよね! なんだか不思議な感じなんですよ。映画に出てくる全てがすごく近いんです。僕は東京生まれではないし上京してきてそんなに経ってないんですけど、高円寺には思い入れがあって、それがあるだけでこの物語が自分の中で広がったというか。原作を読んだときも台本を読んだときも「なんだこれは?!」という不思議な感覚に陥りました。初めてではない感じというか、「そうそう! コレだよ」って感じ。
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――自分の日常生活で流れていた曲も合わさると余計にそう感じるのかも。

井上:そうなんですよ!

松本:RADWIMPS、キリンジ、きのこ帝国、マカロニえんぴつ…とドンピシャで聴いていた、そして今でも日常的に聴いている楽曲を劇中で流せるというのは、とても嬉しいことでした。「僕」や「彼女」、尚人の状況や心情と曲をリンクさせたいと思っていて。例えば、きのこ帝国「東京」の冒頭、「赤から青に変わる頃に〜」と楽曲が流れている時に、「僕」と「彼女」は当時、出来たばかりのスカイツリーを見に行っています。東京タワーの赤から、スカイツリーの青に変わる頃に、といったことを意識するなどしていました。

懐かしさや共感を楽しんで

――最後になりますが、「明け方の若者たち」の公開を待つファンの皆さんへ一言お願いします。

井上:理想と現実のギャップに悩みながらも夢に向かって進んでいこうとする若者たちにどこかしら共感していただけると思いますし、劇中の楽曲や場所も懐かしいと思っていただけるような部分が多いので楽しめると思います。また、前半の伏線もあるのでぜひ2回以上観て楽しんでいただければと思います。

松本:「好き」な気持ちを継続させるって、すごいことだと思っていて。何かを「好き」になるって面倒くさいし、しんどいけど……それでも悪くないかも、と思ってもらえるキッカケになったら嬉しいです。
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映画『明け方の若者たち』の詳細は公式サイト(http://akegata-movie.com/)まで。

(取材・文=笹谷淳介、撮影=竹内洋平)