「ボール見えてるぞ!」「ランナーかえそうぜ!」 攻撃に入ると、打者一人一人の性格や状況に合わせて言葉を掛ける。全国大会前の最後の練習試合。率先して盛り上げる4年生に続き、後輩たちも声を張る。守備に就いても、「ばっちこーい!」「ナイスボール!」と全員が常に声を出す。どちらが優勢なのか分からないほど、にぎやかな雰囲気を出し続けられるところがこのチームの強みだ。 川崎市立川崎高校(川崎区)定時制の軟式野球部は2年連続、全国高校定時制通信制軟式野球大会の県予選決勝で敗れた。12人の選手をまとめる4年生の丹代(たんだい)晴大主将(18)は今年、「とにかく声を出す」と決めた。6月の県予選決勝では“雰囲気野球”の力を発揮し、初の全国大会への切符をつかんだ。 丹代主将は小中学校で軟式野球をやってきた経験者。全日制の高校には受からなかった。「定時制は部活のイメージがなく、バイトをやろうと思った」。それでも試しにのぞいてみた。面白い先輩たちと、楽しい雰囲気に引かれた。1年生から入部し、すぐにレギュラーになった。 初めて、主将としてチームを引っ張る役割を与えられた。「今まで経験がなく不安だった。でも自分の思うようにやったら、みんながついてきてくれた」。試合中、全員が気兼ねなく声を掛け合えるよう、普段の関係づくりを大切にした。後輩との交流では、勉強や就職など、野球以外の相談にも乗る。 同じく1年生で入部した4年生の穴久保透輝選手(19)も、チームを支えるムードメーカーだ。中学時代はハンドボール部を途中でやめ、学校に行かないことも多かった。野球は初心者だったが、「本気でやっている先輩についていきたいと思った。つらくても踏ん張れる忍耐力がついた」。野球の楽しさを知り、学校にも毎日来るようになった。 顧問の高橋正太郎教諭(31)も「丹代は抜群の野球センスで、プレーでも引っ張ってくれる。穴久保はミスをミスとしないほど盛り上げてカバーしてくれる」と信頼を寄せる。丹代主将に誘われ、今春から女子生徒2人がマネジャーに加わった。 アルバイトなどで全員が集まる練習はなかなかできていないが、丹代主将も週5日、洋服販売の仕事をしている。「それぞれ事情もあるので仕方ない。16日の初戦まであと少しだが、勝ちに行く雰囲気をつくっていきたい」 卒業後の進路は就職一本に絞った。体を動かす仕事が希望で、消防士も勧められている。定時制高校には就職を選ぶ生徒も多い。「だからこそ高校野球の思い出をたくさんつくれるよう、全国大会でのいい経験を後輩に引き継ぎたい。自分自身も最後の大会を思いっきり楽しみたい」