障害がある従業員がサービスを提供する異色のゲストハウスが、鎌倉市に誕生した。言語障害があるスタッフが電話対応をしたり、車いすのスタッフが観光案内をしたり…。究極の「多様性の宿」で一味違った体験を客に提供できるよう、従業員たちは日々意気込んでいる。 築80年の2階建て古民家を改装した、鎌倉駅から徒歩7分のゲストハウス「彩(いろどり)鎌倉」。10月15日のオープンにあたり、全国から従業員が集まった。 紳士服店の販売員だった時に事故に遭い、転職を余儀なくされた車いすの女性。精神障害がある女性。社交的だが言語障害があるためチームワークで働くことにおっくうになっていた女性…。 共通するのは「障害があること」。しかしここは、障害者支援の場ではない。鎌倉市内でバリアフリー交流イベントや町おこしを手掛けてきた高野朋也さん(30)が2016年秋に起業し、観光業の土俵で一般向けに勝負していく株式会社「i−link−u(アイリンクユー)」だ。 特にバリアフリー客対応に限らず、国内旅行客から外国人観光客まで幅広い層の利用を想定し、3部屋9ベッドを用意した。大部分がバリアフリーだが、階段もある。 設立のきっかけは、高野さんが3年ほど前から主催する交流イベントの参加者たちの声だった。「障害があると何をやってもうまくいかない」「福祉や障害という枠から一生抜けられない」。楽しいイベントの最中にも見え隠れする彼らの不安にショックを受けた。 しかし実際のところ、元販売員の女性は接客のプロ。英語が話せるため外国人観光客を案内できる人も、文章を書くのが得意な人もいる。「障害者だから活動できないのではなく、障害者が活動できる場や機会がないだけ」と感じた。「他の宿ではできない体験をしてもらえれば新しいことだし、お客さんにとっても付加価値になる」と、高野さんは力説する。 例えば、車いすの従業員による案内で一緒に散策すれば、普段見ている風景と違った目線の景色や起伏を楽しむことができる。視覚障害がある従業員と街を歩けば、スマートフォンのカメラに縛られることなく純粋に街の空気や音を満喫できる。 広報も務める従業員の小林大晟(だいせい)さん(23)は話し始める時に詰まるなど言語障害の一種「吃音(きつおん)」がある。自身の障害を広く知ってもらおうと、あえて電話対応や受け付け役を買って出た。改装中に開催されたイベントでは早速絵本の読み聞かせを披露。参加した地域住民ら約40人からは「まるで音楽を聴くように独特の言葉のリズムを味わえた」と好評だった。 転職前は福祉作業所でウェブライターの仕事をしていた榎本佑紀さん(26)は脳性まひで手足や言語が不自由。「分け隔てなく働く、新しい仕事のやり方に注目してほしい」と広く来館を呼び掛けるとともに「自分と同じように障害があるお客さんには、当事者同士だからこそ分かる細かい配慮をしていきたい」と意気込む。 宿の特色は口コミなどで少しずつ広まり、オープン前の段階で企業から「研修施設として利用したい」といった相談も受けているといい、手応えはばっちり。今後は「視覚障害者と一緒に陶芸教室」といった独自イベントも随時開催する予定だ。 宿泊料金や空き情報は、彩電話0467(37)9471か「アイリンクユー」のウェブサイトで。