このところ、携帯電話料金の値下げを巡るニュースが増えています。9月に発足した菅義偉政権が、料金値下げを経済政策の一つとして掲げているためです。業界では、NTTによるNTTドコモの完全子会社化など、値下げ含みといえる動きが出始めました。値下げは本当に実現するのでしょうか。(西井由比子)

■東京はロンドンの3倍

 「100パーセントやる」「1割程度だったら改革にならない」

 菅義偉内閣が発足した直後の9月18日。菅首相から携帯電話料金の引き下げに向けた検討を進めるよう指示を受けた武田良太総務相は、記者団にこう発言し、値下げ実現への強い意志を示しました。

 日本の携帯料金は世界的にみて高いとされます。総務省の調べでは、データ容量が大きい20ギガバイトの場合、東京の料金はロンドンの3倍。家計への負担は軽くなく、1世帯当たりの消費支出に占める割合は、この10年で2%台半ばから3%台半ばへと増えています。

 ではなぜ、日本の携帯料金は高いのでしょうか。

 原因は、自前の通信インフラを持つドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手3社(移動体通信事業者=MNO)による市場の寡占が続き、競争原理が働いていないため−とされています。

 自前の通信インフラを持たない格安スマートフォン事業者(仮想移動体通信事業者=MVNO)も2001年に登場。自前で設備投資をせず、MNOから回線を借りて低価格でサービスを提供しています。今年6月末時点で1428社がありますが、通信速度が不安定なことなどから契約者数は頭打ち。シェア拡大には至っていません。

 菅首相は「世界でも高い料金で20%もの営業利益(率)を上げ続けている」と大手3社を批判。料金引き下げが実現しない場合は、事業者に納入を課している電波利用料の引き上げという“禁じ手”もちらつかせて値下げを迫っています。

■菅氏「4割引き下げの余地」

 菅首相は、官房長官時代から料金の引き下げを主張してきました。18年には「4割値下げする余地がある」と発言。携帯各社の価格競争を促し、翌年には料金値下げにつなげるため電気通信事業法も改正しました。

 改正では、端末の代金と通信料のセット割引が原則禁止になりました。端末の価格を安くする代わりに通信料を割高に設定するやり方を封じて、通信料を引き下げる狙いです。また、価格競争を働かせるため携帯の「乗り換え」を容易にしようと、途中解約の違約金の上限を千円に引き下げました。

 しかし、手続きの煩雑さ、不透明さなどから乗り換え市場は活性化せず、大幅な値下げにはつながっていません。今年4月には、格安スマホ(MVNO)の楽天モバイルが自前のインフラを設けて大手市場(MNO)に本格参入。「通信容量無制限」で圧倒的な安さを打ち出し、9月末には第5世代(5G)移動通信システムのサービスも開始しました。料金は、先行する大手の大容量プランの半額程度。しかし、自前の通信網のエリアが、現行の4Gですら限定的なため、契約者数は伸び悩んでいます。

■要請に大手3社動き

 大手も値下げに向け動きだしました。ソフトバンクは、20ギガ〜30ギガバイト程度で月額5千円を下回るプランの導入検討を開始。現行の料金体系で各種の割引や音声通話料を除いて50ギガバイトで月額7480円(税別)としているところを、データ通信量を小さくして割安感をアピールし、値下げ要請に応える考えとみられます。

 ドコモは親会社のNTTが株式公開買い付け(TOB)を実施中で、完全子会社化による財務基盤の強化で値下げに対応する考えを打ち出しました。KDDIも「政府の要請を真摯(しんし)に受け止め、対応を考えたい」(高橋誠社長)との姿勢を示しています。

 通信事業に詳しい日本総合研究所(東京)の浅川秀之上席主任研究員(47)は「菅政権の支持率が高いこともあり、各社とも応じざるを得ない状況でしょう」とみています。

 ただ「各社とも5Gの設備投資が進んでおらず、海外勢に後れを取っています。30年に向けて次世代規格の6Gを世界に先駆けて普及させるのが日本の目標。実現のためにも、携帯各社の国際競争力と値下げのバランスを見極めることが重要」と指摘しています。